大和ハウス工業株式会社

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コラム No.27-92

サプライチェーン

秋葉淳一のトークセッション 第3回 物流が社会問題化している今をチャンスに、バリューチェーン全体のレベルを上げていく花王株式会社 チーフデータサイエンティスト 田坂 晃一 × 株式会社フレームワークス 会長 秋葉淳一

公開日:2023/12/26

世の中にとってベストとなる花王の最適ネットワークを考える

田坂:私は、さまざまな協議会などの活動に参加しており、様々な事業者が社会価値を創造したり、自動化を図ったりしています。そのような中で、あらためて、花王はどのように社会とつながっていくか、将来のサプライチェーンをどのようなかたちにしていくのかを考えないといけないと思っています。
自分たちの工場だけでなく、OEM工場もあり、より広い世界でのモノづくりが必要です。例えば、他社のものを花王の工場でつくったほうがいいのであれば、花王がOEMメーカーになってもいいかもしれない。物流では、大和ハウス工業さんの倉庫で空いているところがあったらフレキシブルに使えたらいいし、花王の倉庫が空いているのであれば使ってもらってもいいかもしれない。それは在庫を置いてもいいし、スルー型のクロスドック拠点としてでもいい。全体のネットワークの中で、どのようなかたちを取れば世の中にとってベストなのかを考えたいですね。それを考えるためには、最適化技術などさまざまな技術が必要になります。私のチームでも最適化技術を用いた活動をしていますが、先端技術と世の中の動きをコラボレーションさせながら、花王としてネットワークを最大活用するだけではなく、社会価値の向上につながる世の中のバリューチェーンを上げていくことができるような仕組みをなるべく早く実行に移せるように考えていきたいと思っています。それに賛同、協力してくれる人たちを集めて、検討がより広く加速するような世界でやっていきたいですね。
それができたら日本の新しいモデルになって、それを海外で展開していく。海外のほうが先を行っていることも多いですが、日本でも面白いことができる、日本特有のやり方もあるのではと思っています。

秋葉:これからは海外に向けて視野を持つことは絶対に必要です。一方で、日本のほうが優れている部分もたくさんあるはずです。

田坂:花王は海外にもネットワークがあるので、海外も含めて考えていかないといけません。海外の良いところは使いますし、海外でも花王のネットワーク、世の中のネットワークを変えていくこともしたいと思っています。日本は今物流が社会問題化して、皆が協力できる体制がようやく整ってきました。市場では競合するライバル企業でも、それをチャンスと捉えて活動していきたいですね。大和ハウス工業さんはいろいろなネットワークを持っているので、そのネットワークともうまく組み合わせていきたいと思っています。

秋葉:物流の問題が、世の中の課題になったのは大きいですね。物流に関わっている人だけが課題だと思っているとなかなか周りを巻き込めませんが、世の中の課題になったので周りの理解も増えたと思います。それ以外にも、例えば、老朽化し、償却も終わっている物流施設も増えていますので、物流のネットワークを見直すチャンスでもあります。資産として残っていると、見直したいけど見直せないような制約がありますが、そういった会計的な話も含めてチャンスだと思います。

田坂:花王にもやはり20年~30年前の自動倉庫もあればいろいろと古いシステムや設備もあって、見直しをしないといけない時期に差し掛かっています。ただ見直すにしても、例えばスクラップしてビルドする間どうするかという問題もあります。スクラップしている間、大和ハウス工業さんが所有しているエリアで空いている施設を借りて使いながら、建ったら移転する。そうするとお願いもしやすいし、その間オペレーションもできます。そのような時に使うためのマルチテナントのような施設があってもいいのではと思います。
また、ビルドする時も、花王専用である必要もないのかもしれません。例えば、他の会社が買った土地を、最初はその会社が使って、その後に花王が使う。中にはロボットと仕分け設備が置いてあって、他の会社は4台使って、花王は2台使って、残った2台分はほかのところに移転する。このようなことができるとすごく価値を生むし、ロボットやAGVをうまく生かすことができる。それができるのは今回の豊橋工場の倉庫のようなフレキシブルな施設だと思っています。

秋葉:建物自体もそうですよね。例えば、花王さんが建替えたいというニーズを拾えたとすると、花王さんの了承をもらった上で周りにも声をかけて、本来は2層のところを4層にして、どちらか賃料を払いませんかという話もありうると思います。私たちはそのようなかたちの提案を他のプロジェクトでもしており、共同、共創の効果によって持続可能な物流ネットワークに繋げていきたいと考えています。

