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WELL認証とは?「働く人の健康に配慮したオフィスの目印」

WELL認証とは?「働く人の健康に配慮したオフィスの目印」

    ビルやオフィスなどの空間を、「人間の健康」の視点で評価・認証する「WELL認証(WELL Building StandardTM)」は、2014年に米国で始まりました。6年間で世界58カ国(2020年2月時点)に広がり、日本では5件(2020年2月時点)が認証を取得。すでにv1からv2へバージョンアップしています。「人間の健康に良い」と認められた空間とはどんなものなのか?WELL認証が広がっていくと、どんなサステナブルな変化が起きるのか?

    日本からの申請サポートを手がける(一社)グリーンビルディングジャパン WELL APの川島実さんと、WELL認証(v1)ゴールド(インテリア)を取得しているイトーキの本社オフィス「ITOKI TOKYO XORK」の設計を手がけた株式会社イトーキの星幸佑さんに、お話を伺いました。

    川島実 さん

    お話を伺った方

    川島実 さん

    工学博士 一級建築士 建築設備士
    WELL AP LEED AP (BD+C)
    (一社)グリーンビルディングジャパン WELL AP

    WELL認証とは?

    WELL認証v2の評価システムでは、10のコンセプトをベースにした117の評価項目と225のパートが示されています。これらは言わば、人間の健康に対して建物や空間が貢献できることのリストです。このリストの中から、必須項目/パートと、加点項目/パートを申請者が選び、書類と実地の審査を受けます。50点以上にシルバー、60点以上にゴールド、80点以上にプラチナが与えられます。

    Air Water Nourishment Light Movement Thermal comfort Sound Material Mind Community

    WELL認証の10のコンセプト(空気、水、食物、光、運動、温熱快適性、音、材料、こころ、コミュニティで構成される)

    117の評価項目と225のパート

    建物の評価・認証制度と言えば、省エネ性能など環境への影響を評価するLEED®(※1)やCASBEE®(※2)などが有名です。これらが建物の性能を対象にしているのに対して、WELL認証は人間への影響にフォーカスしています。このため、10のコンセプトでは「こころ」「食べ物」「コミュニティ」といった、建築の枠にとどまらない視点が示されています。

    • ※1 (リード、Leadership in Energy & Environmental Design)
    • ※2 (キャスビー、建築環境総合性能評価システム "Comprehensive Assessment System for Built Environment Efficiency" の頭文字をとったもの)

    WELL認証で有名なPhipps' Center for Sustainable Landscapes(米国・ピッツバーグ)。ほかにも4つの国際認証を取得している
    (LEED® Platinum、Net Zero Energy Certification、Living Building ChallengeTM、4 Stars Sustainable SITESTM
    出典:Phipps' Center for Sustainable Landscapes 写真提供:Denmarsh Photography Inc

    「建物や空間をつくって終わりではなく、建物内で過ごす人が健康的であり続けるために必要な運用面にも言及して、います。例えば、その空間で販売する飲み物の糖分量を25g未満に抑えると加点され、25g以上の場合の表示が必須とされています。」(川島さん)

    WELL認証ゴールド(インテリア)を取得した株式会社イトーキの本社オフィス「XORK」では、ドリンクは成分一覧表をスマートフォンで確認でき、お弁当や軽食は野菜中心のメニューが選べる

    また、評価項目には、健康に関する最新の医学研究結果が反映されるなど、人間を取りまくさまざまな領域の知見が取り入れられています。

    「人間には『サーカディアンリズム』と呼ばれる生体リズムがあり、時間帯によって適した照明の明るさが変わります。昼間は一定以上の光を浴び、夕方以降は照明を落とさないと、夜、睡眠が阻害されると言われます。そこでWELL認証では、目に入る光の量と色温度から光環境を算定するメラノピック等価照度という数値を使って、照明を最適化することが求められています。ほかには、1日8時間以上座りっぱなしでいると寿命が短くなるという研究結果をもとに、全ワークステーションの25%は立ったままでも仕事ができるスタンディングデスクを設置することが必須項目になっています。」(川島さん)

