結果発表



去る、11月11日、第6回ダイワハウスコンペティションの審査会が大和ハウス工業東京支社にて行われ「住宅の公共性」をテーマに、登録数244件、応募作品57点の中から最優秀賞1点と優秀賞2点が決定しました。



最優秀賞


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近代、住宅は“個”のための建築として考えられてきた。そんな中、自分の生活の一部を他人に晒すということへの現代の日本人の抵抗力は著しく落ちている。一方、私たちは公共という言葉に弱く、それは“ある場所をみんなで使う”ことを想起させ、なくてはならない、欲しいものだと思いこませる。しかし、根本的に“公共性”を何かに与えるとき、皆“個”を捨てる気などさらさらないのではなかろうか。

本論文では これからの住宅の公共性――個々の住宅が公共性を担うことで社会全体が公共の場となる性質―― と定義し、ケーススタディーを通して住宅が住宅という枠を超えてそれ以上の意味を持ち始め、社会全体のために役に立ち始めることができる可能性を示している。また従来の“空間・場所自体が公共性を持つ”という考えに対し、今後の住宅は“建築が住人に公共性を持たせることが可能である”ということをこの論文で検討している。



優秀賞


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「住宅の公共性」は、国民国家が社会を確実に管理・組織するため、公共空間から排除され「寄せ場」に隠蔽された。「住宅」内での高齢者の孤独死や幼児虐待等、近代的パラダイムの限界が露呈した現代において、「私」性の領域である「住宅」と「公共」の領域を明確に分離して生活する我々の「日常」を見直すことが必要である。その「日常」を考えるための非「日常」は「寄せ場」にある。今こそ「寄せ場」に隠蔽された「住宅の公共性」を奪還し、「新たな日常」を考察するときである。
この物語は近代社会の「住宅の公共性」の隠ぺい工作を暴き出し、「住宅の公共性」を再認識することを目的としている。



優秀賞


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暴走する資本主義による世界の商品化=私有による世界の細分化と、ますます過剰になる監視社会が「みんなのもの」である公共圏を消しつつある現在、それを突破して新たな公共圏を立ち上げるものとして、圧倒的な物量を背景とした住宅の全体性を「地形」と見立て、その地形の構成要素である住宅を「風の流れ」や「温度分布」を「見える化」したネットワーク上の環境指向型シミュレーションプラットフォームを使ってデザインすることで、住宅の新たなデザインと「住宅の公共性」の可能性を論じた。
このプロセスを通して、個々の住宅はバラバラな傍観者(オーディエンス)から、ゆるやかに環境に寄与する参加者(プレイヤー)に変わり、「みんなのもの」である「公共圏」を形作る。それは建築という鈍重で排他的でリアルなメディアが、ネットワーク上のヴァーチャルな空間と結び付き、新たなリアルとして再生する姿でもある。



審査講評


審査会風景


山本理顕  今年は、昨年に比べてテーマが具体的だったからか、論文としてのレベルが高い作品が多かったように感じています。「住宅の公共性」というテーマを応募者がどのようにとらえ、問題設定をし、解決に導くのかに注目して読ませていただきました。最優秀賞に選ばれた鈴木絵里加さんの論文は、個々の住宅が単に均質なユニットではなくて、それぞれに固有の社会的な意味をもっているべきだ、という強い提案である。理論には相当飛躍があるけれど、その強さが際立っていた。平山さんの風の流れが街のかたちを決定するという、単純だけれども、見えないファクターを視覚化することによって、それを共感の道具にするという方法はきわめて現実的だと思いました。

藤森照信  今年は本当に充実した内容の論文が多かったですね。そのことに何より驚きました。50以上の論文をじっくり読んで、その中で気になる作品には、あるキーワードが議論の中で共通言語的に使われていました。たとえば、最優秀賞の鈴木さんの論文は、ロンドンという場所を設定していたので、「ロンドン」というワードで皆がイメージを共有させていました。優秀賞の平山雅司さんの論文は、街に風を通すという提案に対して審査員が印象をもっていたので「風」、中には、怪人二十面相の話をパロディー調にして、建築家が配役されて展開する論文、「怪人二十面相」もありましたが、そう考えると、8,000字という長い文章の中で、明快な論点があるものは、審査の議論で使われた言葉によって、伝わるものがあるのだということになります。そういった意味でも、今年は「住宅の公共性」をテーマに、昨年僕が求めていた、強い主張が大いにあったと思います。

千葉学  僕も今年の論文は文章の質が上がっているように感じました。テーマ設定が鮮明なものが多くてかつ多様であったし、公共性という切り口へのアプローチがそれなりに示せているものが多かったと思います。優秀賞の笠井勇さんの論文は、「住宅の公共性」というよりは、「コミュニティ」の問題として論が展開されているようにも思いましたが、かなり細かいリサーチに基づいていると感じられ、問題提起として興味をもちました。ほかには、阪神淡路大震災時の経験を基に建築家が思い悩みながら「公共性とは何か」をいう論を展開する作品などがあり、僕としては、具体的な建築的提案や、システムのことが語られている論文ではなく、住宅の設計を通して何ができるのかについて言及している論文に評価を与えました。

松山巖  今回はじめて審査をして、多くの人が馬鹿馬鹿しいほど(笑)、真面目に取り組まれいることに感心しました。印象としては論が具体的であるほどにあっと驚くユーモアを感じ、このテーマを選んでよかったと励まされましたね。鈴木さんの論は、公共性に否応もなく内在する政治、「ルールと役割」まで届いていて出色でした。平山さんは見落としがちな風通しを、また笠井さんは寄せ場という「隠蔽された」視点を暴いて各々ユニークでした。今後は隠蔽された、マイナーな問題が公共性の鍵になるのでは。

西村達志  「住宅の公共性」というテーマは、私たちにとっても重要なテーマであり、何か答えを見つけられたらという思いの中、応募作品を読ませていただきました。皆さんの多様なご意見を拝聴し、ひとつの答えを出せるような簡単なテーマではないと痛感すると同時に、たくさんの貴重な論文をご応募いただけましたことに感謝致します。

(2010年11月11日、大和ハウス工業東京支社にて、文責:本誌編集部)



 

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最優秀賞 鈴木絵里加
優秀賞 笠井勇
優秀賞 平山雅司
審査講評

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