田坂:最終着地点が一緒だったり、中継地点が一緒だったらうまくいくと思います。花王のサプライチェーンは独立して動いてきた部分が多かったですが、同じ業種の様々な関係者と効率の良いサプライチェーンを考えていきたいですね。また、異業種の方々とのコラボレーションもいろんな形があるかもしれません。需要や作業量の波動や時間帯などが違えば波動の吸収を全体でできるかもしれないので、もしかしたら同じ業種ではないほうがいいかもしれません。より視野の広いさまざまな組み合わせを考えないといけないと思っています。

「今」をチャンスと考える

秋葉:ロジスティクスは業界を跨ぎますから、ようやくロジスティクスに光が当たって、ロジスティクスに関わっている人、理解をしている人が行動しやすくなってきています。

田坂:今は世界レベルで「社会的な価値があるなら」という雰囲気が出てきていると思います。「DX」という言葉を日本ではよく使っていますが、そのうまい使い方もできると思います。良い旗頭ですよね。DXという言葉を使って業務プロセスを変える、商習慣を変える、世の中を変革していく。いわばポイントとして言えるかたちになってきました。あまり既存の枠組みを意識することなく、多少無茶なことを言ってもいいという感じが世の中的にはあるので言いやすいですね。言わなきゃ始まらないですし。

秋葉:働き方や労働時間の話もそうですし、DXもそうです。多様性、ダイバーシティといったことも言われているからこそ、「今までのやり方を変えましょう」ということが自然になってきていますよね。ただ、ロジスティクスの場合はフィジカルなものなので、そこの理解なしに机上でやってもできないですよね。そこが難しさだし、面白さです。

田坂:そうですね。ビジョンは出しても、具体的につなげるところは物流が一番難しいですね。それは上流と下流にものすごく挟まれるからです。製造も簡単ではありませんが、自社製品の設計の中でどうするかは考えやすいし、制約も外的な要因が比較的少なく考えられるところだと思います。それに比べると物流は外的要因のハードルが高くて、変化しにくい。労働集約型産業でずっとやってきているので、そこで培った良さもすごく残っています。日本の場合はここに創意工夫が詰まっているので、それ以上に効率や能力を確保した上での変化はなかなか難しいと思います。ただし、きつい作業はたくさんあるので、単純にすべてを自動化するより、きつい作業、付加価値が少ない作業をなるべく減らして、価値のある作業はやっぱり人にやってもらう、といったことが必要だと思います。

秋葉:本当にそう思います。付加価値を生み出すのは人ですから。

田坂:今回の倉庫でも、完全自動化の倉庫として稼働していますが、作業以外の業務として人が携わっており、人にはクリエイティブな、価値を高めるような仕事をしてもらっています。そういう仕事は給料も上がるはずで、最終的には賃金が上がっていくことが大事です。日本の人たちが皆価値の高い仕事をしていて、その分として高い給料をもらえるような世の中に変えていきたい。
先々週アメリカに遊びに行って、物価が大きく変わっていて驚きました。20年前にはこんなことを思ったことがありません。比較したら日本は異常だなと。花王もきっちり上げていけば、「花王は給料が高いから働きたい」となって、世の中も皆上がっていくはずです。そういう世界をつくらないといけません。そのためにはいかに作業や業務の価値を高めていくか、DXで高度な技術と掛け合わせて複雑なことでもできるようにしていくことが大事です。労働力も減少していくので、それをチャンスと捉えてやっていく。簡単ではないし自分がどこまで貢献できるのか分かりませんが、自分自身の活動としてやっていきたいと思っています。

秋葉:今回物流センターの中でDX化をされて、今おっしゃったような労働力を含むメリットも出たと思うのですが、どのような変化がありましたか。

田坂:26人必要だった作業員が今は0になっています。代わりに必要になったのが全体を管理する人とエンジニアで、全体の稼働状況や生産性の管理や、ロボットやAGVなどで何かあった時に修理・復旧をしています。管理をする人は労働者に比べて給料も高く、価値の高い仕事に変わっていっていると思うので、ここは目指しているかたちに近いかなと思います。
あとは、外部倉庫を集約して外部への輸送も減らしているので、無駄な輸送が減り、CO2の排出も削減できています。工場内外で輸送をしていたものを、一気に集約したことで、輸送費、賃借の費用、CO2を含めて下がっていると思います。