    同じくイトーキの本社オフィス「XORK」。社長室にもスタンディングデスクが設置されている

    このほか、「コミュニティ」の観点から多様な働き手に配慮し、搾乳室やジェンダーレストイレを導入したり、「こころ」の観点から、業務デスクとは別に食事がとれるスペースを用意すると加点されるなど、労働環境を総合的に評価する工夫が施されています。

    WELL認証取得が生産性向上、働き方改革、SDGs達成のエンジンに

    こうした対応にはコストがかかりますが、川島さんはそれを上回るメリットがあると話します。

    「WELL認証の取得を目指すことで、企業は企業価値の向上を導くことができます。なぜなら、企業が最もコストをかけているのは人間だからです。企業にとって最も大切なリソースである人間の健康が向上し生産性が高まることで、企業の持続可能な発展を見通すことができるようになる。建物の性能よりもビジネスへのインパクトが大きいと言われるようになっているんですね。そのため、LEED®は取得済みだけれどもWELLも取りたいという企業が増えています。」(川島さん)

    WELL認証の項目やパートにはSDGsとの関連も示されています。SDGs達成への貢献度を示すことができるという面でも、企業価値を高めることにつながるようです。

    WELL認証取得にチャレンジした理由
    〜イトーキの本社オフィス「ITOKI TOKYO XORK」〜

    星幸佑 さん

    お話を伺った方

    星幸佑 さん

    株式会社イトーキ
    営業本部 FMデザイン統括部

    そんな中、いち早くWELL認証を取得した株式会社イトーキの本社オフィス「ITOKI TOKYO XORK(以下、XORK)」では、社員の健康・快適性を高める多くの工夫が実践され、効果が表れています。

    「イトーキは、もともと健康経営優良法人に選定いただくなど健康経営意識が高い会社です。また、オフィス家具を通して働き方を提案する会社ですので、新しくて良いことは自分たちで試行錯誤しながら実践して、良ければ広げる役割を担いたいということで、WELL認証に挑みました。」(星さん)

    XORKは「新築インテリア」部門でゴールド(WELL認証v1)を取得しており、同部門では日本初。ウェルネスに関するライブラリーの設置も加点ポイントとなっている

    XORKは、オフィス用ビルディングにテナントとして入居しています。水道や空調、照明はビルの付帯設備で、そのまま利用するのが通例。WELL認証取得のため、そこにも設計・デザインの手を入れました。

    「通常は、空調や水質、光量の設計まではしないので、チャレンジでした。例えば空気に関して、WELL認証では日本の事務所衛生基準には表記されていないPM2.5を計測します。東京の一般的な平均値は10〜30(※3)μg/m3くらいが多いのですが、高性能な活性炭フィルターを入れたことで一桁台前半に抑えられています。働く社員からも『空気がきれい』『花粉症の症状も軽減される』などの声をいただいていて、大変でしたが実行してよかったと思っています。」(星さん)

    ※3 出典:環境省サイト「そらまめ君」

    空気質の計測値を示すパネルを共有エリアに掲示している。PM2.5以外にも CO2やホルムアルデヒド、VOCも計測するため、プリンターやFAXもこれらの有害物質の排出が少ないものを選んで設置

    また、XORKは3フロアにまたがっていますが、間の床/天井に穴を開けて階段を設置してあります。これは、WELL認証のコンセプトの一つ「MOVEMENT-運動」(※4)を達成するためのもの。目立つところに階段をおくことで、自然に運動量が増えるよう促しています。

    ※4 WELL認証v2でのコンセプト。WELL認証v1では「FITNESS-フィットネス」に該当

    「階段をつくるだけでなく、使いたくなるようにデザインすることも求められます。そこで素材には木を使い、階段の近くに植栽をしつらえてあります。」(星さん)

    自然に運動を促すため、ビルの共用階段とは別に、オフィス内に階段を設置。

    WELL認証の申請では、自然に親しむことができ、過ごすことが楽しい空間づくりのためにどんな工夫があるか、デザイナーが申請書類を書くものもあるそう。空気質のように定量的に判断できることだけでなく、数値化しにくい働く人の気分や雰囲気も評価されます。

    星さんは、「WELL認証のコンセプトでは『こころ』に該当する、目的ごとの個室をふんだんに設置しました。意図的なゾーニングにより、仕事の種類に適した雰囲気やデザインをつくっています。」と話します。

