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連載:未来の旅人 アメリカでの成功が、日本の地方創生につながる。"海藻"を世界に発信する三木アリッサの挑戦

連載:未来の旅人

アメリカでの成功が、日本の地方創生につながる。"海藻"を世界に発信する三木アリッサの挑戦

2019年に、LA発の和菓子ブランド「MISAKY.TOKYO(ミサキ・トウキョウ)」を立ち上げた三木アリッサさん。寒天でできた色とりどりの琥珀糖を上質の箱におさめ、まるでジュエリーのように提供しています。著名セレブのキム・カーダシアンからオファーを受け、コラボレーションが実現するなど、アメリカで注目を集めました。

現在、三木さんは寒天の材料である海藻をさらに探求し、海藻由来の機能性飲料「OoMee(ウーミー)」を開発するなど、和菓子ブランドから海藻テック企業へとビジネスを広げています。

スーツケース2つと200万円の貯金を持って渡米したのは5年前。どのように道を切り開き、未来を描いてきたのでしょうか——。活動の原点は小学生時代まで遡ります。

日本文化への思いを胸に、27歳で渡米した理由

三木さんは銀行員の父とアーティストの母のもと、ニューヨークに生まれました。アメリカと日本を行き来する幼少期を過ごし、日本に引っ越したのは9歳の時。小学校では帰国子女という珍しさからいじめに遭い、アイデンティティ・クライシスを起こしてしまったと話します。「日本人とは」「アメリカ人とは」と思いを巡らす中で、出会ったのが伝統工芸でした。たちまち、日本文化に魅了されていきます。

デパートの催事場に出かけた際、職人たちが手仕事を披露しながら販売する「職人展」に夢中になり、足しげく通うようになりました。

「職人さんの技術が素晴らしくて、私の中で彼らはヒーローでした。でも、仲良くなった職人さんたちは、口を揃えて『この業界は将来がないから、来ちゃダメだよ』と。私の母も才能あふれるアーティストでしたが、ビジネスはうまくいっていませんでした。日本では、職人をマネジメントする事務所のような存在がない。じゃあ自分が力になれる仕事をしたいと思うようになったんです」。

それからというもの、着実に実績を重ねていきました。早稲田大学在学中、フローリストの作品をブランド化して、楽天ランキングで1位を獲得。卒業するとネスレ日本に就職してマーケターとして活躍し、その後は日本酒ベンチャー企業で果実酒専門ブランドを立ち上げました。藤巻百貨店に入社し伝統工芸を扱う中、海外でビジネスチャンスを得たいと思い、イスラエルの専門商社へ。新規事業の開発責任者として従事した後、27歳でアメリカに渡りました。

「人口減少や少子高齢化が進む中で、日本の市場だけではなく新しいビジネス機会が必要だと感じました。市場が大きいところで勝負をする。そこで成功するためにはローカライズを全力でやっていくことだと、スーツケース2つと一生懸命貯めた200万円を握りしめて、2019年8月に渡米しました」。

アクシデントから、日本の海藻加工技術と出会う

2019年9月、Cashi Cake Inc.(現:Aqua Theon Inc.)を設立。この時すでに、和菓子でアメリカ市場に打って出ることを決めていました。まずは"食のラグジュアリー"に着手し、顧客リストをもとにビジネスを拡大しようと思い描いたのです。では日本の食の中で、なぜ和菓子だったのでしょうか。

「当初、伝統工芸の事業も検討しましたが、その国のカルチャーに落とし込むのが非常に難しく、最初の事業としてはハードルが高いと感じました。いろんなビジネスの種をまきながら、2018年頃、アメリカ市場における和菓子の可能性に気がつきました。ビーガンやグルテンフリーの市場が成長しているけれど、ヘルシープロダクトは揃っていないし、ギフトフード市場も伸びているのにプレイヤーがあまりいなかったんです」。

和菓子の中で琥珀糖に決めたのも、明確な理由がありました。

「まず、なぜ抹茶だけがアメリカで大成功しているのかを考えました。一つは色鮮やかであること、二つ目は、アイスクリームなど西洋のスイーツにアドオンできること。西洋のスイーツからかけ離れたものは認知されません。それから、アメリカで展開する上で何より重要なのは、物流の問題です。琥珀糖は冷凍して配送する必要がありません。加えて、アメリカでは配送会社の人が荷物を投げてどれくらい正確に置けるかという"デリバーチャレンジ"がSNSで流行ったりするような状況でした(笑)。そういったことを考慮すると、琥珀糖しかありませんでした」。

琥珀糖の材料は、海藻から作られる粉寒天。三木さん曰く、寒天に使われる海藻は繊細で収穫した際の環境や温度によって性質が変わりやすく、また、果汁などの刺激物が加わることによって固まりにくくなるそう。

当初はアメリカの環境に合わせるべく、現地の原材料でレシピ開発を進めていました。しかし突然、予想だにしない出来事が起こります。

「その日の温度や湿度など、データを取っていたのですが、ある日、同じ条件下でも固まらなくなりました。それで、なぜ日本では安定した寒天ができるんだろう、と疑問に思ったんです。調べるうちに、日本がもっとも海藻の加工技術が進んでいるとわかりました。1600年前から海藻を食べている国なので、いろんなソリューションがあるんです」。