秋葉:元々は100万ケース以上を処理したいというお話でしたが、問題なくクリアしましたか。

田坂:その能力はクリアしました。今検証中の部分もありますが、ケース仕分けにおいては、28台のAGVと3台のロボットを入れて、当初の目標通りの生産性900ケース/時間の能力が確保できています。これにより、全体として月間で100万ケース以上の出荷能力を確保することができています。能力の確保はできているので、これから様々な拠点の作業を取込み、サプライチェーン全体の最適化を目指して次のステップに進んでいるところです。

秋葉:これからも、発注者受注者ではなく、ロジスティクスやサプライチェーンという目線で見た時には、協力しながら変えていく。変えたらこんな結果が出るよと世の中に知らしめていく。面白いじゃないですか。田坂さんはチャンスという言い方をされましたが、そういうタイミングにもなってきたので、このタイミングを活かさない手はありません。それを若い人たちにも経験してほしいですね。いろいろな機会をお互いに提供しつつ、協力しつつ、これからもやっていきたいと思っています。

田坂:われわれもオープンイノベーションをしていきたいと思っています。自分たちだけでやっていた世界から変わって、いろいろな業界、領域で優秀な会社、若い人たちが増えてきていますので、皆さんと一緒に活動しながら、世の中の困り事を解決し、面白くてワクワクするサプライチェーンをつくりたいと思っています。今回良いフィールドをつくれましたし、ありがたいことですね。

秋葉:やった人間が笑顔でいることで、またこの人たちと一緒に仕事をしたい、こういうプロジェクトに参加したいと思ってくれたらいいですよね。社内でも、田坂さんのチームに入りたいという人が相当増えたのではないですか。

田坂:それはどうでしょう(笑)。自分自身が新しいプロジェクトを立ち上げているわけではないので分かりませんが、私に共感してくれる若い人がいるという話は聞くので、それはありがたいですね。これからそういう人たちに向けて勉強会やいろいろな活動をしたいと思います。私は今ロジスティクスの領域を得意としていますが、ロジスティクスの領域だけでなく、サプライチェーン全体の領域に広げたいと思って活動しています。今まではコンシューマープロダクツ領域で活動していたのですが、花王はケミカル事業でもグローバルでいろいろな動きをしているので、この領域の人たちとも話しながら、消費者に一番近いところだけでなくBtoBの世界にも広げながら、面白いかたちをつくっていきたいと思っています。ケミカル事業はサプライヤーの立場でもあるので、その立場を理解した上で活動していきたいです。

秋葉:日本のサプライチェーンは、課題は山積みです。いろいろなチャレンジができそうです。

田坂:「次の新しいことや当たり前を見つける」ということをやりたいですね。仲間を集めて、その人たちが自律的に動いてくれる世界をつくれるといいと思っています。
自分が前に出ている限りはなかなかそれができないので、そういう人たちを育て、フレームワークスさんやアンシェルさんに助けてもらいながら、一緒に活動して、またレベルアップしてという、良いスパイラルとリンクをつくれたらいいなと思っています。
そのためには、意見を言い合い、対立ではなく対話を重ねることが大事だと思っています。言ったことに対して全部「イエス」だけだったら、何も面白くありません。逆に、異なる意見を出しやすい環境をつくってどんどん意見を言ってほしい。このような対談の記事を読んで、「こう言っているけど、現実はこうだし」とか、「もっとこういうやり方があるんじゃないか」と言ってほしい。そうすると私もまた勉強になって、そうかと思うかもしれないし、反論するかもしれません。それが対話だと思っています。われわれはよく「和して同ぜず」という言葉を使うのですが、協調するが安易に同調するのはやめよう、思ったことは言い合おうというマインドはチームの中でも大事にしていますし、外と議論するときでもそうであってほしいと思っています。

秋葉:田坂さんの更なるご活躍を期待しています。ありがとうございました。

過去のトークセッション

土地活用ラボ for Biz アナリスト

秋葉 淳一(あきば じゅんいち)

株式会社フレームワークス会長。1987年4月大手鉄鋼メーカー系のゼネコンに入社。制御用コンピュータ開発と生産管理システムの構築に携わる。
その後、多くの企業のサプライチェーンマネジメントシステム(SCM)の構築とそれに伴うビジネスプロセス・リエンジニアリング(BPR)のコンサルティングに従事。
2005年8月株式会社フレームワークスに入社、SCM・ロジスティクスコンサルタントとしてロジスティクスの構築や改革、および倉庫管理システム(WMS)の導入をサポートしている。

単に言葉の定義ではない、企業に応じたオムニチャネルを実現するために奔走中。

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