大和ハウス工業株式会社

DaiwaHouse

“暮らす森”を知ろう

地域を知り、自然に親しむことが環境改善につながる
ASONOHARAならではの自然活動への取り組み。

左から 齊藤 剛様、木部 直美様、谷口 聡志

現地スタッフの谷口、環境コンサルタントの齊藤様、暮らす森・阿蘇で開催している「草原さんぽ」などのイベントで講師をしてくださっている木部様。阿蘇の自然を愛する3人が、ASONOHARAの敷地内を歩きながら、地域の中における暮らす森のあり方について語り合いました。(以下、敬称略)

身近な植物を知ることで、阿蘇がもっと好きになる。

オーナーさんとの自然活動では、どんなことをしているのですか?

谷口 昨年は春に観察会、秋に草原散歩を開催しました。散歩をしながら、木部さんから植物に関する色々な知識を教えていただけるので、すごく人気のイベントです。
コロナ禍だったので参加人数を絞ったのですが、定員を超える申し込みがあり、木部さんに無理を言ってお願いしました。

木部 特に食べられる植物が人気ですね。クサイチゴ、ウド、フキとか。「これ食べられるんですよー」って言うと、みんなの目がキラキラと輝いちゃう。
住民のみなさんも庭にいろんな植物を植えているようですが、家の周りにも様々な植物や木があって、興味はあったけど知らなかったってことがけっこうあるもの。
例えば、道路のちょっとした境界に生えている植物とか。身近な植物のことを知るとうれしいですよね。

参加者の皆さんは、もともと自然に興味がある方なので、そのような方に阿蘇の自然についてお伝えできるのはとってもうれしい。
草原が減っている現状についてや、今後どのように維持・管理していけば長くおつきあいできるのかなどをお話しさせていただいています。地域を知るという意味で喜んでくださっているのかなと思います。
歩いていて牛が見えたら、昔の放牧について説明したり。阿蘇という土地を移住先として選ぶときに、少なからずリサーチをされていたり、ここが好きだという理由を持っていらっしゃるので、何かしら共通項があるんだと思います。

谷口 自然だけじゃなく、地域の歴史なども教えてくださるので、オーナーさんだけでなく、我々スタッフも「そうだったんだ!」と勉強になります。ついつい聞き入って、時間を忘れてしまうんですよね(笑)

春の観察会で希少なチョウの食草になる在来植物を発見!

自然活動を行ってみて、手応えはいかがですか?

木部 オーナーさんの中には、幅広い知識をお持ちの方がいて、私自身も教えていただいたり、オーナーさん同士で教え合ったりすることもあります。
山野草に詳しい方がいて、私から質問して教えていただくこともありますし。
私は植物が好きですが、鳥や昆虫が好きな方などそれぞれに得意分野があるので、趣味や知識を共有できるのも良いですね。一方通行で教えるというのではなく、共有できるのが良い。

5月の観察会では、庭と森の環境がどのように違うかについてお伝えしました。光や水分の条件、草刈りがあるかないかなど。庭の植物をどのようにしたいのか、それに合わせた草刈り頻度などについてお話ししました。
そして、森と住宅地の境界に成立するマント群落(※1)に面白いものがある、とか。

谷口 5月の観察会で、希少なチョウの食草であるクララを初めて見つけて、すごくうれしかった!
オーナーさんも「ラジオ体操の度に見守りますね」と言ってくださって。

発見したクララにつくシジミチョウ類の卵を
観察する3人

地域に伝わる知識や技術を次の時代へつなぐ。

今後、取り組んでいきたいことはありますか?

谷口 散歩や観察会もそうですが、木部さんに教えていただく機会をもっと増やしていきたいです。例えば、普段木部さんがいらっしゃる『阿蘇草原保全活動センター』へ行って学ぶとか。
今後、草原ブロックも育成していくので、野焼き(※2)ボランティアなどにもつながっていくといいですね。

木部 私は野焼きをお手伝いするボランティアの事務局で働いているのですが、実際にボランティアをしている方が、オーナーさんの中にもいらっしゃいますよ。
火を使う活動は危険が伴うため、必ず講習会を受けていただきますが、ボランティアリーダーとして活躍されている方もいて、非常にありがたいですね。
移住して阿蘇で暮らしているだけでなく、「地域のためになるなら」と協力してくださる方がいることに感謝しています。
野焼きを知ることは、阿蘇の歴史や人々の営みについて知ることにもつながります。

齊藤 阿蘇は火山の影響で土地がやせていたため、最終氷期の時代から草原のような環境が残され、その後、温暖になり森林が発達できるようになってからは、おそらく人が野焼きをすることで草原が長く続いてきました。そのような歴史の中で形成されてきた阿蘇の土壌は「黒ボク土」といって、畑とか田んぼにはあまり向いていないんです。

木部 だから、草原の草を刈って田畑の土にまぜこむ。有機物を入れることで土を肥やすという方法が阿蘇では何百年と続けられてきたんですよね。

齊藤 オーナーさんたちと一緒に草小積み(※3)を作ったので、それを堆肥にして野菜を育て、大豆で味噌を仕込む。地域での循環が生まれるといいですね。

木部 ススキなど草原の草からできた堆肥を使うと、野菜が甘くなるとも言われています。阿蘇の人たちは、科学的に効果が実証される前から、伝統的に使っていたんです。

齊藤 古いけど、すごく新しいというか。残していきたい技術ですね。

木部 昔は、エネルギーも資源も地域の中で完結するしかなかった。その結果として、知恵が集積したんでしょう。
牛や馬の飼料が高騰している今こそ、この土地が持っている知恵や力が役に立つのではないかと思っています。

