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コラム vol.240-10
  • 土地活用法律コラム

続・土地活用・不動産投資におけるトラブル第4回 法人化や経営権の変更と借地権の譲渡

公開日:2019/01/30

POINT!

・賃借人は、賃貸人の承諾を得なければ、賃借権の譲渡、転貸はできないと定められている

・賃貸人としては、経営権の変動自体を解除事由と定めておくことも対策のひとつ

オーナー様が土地を賃貸している場合、借地人は個人であったり、株式会社などの法人であったりします。
以下の2つの事例をもとに、借地権の譲渡に該当するか否か、もし譲渡に当たるとすれば、オーナー様に無断で行われたような場合には、どのような対応が取れるのかについて説明します。

  1. <事例1>
    個人で運送業を営んでいるA氏に、土地を賃貸し、A氏が同土地上に事務所兼倉庫を所有していたところ、A氏は運送業を法人化するためにX株式会社を設立させ、事務所兼倉庫の名義も当該株式会社に移転した。このX株式会社は、株主及び役員がA氏のみであり、実態としてはA氏の個人事業といえる状況だった。
  1. <事例2>
    運送事業を営んでいるY株式会社に対し、土地を賃貸し、同社が土地上に事務所兼倉庫を所有していた。Y株式会社の株主及び役員はB氏のみであったところ、B氏は、Y株式会社の株式全部をC氏に譲渡し、役員についてもB氏からC氏に入れ替わり、Y株式会社の経営権は完全にC氏に移転した。

借地権の譲渡

民法612条1項では、賃借人は、賃貸人の承諾を得なければ、その賃借権を譲り渡し、又は賃借物を転貸することはできないと定めています。また、同条2項では、賃借人が上記に違反して第三者に賃借物を使用収益させたときは、賃貸人は賃貸借契約を解除することができると定められています。
そして、借地人が借地上の建物を第三者に譲渡する場合、借地権も譲渡しないと土地利用権のない建物になってしまいます。通常は、借地上の建物譲渡では、借地権の譲渡を伴うこととなりますので、事前に土地賃貸人の承諾が必要となります。

法人化と借地権の譲渡

それでは、事例1のように、個人事業で使用していた借地上の建物を、その事業を法人化するために当該法人に譲渡した場合、当該法人の実態や借地上建物の使用状況に着目すると、従前の個人のときと変わらなくても、賃借権の譲渡がなされたと評価することになるのでしょうか。
この点について、過去の判例では、賃借人が自己の個人営業を単に法律的、形式的にのみ会社組織に改め、その会社をして自己の賃借物の使用収益をさせ、その前後を通じて、営業の規模、内容等その実体に変動がなく、経営の実権も従前どおり賃借人の手にあり、賃借物の使用の状況にも格別の変化がない場合においても、賃借権の譲渡に当たるとされています。
上記のとおり賃借権の譲渡に該当するのですが、民法612条2項による解除については、判例は、賃貸人に対する背信行為と認めるに足りない特段の事情があるとして、その解除自体は認めないとする判断をしています。
したがって、賃貸人の立場としては、事例1のようなケースでは直ちに契約解除をすることはできません。その他に信頼関係を破壊するような事情の有無まで確認して解除が可能か検討し、又は、借地権の譲渡がなされていることを前提に、借地権譲渡に伴う承諾料の請求や差入保証金取り扱いやその他の条件の見直し調整等を行うことになるでしょう。

法人の実質的経営権の変更と借地権の譲渡

次に、事例2のように、借地人である法人それ自体には何ら変動がないものの、当該法人の株主及び役員が変動することにより、当該法人の経営権が第三者に移転したようなとき、実質的には借地権の譲渡がなされたと評価されるのでしょうか。
この点について、過去の判例では、法人格の同一性が失われるものではないとして、賃借権の譲渡には当たらないとの判断をしています。そのため、事例2においては、賃貸人の立場として、借地権の譲渡がなされたとの理由で契約を解除することはできません。しかし、その他の債務不履行等の事実の有無を確認する等して、契約の解除の可否や、必要な追加の保全措置等の要求を検討することとなります。なお、一般的には、法人契約においては、代表者が連帯保証人になっているケースが多いので、オーナーチェンジのときには、必然的に連帯保証人を交替してもらうべく借地人から事前の連絡がある場合も多いでしょう。その際に、賃貸人として主張すべき条件等を伝えると、交渉がしやすいと思います。
また、法人との契約においては、前述のように、経営権の変動により実質的に契約当事者が変更となるような事態に備えて、経営権の変動自体を解除事由と定めておくことがあります(いわゆるチェンジオブコントロール条項)。ですので、賃貸人の立場としては、そのような条項をあらかじめ賃貸借契約に盛り込んでおくことも一つの対策になると思います(もっとも、この場合でも、信頼関係破壊の問題として全て解除できるかは争点となり得ますが)。
上記のとおり、借地権の譲渡については、裁判所は、契約当事者の変動があったか否かをもっぱら形式面を基準に判断しつつ、実質面については、その契約の解除の可否等を考慮して判断しているといえます。

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