    マインドフィットネスルーム。いつでも使えるほか、講師を招いたマインドフルネス・プログラムも運営されている

    例えば、やわらかい光と環境音の中で瞑想できるマインドフィットネスルーム。2人で仕事をする空間や、少人数のチームでプレゼンやディスカッションをするための部屋。立って体を解放しながらミーティングができるスペースや電話専用ブース、電話や私語禁止のフォーカスエリアなどが用意されています。

    つり輪付きのオープンな打ち合わせスペース(写真左)
    写真左手手前が電話専用ブースで、右手奥がフォーカスエリア(写真右)

    固定席をなくし、仕事のシーンに合わせて空間を選べるようにしたのと同時に、帰属する安心感も担保するため、800人超の社員全員に個人ロッカーが割り当てられています。

    人通りの多い階段付近に、個人ロッカー(写真右手奥)やオープンスペースを配置している。本物の観葉植物がふんだんに置かれて印象的だが、それでも緑化で加点がとれないほどWELL認証の基準は厳しい

    これらの工夫により、導入後の社員アンケートでは、生産性の向上実感が認められました。

    「生産性の向上実感でも効果が表れていますし、WELL認証に応じて上下昇降式のデスクを導入したら、『腰痛が楽になった』という声が多く寄せられたことで腰痛がつらい人がこんなにもいたのかと気づかされたり。健康を考えたら当たり前だけれども、建築設計においては盲点だった部分を、WELL認証取得のためにケアした効果が出た。WELL認証にチャレンジしてよかったと思っています。」(星さん)

    川島さんは、「WELL認証は、広まり方がLEEDよりも速い」と驚いているそう。働き方改革や健康経営といったビジョンに注目が集まる中、ビジョンを具体化する上で有効な225もの方策が示されているWELL認証は、今後ますます存在感を増していきそうです。

    本多直也

    お話を伺った方

    本多直也

    大和ハウス工業株式会社
    流通店舗事業推進部 建築事業推進部 企画開発設計部 環境・設備グループ
    グループ長

    大和ハウス工業は、2021年秋、奈良市に新設する「(仮称)大和ハウスグループ新研修センター」でLEED®やSITES®(※5)、ZEB(※6)とともにWELL認証取得を目指しています。その理由について、本多は、次のように話します。

    「新しい研修センターは、グローバル人財の育成の場であり、創業100周年に売上高10兆円の企業グループを目指すためのシンボルとなる施設です。ここに来たらワクワクドキドキできて、新しい気づきがあって、アイデアが創出される。創造性を刺激するような場所になることを目指しています。」(本多)

    そこで、創造性を向上させる効果があるといわれるバイオフィリックデザインをはじめ、世界各国から多様な社員がストレスなく集えるユニバーサルデザインを導入しました。これらはWELL認証のコンセプト「こころ」や「コミュニティ」に該当します。

    自然との調和を重視した設計。建物が地面から隆起したようなイメージでつくられていて、外壁は遺跡を調査した際に発掘された1300年前の地層の土で塗装する

    「バイオフィリックデザインとは、緑あふれる自然環境を好む人間の性質に着目したソリューションです。自然に恵まれた立地を生かして『万葉の庭』と題したランドスケープをつくるほか、若草山が望める高さに設計します。また、知的障がい、発達障がいを抱える方が使いやすい設備や、LGBTの方に対応したトイレを設置し、高齢者向けだけではないユニバーサルデザインを目指します。」(本多)

    このほか、365日、大和ハウスグループ以外の地域コミュニティの人々に訪れていただけるような仕掛けを検討しています。

    本多はWELL認証取得を目指す作用について「ZEB(※6)も取得し、建物の省エネ化も徹底しますが、その際に心配される快適性や健康性をWELL認証で担保しています。例えば、省エネを考えると照明は暗ければ暗いほどいいけれど、それでは人間の快適性は損なわれます。部分部分で相反する価値のバランスを保つことができます」と話します。

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    3つの国際認証とZEBの取得を目指すことで、環境にも人間にも細やかな配慮を行き届かせた新研修センターは、企業活動をサステナブルに成長させ、どんな新たな価値を生むのか。挑戦は続いていきます。

    • ※5 Sustainable SITES Initiative ランドスケープに特化した評価・認証制度
    • ※6 Net Zero Energy Building

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