三木さんは、長野県にある寒天のトップメーカー「伊那食品工業」に問い合わせました。

「伊那食品工業さんが素晴らしいのは、作られている寒天の種類がなんと約1500種類もあることです。用途も食感もさまざまで、クオリティコントロールが圧倒的でした」。

海藻を日常的に食する独自の文化や、日本の優れた海藻加工技術を世界に発信したい——。和菓子ブランドが海藻テック企業へと歩み始めた出来事でした。

現在、寒天にとどまらず日本の各地域から海藻の加工技術を集め、プロダクトへと展開予定です。繊細な原材料でどう最終製品を作るか、どんな味わいが好まれるのか。詳細は企業秘密と言いますが、三木さんの探究はなかなか真似できるものではありません。

「OoMee」の試作の様子。

「"ラボ"はわが家のキッチンです(笑)。海藻にまつわる論文は全部読んで、製品開発の試行錯誤をしています。味の好みも、アメリカ人と日本人のギャップを分析し、最後は自分の舌を信じて判断します。今フレーバーが48種類あるんですが、それぞれ400回は試作していますし、この夏に販売予定の『OoMee』も4000回は作っています。気合と根性ですね(笑)」。

世界も気づき始めた。海藻が秘める大きな可能性

海藻テックのリーディングカンパニーとなり、今は海藻由来の機能性飲料「OoMee」の発売に向けて奔走しています。

今夏アメリカで発売予定の「OoMee」(写真手前左)

2年前、ホールフーズ・マーケットという全米No.1の小売店のトップ10キーワードに「seaweed(海藻)」がランクインしました。もともと海藻を食べる習慣のなかったアメリカで、目下、海藻に大きな注目が集まっているといいます。

「注目の理由はまず、サステナビリティの観点です。成長スピードが早く、かつ成長過程で肥料や土地、新鮮な水を使う必要がない。二酸化炭素を吸収するなど、環境負荷も低い。次に、コレステロール値や血糖値を下げるなど、体にいい。腸内環境が整うことでセロトニンが作られますから、メンタルウェルネスにも効果があります」。

「OoMee」は全米最大の食品展示会「ナチュラルプロダクトエキスポウエスト」Nextyアワード次世代プラント部門でファイナリストに選出されるなど、発売前から期待が高まっています。

また、ビーガンの観点でも大きな可能性があると三木さんは説明します。

「医療用カプセルの80%がゼラチンでできていますが、ほとんどが豚由来のため、ビーガンやムスリムの人などが薬にアクセスできません。そこに海藻が取って代わることができるんです。そこで、鳥取県産業技術センターと、海藻の成分を用いてアルコール飲料をカプセルで包む技術を開発しました。この技術をベースに医療用カプセルを作る研究をしています」。

自分が頑張るほど、日本の地方創生につながる

鳥取県産業技術センターと開発した新技術には、世界中の飲料メーカーから問い合わせが寄せられています。

「私たちの会社の売上が上がるほど、伊那食品工業さんや鳥取県産業技術センターさんも収益が上がります。日本の培ってきた技術が世界中で喜ばれ、地方の活性化にもつながる。職人さんの力になりたいというところからスタートして、夢見てきたことがようやく蕾になりました。もちろん、いつかは職人さんに還元できることもしたい。花を咲かせるまで頑張りたいですね」。

今、日本各地の海藻加工技術をもっと発掘しようとしています。また、海藻テック事業の発展だけでなく、自身のビジネスモデルが別の分野にも広がることを望んでいるそうです。

「専門分野に特化して海外に販路を広げるスタートアップが増えていけば、面白い経済圏が作れると思います。登山のシェルパのように一歩一歩踏み固めて、海外進出したい人たちが歩きやすい道を作りたい。そこに私の人生のパッションがあります。そして、日本で息苦しさを感じている子どもたちがいたら、『こういう道もあるよ』と伝えたいです」。

山道が吹雪いても、めげることはないと力強く語る三木さん。

「苦しいこともあるけれど、自分が頑張るほど、未来のためになっていると思える。そんな仕事をさせていただいていることがすごく幸せです。やっぱり一言で言うと、楽しい。自分の命を燃やしている、という感じが楽しいです」。

PROFILE

三木アリッサ

三木アリッサAlissa Miky

1992年NY生まれ。早稲田大学法学部在籍中にプリザーブドフラワー専門ブランド立ち上げに参画し、楽天No.1ブランドに成長させる。卒業後ネスレ日本にてCRMを担当し、その後日本酒ベンチャーや藤巻百貨店、イスラエル専門商社などで経験を積む。2019年9月に「Cashi Cake Inc.(現:Aqua Theon Inc.)」をLAで創業。同年11月に「MISAKY.TOKYO」をローンチ。2024年夏、海藻テックのリーディングカンパニーとして海藻由来の機能性飲料「OoMee」をアメリカにて発売予定。

大和ハウスグループは、「人財の多様性」を大切にしています。社内・社外を問わず、一人ひとりの考えを話し、違いを共有し、組み合わせ、捉え直すことから、社会課題解決に向けたアクションが始まると考えています。TALK,SHARE,ACT対話コンテンツはこちらよりご覧いただけます。

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