インテリア×アート「目利きの語りごと」

木のぬくもりを感じながらモダンに住まう

東京・青山で長年ギャラリーオーナーとして、多彩なアートや手仕事、作家との出会いを重ねた川崎淳与が、「目線を少し上げて心豊かな日常を」をコンセプトに、アート、工芸、ファッションなど暮らしにまつわるさまざまなこだわりと楽しみ方をご紹介します。

私は、暮らしはすべてアートに繋がっていると思っています。「アート」というと難しく感じる人もいると思いますが、私のとらえ方では、「その人の感性に働きかけ、心を豊かにする」ものです。なので、ファッション、工芸、アートなど線引きをしないで、その人らしい感性を暮らしの中にとりいれ、家族や訪れる人たちとも育んでいけたら素敵なことだと思います。それが「住まい」の醍醐味とも言えるでしょう。
さて、今回ご紹介するのは、イタリアで特注家具の製作や巨匠エンツォ・マーリ氏をはじめデザイナーの作品製作に携わってきた藤崎均さんが手掛ける家具です。

木の表情をデザインとして楽しむ

藤崎さんの家具は、木の美しさをシンプルに表現しています。ご本人曰く、「自然が持つ味わいの奥深さを大事にしたい」と。でも木に頼るのではなく、それぞれの木の美しい部分をきちんととらえて形にするのは藤崎さんのモダンな感性ならでは。
このダイニングは、2枚の板を真ん中で合わせることでフォルムが浮き立ちます。また、それぞれの木目の個性にグラフィック的な要素を見出しています。形がシンプルだからこそ、その面白さが印象的。
「主張が強いものより、ふと気づいたら細やかな仕事が見える、そんな表現が好き」と話す通り、藤崎さんのシンプルさはじわじわと使い手を魅了していくのかもしれません。
どっしりした構えは、井戸端会議をするみたいに、気軽に人が集まってきやすく包容力も感じさせますね。木の表情を楽しみながら一緒に時を重ねていく。例えば、体をくっつけるように寄り添ってベンチに座っていた子どもたちが大きくなったとき、刻まれた思い出は家族みんなの宝物になっていることでしょう。

チェストは空間のアクセント

私は、住まいの中に小さな彫刻やシルエットの美しい花器など立体的なものを散りばめるのが好きです。置いたところの空気感がぐっと生き生きして、空間にリズムが感じられるのです。
とくに、低めのチェストの上は自分の感性を表現するコーナーを作りやすいですよ。それから、マンションの限られたスペースでは、奥行があまり深くないものをお勧めします。
藤崎さんの手掛けるチェストは、どんな空間にも合う端正な佇まいが魅力的です。技の効いたディテールは静かな美しさを放っています。
生活臭を感じさせない「見(魅)せる収納」ができるチェストと言えます。
無機質な空間にならないためにも、こうしたチェストは良いアクセントになるので、本当に気に入ったものを選びたいですね。

遊び心と技のある小物たち

我が家では、玄関や、トイレ、棚の一角などいろいろなところに小物を置いています。一か所にたくさん置くというより、さりげなくコーナーをつくる感じです。配電盤ボックスの上にも小さなオブジェを乗せていて、気がついた人だけがくすっと笑える、そんなささやかないたずら感覚もいまだに好きです。

遊び心を感じさせる小物だと、ゲストとのコミュニケーションが弾みますね。藤崎さんもそんな粋の持ち主のようです。

ダイヤモンドカットされた黒檀、欅、エノキ。光のあたり方によってキラリ。多面的だと木目の表情もまた不思議な見え方で、手の中で木の優しさに触れながらしみじみ眺めてしまいます。なんちゃって感があるけれど味わい深い……これはけっこう男性の心をくすぐりそうなオブジェです。

そして、熟練した技術が必要な組子の帯留め。組子の小箱を作っていた藤崎さんが、和装を楽しむ奥さまに作ったところから始まったそうです。

私は常々、ジュエリーも身に着けるアート、造形だと考え、ファッションを楽しんでいます。小さく切り出した木片を、釘や接着剤を使わずに組み合わせる伝統技術には感動を覚えますが、こうしたものを今の暮らしの中にさりげなく取り入れるのは、職人とアーティストの両面に携わってきた藤崎さんならではだと思います。

協力

藤崎 均:木工家具職人
日本大学芸術学部卒業後、(株)ヒノキ工芸入社。国会議事堂 衆議院本会議場改修工事、CASSINA IXY特注家具、JR九州ソニック内装(木部)製作等に携わる。2001年渡伊。ミラノに工房を構え、特注家具を製作する傍らエンツォ・マーリ氏をはじめとするデザイナーの作品のプロトタイプの製作を手がける。2007年、工房を日本に移し、グラフィックデザイナーの東川裕子さんとともにstudio fujino を開く。
http://studiofujino.com/