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特集:堀田カーペット株式会社

足裏にしあわせを

住宅の床と言えばフローリングか畳。そんな固定観念をお持ちではありませんか。
実は敷き込みカーペットという選択肢もあるのです。
今回はカーペット製造メーカー・堀田カーペット株式会社の堀田将矢さんに、
ふかふかの足触りの快適さと、作り手としての想いを伺いました。

床から伝わるホスピタリティ

「敷き込みカーペット」という言葉を聞いたことがなくても、高級ホテルのロビーに足を踏み入れた瞬間を思い出せばイメージしやすいかもしれません。ウールを織り上げた生地の下にはウレタンなどのクッション材が敷かれ、足裏に伝わる感触はふかふか。その優しさに、人は受け入れられているという安心感を抱きます。

「敷き込みカーペットは住宅にこそふさわしい床材です」と自信をもって語るのは、カーペットメーカー・堀田カーペット(大阪府和泉市)の三代目社長、堀田将矢さん。※ウィルトン織りのカーペットを作る、国内でわずか数社のうちの1社です。

堀田カーペットは繊維産業の街として栄えてきた大阪府の泉州地域で1962年に創業し、品質の高いものづくり一筋に創業57年を迎えました。同社の作るウィルトン織りカーペットは高い耐久性や頑丈な造りで評価され、日本各地のホテルや個人住宅を始め、ブランドショップ、鉄道車両や公用車など、さまざまな分野で重宝されています。

床座の暮らしを意識し、地窓から坪庭をのぞむ仕掛けも

堀田さんは自身でも敷き込みカーペットの性能を確かめるために、そして妻や3人の小さい子どもと快適に暮らすために、オールカーペットの自宅を3年前に新築しました。リビング、ダイニング、キッチン、寝室、洗面室、そして玄関や階段。なんと、浴室とトイレを除くすべての床に敷き込みカーペットが用いられています。

仕事で国内外を飛び回っていることが多い堀田さん。出張先からわが家に帰って玄関で靴を脱ぎ、框に上がった瞬間、柔らかい感触にほっとすると言います。堀田家にはスリッパがありません。大人も子どもも、一年中裸足で過ごして足裏から幸せを感じています。

「こんなにも心地良いカーペットの暮らしを、もっと多くの人に知って欲しくて。家を建てる前にうちを見学してくださった方は、みなさん、新居のカーペット床面積を広げられるんですよ」とうれしそうに話してくださいました。

※18世紀にイギリスのウィルトンという町で発明された織機を使って織られるカーペットのこと。自由なデザインが可能で、耐久性に優れているのが特長。

床座でくつろぐ堀田家の日常

長男の蒼介くん(7歳)と長女の茜ちゃん(3歳)がパパとプロレスごっこに興じている隣で、次男の柊介くん(5歳)はごろんと横になったりゲームをしたり。仲良くソファにもたれてテレビを見ているかと思えば、腕立て伏せが何回できるか兄弟で競争が始まります。食事を取るのも、全員でリビングのローテーブルを囲んで。気がつけば、堀田家はいつも視線の低い姿勢で遊んだり、くつろいだりしています。

リビングでくつろぐ堀田さんと3人の子ども達。家中にカーペットが敷かれているから、どこでも遊び場になるそう

「床座で暮らしてきた日本人の感覚に、カーペットの生活はぴったり合っていますね。低い目線で暮らすから天井がより高く、部屋が広く感じられるんです」と堀田さん。わんぱく達が走り回って転んでも大きなケガをしにくいため、安心して見守っていられます。危険の多い階段も、子ども達は早い時期から一人で上り下りできるようになりました。

ホコリを床に留めておくため、空気中に舞いにくく、吸い込みにくいのもカーペットのメリットの一つ。アレルギーの原因になる虫がつきやすいという印象を持たれがちですが、日本で紡績されているウールは必ずJIS規格の防虫加工が施されているので、その点でも安心できます。

また、汗ばむ季節もベタつかず快適に過ごせるのは、羊の毛がとても調湿機能に優れているから。リビングで横になっていつの間にかうたた寝をする心地良さは、大人も子どもも関係なく幸せな気分にしてくれます。

「カーペットにすれば、暮らし方がきっと変わると思います」(堀田さん)。

玄関のニッチに飾られた羊のオブジェ。
素晴らしい素材を与えてくれる動物への感謝を、いつも忘れずに

カーペット敷きの階段を難なく上る、末っ子の茜ちゃん

カーペットとの付き合い方

気になるのがお手入れですが、基本は他の床材と同様に付き合えばいいそう。大人だけの家族なら週に一度、子育て中のご家庭なら1日か2日に一度ほど掃除機をかけるだけ。年に一、二度スチームクリーナーで大掃除をすればさっぱりします。

