インテリア×アート「目利きの語りごと」

その一枚が決め手に!
空間を作り出すラグの魅力

東京・青山で長年ギャラリーオーナーとして、多彩なアートや手仕事、作家との出会いを重ねた川崎淳与が、「目線を少し上げて心豊かな日常を」をコンセプトに、アート、工芸、ファッションなど暮らしにまつわるさまざまなこだわりと楽しみ方をご紹介します。

ここ数年、ギャッベ、キリムなどラグを上手に暮らしに取り入れる方が増えてきました。実は、私は、板張りの床を素足で歩くのが好きなので、ラグや絨毯は苦手。なのですが、産地や各民族の個性がデザインや色彩に映し出され、アートのような存在感を放っているところには、やはり惹かれます。
今では、亡き母が好んで大切にしていたペルシャ絨毯を受け継いで敷いていますが、年月を経て深みが増す上質さとともに、ときおり懐かしさが蘇り、思い出も譲り受けた気がしてなかなかいいなあと思っています。ペルシャ絨毯やキリム自体も技法や文様を代々引き継いだ手仕事、ぬくもりがあるものです。
さて、今回は、手織り絨毯やキリムに魅せられ、その美しさと楽しさを広めている植木幹枝さんと家具職人の信晴さんご夫妻の、スタイリッシュな暮らし方に触れてみます。

季節を感じ、
アートピースとして楽しむテキスタイル

「遊牧民族が生活の用具として、各家庭で手織りしたトライバルラグは、母から娘へ伝わる家族の証しのようなもの。手仕事の一点ものが持つ美しさ、ひと織り、ひと織りに内包される豊かさは国や時代を超えても伝わってきます」と話す幹枝さん。
20代でキリムに出会い、清水の舞台から飛び降りる思いで購入した体験が、上質に自分らしく暮らすことに目覚めさせたそうです。

私も若いときに、えいやっと頑張って購入した骨董の大鉢や、職人技が光る装身具は、「自分らしさとは?」と、私にとっての上質な暮らしの髄を指南してくれる存在でした。
「ラグがあるのとないのとでは暮らしの深みがまったく違うという感動体験は、本当に皆さんに味わってほしい」という幹枝さんからのラグ初心者へのお勧めは、まず手頃なキリム。平織りのキリムは1年中使えます。冬、もっと暖かさが欲しい方は毛足が長めの絨毯と、季節によって素材を選ぶのもいいでしょう。写真のように同じ赤でも、キリムと絨毯では印象が違いますね。
最近ではモロッコのベニワンラグが流行っていますが、北欧的で、シンプルなデザインなので初心者の方にも取り入れやすそうです。
柄も色調もたくさんあるラグ。ソファやコンソールの前など、インテリアを構成する一部としてやや小さめのサイズを点在させると、足元にもアートが広がるようです。

空気感を切り替えてくれるラグ

ラグを置くと、その場所にあたたかみが生まれます。そこの空気が少し厚みを増すという感じ。玄関では、外と家の境界線になり、気持ちが切り替わる静かな儀式のような気がします。
「欧米の玄関マットのイメージが強いせいか、玄関ではラグを横長に置く方が多いのですが、キリムは縦糸を張って横糸を織り込んでいくので柄の見え方は縦なんですね。その美しさを楽しむためにも、縦長に置くのが理想的で、かえって奥行も出るんですよ」とラグを知り尽くす幹枝さんからのアドバイス。 
幹枝さんいわく「家の中でもメリハリをつける、ラグはゾーニングの役割をしてくれるんです」。
メリハリをつける――そう、これって住まいの中で大切なキーワード。私にとって日々の暮らしは、「ゆるやかで、でもだらしなくならないで、心地よい」の追求です 笑。
我が家ですから、のびのびできることはもちろんですが、ワンルームのリビングダイニングにおいては、いつのまにかモノが散らかり、ずるずる全体的によどんだ空気になりがち。さりげないゾーニングで自然とそれを回避できるのはいいですね。
そして、床に敷くだけでなく、壁にかけてアートとして楽しむことができるのもテキスタイルならでは。併せて彫刻を置いたら、空間が引き締まって、とてもかっこいいと思いませんか?

スタイリッシュに空間をまとめる

プリミティブや民族色が濃いものには、コンテンポラリーの要素を少し加えると抜け感が出ます。
ご主人の信晴さんが作る家具も、優しい天然の木にハードな鉄を合わせ、シャープな印象を持たせています。古いものと新しいもの、異素材の組み合わせ、この匙加減は住まいの中でもセンスが出るところです。
鉄枠に一枚板を合わせただけのシンプルな棚や台、アンティークの椅子にキリム。植木家のリビングのワンコーナーです。さまざまな要素がミックスされていますが、すっきりとモダンな空気が流れるのはナチュラルカラーと黒を基調に、甘辛バランスが整っているからでしょう。
パウル・クレーを彷彿させるパッチワークキリムに、ドットのスツールはとてもスタイリッシュな組み合わせですが、遊び心があって軽やかですね。
どのようなインテリアにするかはそれぞれの好みですが、ちょっとしたことで垢抜ける空間になるものです。

さて、秋が終わり、冬の到来。これから寒さが増してきますから、まずは足元の温かさを感じるラグから取り入れてみるのもいいかもしれません。
ラグがもたらす暮らしの深みを体験してみてください。

協力

植木信晴:天然木や鉄を使ったオリジナル家具を製作。オーダー家具や家具補修、住宅内装補修も手掛ける。JR宮島口駅改札口のベンチは信晴さんが制作。

植木幹枝:遊牧民族の手織り絨毯&キリムの魅力にはまり、暮らしに上質な暖かさを灯すアイテムを紹介している。
夫婦で広島県廿日市市にて「hippocraft gallery」をオープン。
https://www.hippocraft-rugfurniture.com/