2019年賃貸住宅着工戸数の推移。伸びている領域は何か?
公開日:2019/12/26
POINT!
・不動産投資として、土地を購入して賃貸住宅を建てるタイプの着工戸数が減少
・事業会社による賃貸住宅の建築は増加
2013年~2018年の振り返り
図1:住宅着工戸数の推移
国土交通省 住宅着工統計より作成
2012年から賃貸住宅(貸家)の着工戸数は右肩上がりで伸びてきました。しかし、2018年は、 7年ぶりに前年比でマイナスとなりました。
図1は、2013年から2018年までの住宅着工戸数の推移です。2013年は消費税増税(5%→8%)の駆け込み需要で大きく増加ました。翌2014年はその反動減で、総数、持ち家(注文住宅)、分譲住宅(戸建、マンション)は大きくマイナスとなりましたが、貸家(賃貸住宅)は、相続税改正に備えた需要の伸びがあり、反動減を吸収するかたちでプラスとなりました。
その後も賃貸住宅(貸家)の着工戸数は伸び続けていました。その勢いに歯止めがかかりはじめたのは2017年の後半でした。そして2018年は7年ぶりのマイナスとなります。
2018年から2019年10月までの推移
2018年は年間に約39万6000戸の貸家が建設されましたが、月別で見ると前年比プラスだったのは8月だけで、他は全てマイナスになりました。 1月と3月は二桁のマイナス、春から夏は少し盛り返してマイナス幅が減少しますが、その後、秋から年末は、また大きなマイナスとなりました。
図2:貸家着工戸数の推移と前年同月比(2018年1月~2019年10月)
国土交通省 住宅着工統計より作成
図2は2018年1月~ 2019年10月までの貸家着工戸数の推移と前年同月比を示したものです。
2019年の4月以降はさらに落ち込み、-15%を超える月も珍しくなくなります。東京都市部をはじめ、大都市部では比較的数字は伸びていますが、地方・郊外の落ち込みが大きく起因しています。
2019年年間の貸家着工戸数を予測する
図3:月別貸家着工戸数
国土交通省 住宅着工統計より作成
2019年の11月、12月が1 ~ 10月と同程度の前年比だとすると、年間の着工戸数は約34万3千戸となり、前年比-13%、戸数にして約5万3000戸の減少となります。
着工戸数の減少は、大きく2つの要因があると思います。
1つ目は、土地活用として賃貸住宅経営を始めようと思っていた方が、2013年以降の好景気の波の中で経営に踏み切り、その需要が一巡したこと。
2つ目は、不動産投資として、土地を購入して賃貸住宅を建てるタイプの着工戸数が減少していること。これは、需要はいまだ旺盛にもかかわらず、金融機関の融資姿勢がネガティブなため、増えていないと思われます。
事業会社が始める賃貸住宅経営は増えている
一方、2018年、2019年に賃貸住宅建築で増えたのは、事業会社による賃貸住宅の建築です。これは、都市部だけでなく地方都市でも顕著に見られる傾向です。こうした状況からか、以前は企業向けの不動産活用セミナーで講師として呼ばれる場合、都市部開催のセミナーが多かったのですが、2019年は地方都市開催のセミナーで呼ばれることも増えました。セミナーに来場される(講演を聞いていただいた)、企業経営者・企業幹部の方とお話していると、「景気のいい今のうちに、賃貸住宅を建てて、もし景気が落ち込んだとしても賃料収入による下支えを期待しています」という声を聞きます。
企業が建てる賃貸住宅は、いわゆるアパートタイプもありますが、多くはRC造によるマンションタイプで、1棟当たりの戸数が多いものです。
・既存の自社ビルの建て替えを機に、低層階を自社オフィスとして使い、上層階を賃貸住宅として貸す
・使わなくなった社有車用の駐車場跡地に賃貸住宅を建てる
等はよく見られる事例です。
「企業業績がある程度維持できているうちに、景気悪化時の下支えとして活用したい」という考えのようです。
2020年の賃貸住宅市況見通し
現在の不動産市況から判断すると、地価などの公的な指標は上昇した数字になる見込みです。しかし、市況感としては、2020年の不動産市況は「横ばい」だと想定されます。こうしたことをかんがみると、2020年の賃貸住宅着工戸数は、おおむね2019年の後半並みの数字だと予測できるでしょう。
2019年以上に、事業会社による賃貸住宅を含めた複合型ビルの建築が増えてくるものと思われ、この傾向は都市部だけでなく地方都市でも広がると思います。