CREコラム
中小企業における生産性を考える「働き方改革」につながるワークプレイスとしてのCRE戦略
公開日:2017/06/20
従業員の満足度、ロイヤリティの高さが企業の生産性に大きく影響することは、以前のコラム(No.31)で紹介したとおりですが、これがCRE戦略とどのように結びつくのかを考えてみましょう。
知的ビジネスでは、中小企業も大企業並みに生産性は高い
こちらのグラフは、働く人たちの知的生産性の高さが業績に反映されやすいとされる、非製造業における大企業と中小企業の労働生産性の比較です。やはり、どの業種においても、大企業の労働生産性が中小企業に対して上回っています。
特に、運輸、不動産、インフラ事業、金融業界においては顕著です。設備の規模や数の優位性が出やすい業種と言えるかもしれません。しかし、学術研究・専門技術サービス業や非製造業といった、情報や知識などのリソースが仕事のクオリティに直結するような業種においては、中小企業と大企業の間での大きな差はありません。つまり、より知的生産性が必要とされる業種であるとも言えるでしょう。
極端かもしれませんが、知識産業・情報産業などにおいては、大企業を上回る生産性を上げることも可能だと言えます。
非製造業における労働生産性の平均値(業種・規模別)
平成27年度中小企業白書「中小企業の生産性分析」(経済産業省)より
現在、国を挙げて「働き方改革」を率先していますが、「労働時間短縮」と「経済成長」を同時に果たすには、生産性を飛躍的に向上させるしかありません。
生産性を左右する要素については、ICTをはじめとした設備や従業員の能力開発、働く環境(ワークプレイスや制度、福利厚生など)の整備、また将来を見据えた投資など、様々なものがありますが、ここでは、CREと密接に関連する、ワークプレイス環境について考えてみたいと思います。
日本の企業が保有する不動産(CRE)は、生産工場や配送センターなどの活用を除けば、多くの企業において事務所や作業所など、いわゆるワークプレイスとして活用されています。
ワークプレイスや作業所は、企業活動を行うにあたって非常に重要なものです。立地条件によって採用条件や人材も変わりますし、ハード、ソフトともに快適なオフィス環境は、社員の満足度やモチベーションにも変化が生まれるはずです。
能力の高い人や自分自身に自信を持っている人は、十分な成果を出せる環境を選ぶでしょうし、自分の能力はこの環境では活かせないと判断すれば、その環境、つまりその会社を選ぶことはありません。労働環境に力を入れるということは、優秀な人材を確保するという意味でも非常に大切なことです。
さらに、こうした優秀な人材の確保は、その人の持つ影響力によって、いわゆる「人が人を呼ぶ」状態となり、近い能力を持つ人材の採用にもつながります。人材の獲得に関して良いサイクルが生まれやすくなるでしょう。
そういった観点で考えれば、優れたオフィスワーカーは、優れたオフィス環境を求めています。自分自身のアウトプットが最大限になるようなオフィス環境を求めるのは、至極当然のことだとも言えるでしょう。
従業員の立場から見れば、オフィス環境の良し悪しは、その企業の従業員に対するロイヤリティ(いかに従業員を大切に思っているか)の反映だとも言えます。
中小企業であれば、特にこの傾向は顕著ではないでしょうか。今でも、中小企業において、非常にユニークでクオリティの高いオフィス環境を用意し、すばらしい人材を確保し続ける企業も多数あります。
恵まれない中小企業向けのオフィス
近年、特に東京地区において、大規模のオフィス建築が活況となっており、比較的築年数の浅い、いわゆる先進設備を保有したオフィスビルが非常に多くなっています。
しかし、多くの中小企業がそのユーザーである中小規模のオフィスビルに関しては、築20年以上のものが大半を占め、中小規模のオフィスビルに関しては、古いビルの改修や環境整備が急がれる状況となっています。
特にバブル終焉期に建てられたオフィスビルが大量に存在しており、5000坪以下のオフィスビルは、築20年以内のビルに対して約4倍存在しているとも言われています。
そうした、築20年以上も経つようなビルは、現在のビジネススタイルにそぐわない環境のものも多く、生産性の向上にマイナスとなるような状況が多数存在しています。
たとえば、
- ・部門間で交流することのないオフィスレイアウト
- ・温度や湿度が不快で集中力がもたない
- ・照明のクオリティが低い
- ・情報整理(ICT設備)の環境がない
- ・外出中は、社内のデータベースにアクセスできない
- ・部門の壁によって他からの情報が入らない
- ・ミーティングやブレストのスペースもない
こうした状況を改善し、優れた人材が優れた成果を出す環境を準備することは、中小企業の経営陣にとっては急務だと言えます。しかし、紹介したように、築浅ビルはますます減少していきます。
CREを保有する企業は、「働き方改革」の観点はもちろん、現在の社員の知的生産性、将来の人材確保という観点からも、「ワークプレイス環境」を今一度再検討する必要性があるのではないでしょうか。