1棟目のサービス付き高齢者向け住宅「荒川の団らん空間しろやま」を開設したのが2012年。当初は、「高齢者にとっての終の棲家になれば」という思いでしたが、医師として高齢者が抱える疾病や活動性の低下などに対して、もっと積極的に関与しなければという使命感と、高まる地域ニーズに応えるべく、今回の計画に至りました。

有限会社レッセ・フェール　代表取締役
白山医院　院長
白山 英三様

いま、緩和ケア病棟に注目が集まっており、東大阪市内や周辺地域に多くの病棟が整備されています。そういった状況からも、退院患者様の受け入れ先や転院先に課題を持つ病院が少なくないことがうかがえます。高齢者住宅がそれらの受け皿になるためには、単に「終の棲家」だけでなく、手厚い医療や介護が必要になってくるでしょう。今回、名称を「ホスピタルケアホームしろやま」としたのは、医療依存度の高い入居者様への手厚いサービスに対応したいという思いからです。

入居者様のさまざまな疾病に対応できるような医療体制を、1棟目の開設より6年をかけて徐々に整えてきました。また、医療だけでなく看護も重要だと、訪問看護ステーションを併設。私たちの場合、患者様や入居者様の囲い込みが目的ではなく、それぞれ専門の異なる医療機関や介護事業者と連携することで、『高齢者住宅という器を持った小さな病院』にしていきたいのです。ケアマネージャーさんに頼らずとも、われわれ開業医が病院に近い状態でケアを継続できるのが、こうしたサービス付き高齢者向け住宅の強みであり理想ではないでしょうか。

いままでは、高齢者住宅に入居していても「何かあれば、すぐに病院へ」というケースがほとんどだったと思います。しかし、穏やかで安らかな最期を望む方にとって、それが本当に最良なのか。ここでは居ながらにして近くの信頼できる開業医の先生から安心して医療サービスが受けられるのです。地域包括ケアの視点から見ても、今後こうした取り組みが必ず必要となると信じています。

候補地探しだけでなく、建物づくりについても大和ハウス工業さんには本当にお世話になりました。私が伝えたのは、『安らかで落ち着いた空間にしたい』ということだけ。ドアの大きさやトイレの入りやすさを考慮した提案や、壁紙一つとってもさまざまな選択肢を用意されるなど、細かな部分にまで配慮していただいたことで、非常にスムーズに計画を進めることができました。また、トイレの便器や手すり、ボタンの位置などは、「荒川の団らん空間しろやま」の運営スタッフとも協議しながら決めていくなど、“現場の声”も施設づくりには活かされています。仕上がりにはとても満足していますし、入居者様にも「ここでずっと住みたい」「終の棲家にしたい」と思っていただけるような建物になったと思います。

「ホスピタルケアホームしろやま」の完成により、全部で55室の高齢者住宅を運営することになりました。まだまだ本当に“小さな病院”かもしれませんが、『在宅復帰先としての受け皿』と『医療サービスを受けながら、穏やかに暮らせる環境の提供』という、理想的な役割を担うことができたのではないかと感じています。

また今回、“プチ病院”というコンセプトを掲げたことで、さまざまな分野の医師や事業者との交流が広がってきました。皆で協力し合い、地域のニーズに合うように連携を深めていけば、やがては地域包括ケアという目標に、ゆっくりだが着実に近づくことができると考えています。