「うちではジュースをこぼしたり、味噌汁をこぼしたり、毎日のように子どもが汚していますが平気です」という言葉通り、入居から3年を経た堀田家のカーペットは、新築同様とはいかなくても十分きれいに保たれています。撥水性があるのでほとんどの汚れはすぐに拭き取れば大丈夫。カレーやコーヒーなども、お湯をかけてタオルでトントンと叩くように拭き取る作業を数回繰り返せば、いつの間にか臭いも色も消えてしまいます。

というのも、ウールには中に入った汚れを自動的に外に排出する機能があるから。生活していて表面がこすれると自然に出てくる「遊び毛」が、汚れを一緒に外に出してくれるのです。

織り方も形もさまざまなカーペットが、遊び心たっぷりに寝室の壁面に埋め込まれています

伝統の製法と熟練の職人の仕事

堀田さんが住宅の床に一番適していると考えるのは「密度の高い、ウールの織物カーペット」。堀田カーペットではウールの中でも特にイギリス産の原料にこだわっています。羊毛選びから紡績、染色までは昔から繊維産業が盛んな地元・泉州地域の協力会社とタッグを組みながら。糸を繰り、機械で織り上げ、補修や加工、仕上げを行うのは自社で。より良い品質と、新しいデザインの可能性を日々追い求めて試行錯誤が続きます。

糸を巻いたコマを最大6000個セットした様子は壮観

堀田カーペットの工場には、ウィルトン織りの機械が6台。産業革命時代のイギリスで発明された歴史ある織機です。今では製造する会社がほとんどなく貴重な存在になった織機を、大切にメンテナンスしながら使っています。

この機械を動かすのは「織工」と呼ばれる職人にしかできない仕事。一つ一つのコマ(糸を巻いたもの)をセットし、バランス良く張力をかけるために重しを付けるのも、機械の音に耳を澄まして動作を調整するのも、経験を積んだ織工にしかできません。

何千も並んだ経糸の間を木製のシャトルが行き来し、図案通りに緯糸をかけていく。リズミカルな音を立て、色とりどりの生地が少しずつ織り上がっていく。そうして1日に織れるのはわずか10mから15m程度です。堀田さんが「当社のカーペットは工業品ではなく工芸品」と自負するのもうなずけます。

ウィルトン織機1台に織工が1人、付きっ切りで作業。目と耳を駆使して機械のクセやその日の状態を見抜き、均一な生地を織り上げていきます

びっしり並んだ経糸の間をシャトルが飛び、緯糸を織り込んでいく。腕のいい織工の操る機械は音も静かだそう

染色された糸を繰っていくワインダー工程。さまざまな巻き方があり、一人前になるには歳月を要します

小さな傷や糸の切れなどを丁寧に点検し、補修する職人

誇れるものを作ることがお客さまの感動につながる

堀田さんは父から会社を受け継いだ時、衰退しつつあったカーペット業界をどう盛り上げるか頭を悩ませました。答えを見つけたのは、視察で訪れたスコットランド・アイラ島のボウモア蒸留所。伝統の製法を頑固に守り、シングルモルトウイスキーで唯一無二のブランドを築き上げていました。

市場を追わず、自分達が作りたい製品、良いと思う製品だけを作ること。それがきっとお客さまの感動に、ひいてはカーペット業界の再生につながると確信した堀田さん。以来、より良いものづくりを究めるための研究と、「生活者」としてカーペットの良さを伝える広報活動を両輪で行ってきました。

2016年にウールラグのブランド「COURT」(コート)を立ち上げたのは堀田さんの新しいチャレンジでした。既存の住宅に敷き込みカーペットを取り入れるのはハードルが高い。ならばと、気軽にウールカーペットの良さを知ってもらえるラグを提供し、そこからファンを増やしていったのです。

「ものづくりは夢づくりです」と笑う堀田さん。その瞳には、日本の住宅にもっともっとカーペットが敷き込まれる未来像が映っていました。

ウールラグブランド「COURT」は、お客さまと敷き込みカーペットをつなぐ懸け橋に

PROFILE 堀田 将矢さん(ほったまさや)

堀田カーペット株式会社
代表取締役社長
1978年大阪府生まれ。大学卒業後、一般企業勤務を経て2008年に堀田カーペット株式会社に入社。2017年2月3代目代表取締役社長就任。自邸「カーペットの家」を2015年に竣工し、啓蒙活動を続けている。

information

本社工場
住所 / 〒594-0065 大阪府和泉市観音寺町531番地
TEL / 0725-43-6464
http://hdc.co.jp/

取材協力 / 堀田カーペット株式会社

2018年6月現在の情報となります。

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