齊藤 便利な世の中では効率が悪く見えるかもしれないけれど、本質的にすばらしい知恵や技術。そのまま取り入れることは難しいかもしれませんが、再考することで新しい時代に合わせたやり方を地域全体で取り組んでいきたいです。

木部 中にいる人は、自分たちの持っているものの価値に気付かなかったりするもの。外から阿蘇へ来られた方に気付いていただくことで、価値を再認識できるということもあるかもしれません。

撮影:小堀牧野(2023年5月)

周囲の環境とのつながりを
イメージしながら暮らすことの大切さ。

今後、『ASONOHARA』が目指すべき方向性についてどう思われますか?

齊藤 『ASONOHARA』は、草原を作り上げる過程を通して、皆さんに阿蘇の自然を理解していただくフィールドのような場所です。
自由に活動できる草原は意外と身近にはないので、出来上がった後は、住んでいる方が草原を身近に感じながら活用できれば。

木部 草原的な環境を作ると、そういう環境を好む動植物が移動してくる。植物は非常にゆっくりしたスピードではあるけれど、可能性はあります。
一般的な住宅地の作り方とは異なり、大きな木を残したり、地形を変えずに整備したりしてできた住宅地であり、自然が豊かなエリアにあるからこそ、周囲の草原や森とのつながりをイメージしながら暮らしてほしい。
自然の一部として、環境も、生物も、植物もつながっている。そういう目で、この地域を育てていっていただけたらうれしいです。

谷口 たしかに。周りの環境との関係も大事にしないといけませんね。ここに暮らす人と地域の人、そして周囲の環境が一体となってつながるように。
堆肥づくりやBeeHotelといった活動を何のためにしているのか、どのようなステップを踏みながら草原化などの環境づくりをしていくのかを分かりやすく伝える、ロードマップがあっても良いのかもしれません。
取り組みの見える化を行うことで、みなさんの理解をより深めていきたいです。

齊藤 観察会やワークショップをどれだけ実施しても、単発では伝えること、理解してもらうことが難しいかもしれません。
草小積みも、ただやるだけだと単なる労働。
その意味を理解して、一緒に汗をかきながら作業することが大切なのではないでしょうか。さらに、例えば軽めの作業をしてみんなでお茶を飲む、といった活動を継続すれば、長期的に取り組めるかもしれません。
単なる労働ではなく、一種のコミュニケーションとして暮らしの中に取り入れられたらいいですよね。
こうした取り組みが、結果的に環境の改善や、地域の関係づくりにつながるといいなと思います。

※1 マント群落
林の外周部に生育する、つる植物や低木からなる植物の集団。森林の中に直接風が吹き込んだり、直射日光によって乾燥したりするのを防ぐ役割を持つ。

※2 野焼き
毎年春分前後(最近は2月末〜4月はじめ)に行われる。枯れ草や低木類を焼却除去することで、草の芽吹きを促し青々とした草原を維持するために長年行われてきた、伝統的な作業。

※3 草小積み
干し草の束を重ねて積み上げたもの。直径4メートル、高さ2メートルほどの大きさで、冬の間の牛や馬のエサとして利用される。

話者紹介

  • 公益財団法人 阿蘇グリーンストック
    事業部 環境教育チーム

    木部 直美
    2015年、公益財団法人阿蘇グリーンストック入社。阿蘇草原保全活動センターを拠点に、阿蘇の草原を紹介する講座や草原での自然観察会を企画・運営。あか牛の放牧支援や干し草小積みの復活といった草原の利活用にも関わってきた。草原を知って、楽しんで、もっと使えば、阿蘇の草原を未来の世代に手渡せると考えている。
  • 株式会社地域環境計画
    自然環境研究室 主幹

    齊藤 剛
    草原の植物調査や植生図作成、保護林の設定やモニタリング、環境アセスメントに関わる動植物調査など、自然や生きものに関する調査に長く携わる。主に植物分野を担当。最近では、生物多様性地域戦略の策定や『ASONOHARA』の取り組み、小学校での草原学習など、調べた情報をもとに、自然と共生する地域をつくるための業務を担当。
  • 大和ハウス工業株式会社
    森林住宅地管理運営部
    統括運営グループ(阿蘇駐在) 主任

    谷口 聡志
    2008年大和ハウス工業株式会社入社、入社より森林住宅地の販売を担当。現在も担当している阿蘇へ勤務して16年目を迎える。現地の責任者として「住み続けられる、住み継ぎたい街づくり」をテーマに、住民であるオーナーとコミュニケーションを図る中で分譲地の課題解決と未来に向けての環境づくりに携わる。

4枚目を除くここまでの写真はすべて 
撮影:ロイヤルシティ阿蘇一の宮リゾート(2023年5月)

ライター
クラモト マオ

広島県福山市在住。瀬戸内をベースに、雑誌、フリーペーパー、Webメディアなどさまざまな媒体で活動中。食べること、食を求めて旅をすること、食にまつわる本を読むことが好き。新たな人との出会い、食との出会いがあるならば、野を越え山越えどこまでもー!

INTERVIEW:1

自然と人がゆるやかにつながる、新しい暮らしのカタチ。
阿蘇の草原を取り戻すため、暮らす森を支える人々の想い。

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