CREコラム
アジアに広がるグローバルコールドチェーン(1)日本の高品質な食産業を世界へ
公開日:2017/11/30
POINT!
・コールドチェーンが東南アジアを中心とした海外においても急速に広がる
・日本は輸出拡大のための「コールドチェーン等の食のインフラ整備」を推進
食品の物流を効果的に行おうとするならば、低温や冷凍状態を保ったまま移動させる技術や仕組み(コールドチェーン)が必要になります。日本で順調に伸びてきたこのコールドチェーンが東南アジアを中心とした海外においても急速に広がっています。
コールドチェーンとは
コールドチェーン(cold chain)とは、生鮮食品や医薬品などを生産・輸送・消費と製品が移動する過程において、冷蔵もしくは冷凍した状態に保ち続ける物流方式です。日本語では、低温流通体系とも呼びます。コールドチェーンの進歩によって、商品を鮮度の高い状態で移動し、届けることができるので、物流は飛躍的に発展したといわれています。
コールドチェーンを利用している製品は、化学薬品、血液パックといった医療・医薬品、そして冷凍食品、生鮮食品など、多ジャンルにわたります。病院や薬局、コンビニエンスストア、スーパーなど私たちの暮らしに欠かせないお店や施設で活用され、私たちの生活の中に浸透しています。
コールドチェーンの発展が食品の品質に与えた影響
コールドチェーンの登場によって、特に食品の物流業界に大きな変化が起こりました。野菜などの生鮮食品を常温配送から低温配送に変えることで、鮮度をできる限り落とさずに消費地に送ることができるため、鮮度保持期間が長くなり、味や品質が保たれ、消費者の満足度が格段に上がりました。また、より広い地域への配送が可能になったことで、生産量の拡大にもつながりました。さらに、生鮮食品の品質低下による廃棄ロスも防ぐことができるようになり、食品業界全体で経営効率が向上しました。
そして何より、コールドチェーンの高度化、大規模化によって、海外への輸出も可能になり、日本の高品質な食品が海外でも展開できる可能性が広がったのです。
拡大するコールドチェーンの市場規模
国内冷凍食品の生産額(一般社団法人日本冷凍食品協会調べ)を見てみると、平成22年に約6,300億円だったのが平成28年には約6,900億円にまで規模を拡大しています。コールドチェーンの進歩とあいまって、冷凍、チルド食品の需要は拡大しているようです。
図1:冷凍食品国内生産の推移
一般社団法人日本冷凍食品協会「統計資料」より作成
また、農林水産省(以下「農水省」という)の「農林水産物・食品の輸出額の推移」を見ると、日本からの農林水産物・食品の輸出は、平成25年から4年連続で増加し、平成28年輸出実績は7502億円となっており、平成31年度には1兆円の目標を立てています。
当然、この「農林水産物・食品の輸出」の実績を伸ばすには、コールドチェーンは欠かすことのできない仕組みであるといえます。
図2:農林水産物・食品の輸出額の推移
財務省「貿易統計」を基に農林水産省作成
世界的にもコールドチェーンの市場規模は拡大しています。特に東南アジアでコールドチェーンの市場は急拡大しています。人口が増加し、生活水準も向上していますので、今後さらに必要性は高まるでしょう。
ただし、日本政策投資銀行が調査した結果を見ると、東南アジアにおける冷凍冷蔵食品の消費量は、先進国に比べてまだまだ少ないようです。タイやマレーシア、中国、ベトナム、フィリピン、インドネシアなどにおける冷凍冷蔵食品の消費量は日本と比較しても約3分の1、あるいはそれ以下の水準しかありません。
逆に考えれば、ここに伸びしろがありそうです。
今後、経済発展、人口増加に伴って、冷凍冷蔵食品の需要は急拡大し、コールドチェーンの整備も進められていくことは、間違いないでしょう。
図3:冷凍冷蔵食品1人あたり消費量
出典:日本政策投資銀行「拡大するアジアの低温/定温物流」
農水省もコールドチェーンを推進
農水省は、2014年6月6日、「グローバル・フードバリューチェーン戦略~産学官連携による“Made WITH Japan”の推進~」を策定・公表しました。
「フードバリューチェーン」の構築とは、農林水産物の生産から食品製造・加工、流通、消費までの過程において、付加価値をつける連鎖(チェーン)をつくることです。農水省によれば、「産地のこだわりを消費者につなげていくこと」と定義しています。
そして、「グローバル」と名付けられているのは、このバリューチェーンを海外展開することによって、日本の食産業の輸出環境の整備を行い、日本の食産業が海外へ向けて輸出を拡大し、さらに生産者にもより大きな付加価値をもたらすようにしていこうというわけです。
その基本戦略として、以下の10点が掲げられており、「コールドチェーン等の食のインフラ整備」も重点項目の一つとして取り上げられています。
- ・産学官連携による戦略的対応
- ・我が国と相手国の産学官連携の枠組の構築
- ・経済協力の戦略的活用
- ・コールドチェーン等の食のインフラ整備
- ・ビジネス投資環境の整備
- ・情報収集体制の強化
- ・人材の育成
- ・技術開発の推進
- ・資金調達の円滑化
- ・関係府省・機関の連携強化と推進体制の整備等
フードバリューチェーンを海外展開していくには、さまざまなインフラが必要となります。
灌(かんがい)漑施設、農業機械、植物工場、食品製造設備、コールドチェーン、物流センター、小売・外食等の流通販売網、道路、電力など多岐にわたります。
これらをあわせてパッケージで海外に展開することができれば、大きな経済効果が期待できます。
農水省は、「世界の食市場が急速に拡大する中で、産学官連携の取り組み強化により、意欲的な目標として2030年度には海外売上高約20兆円を目指していくこととする」としており、今後の日本の食産業の大きな柱として期待が寄せられています。