CREコラム
働き方改革のために不動産はどう活用されるべきか(5)人に配慮をした建築空間を評価する「WELL認証」
公開日:2019/02/28
オフィスに勤務する人にとって、働きやすさはビルやオフィスによって大きく変わります。
昨今、建物に対する環境配慮や省エネルギーへの取り組みは世界的な潮流となり、LEEDをはじめ、BREEAM、CASBEEといった建築物の総合環境性能評価が広く普及しています。
そして、ビルそのものではなく、「人」にフォーカスしたオフィスビルへの取り組みも広がっています。国土交通省では、「ESG投資」の普及という観点からも、働く人の健康性・快適性、利便性、安全性に関する認証制度構築の動きが出ています。
国が推進する「働き方改革」と呼応するように、「健康経営」に取り組む企業も増えています。生産性や業績の向上には、働く社員の健康が不可欠であり、そのためには企業としても社員の健康への投資が必要であるという考え方です。
その健康経営に対する取り組みの一つが、オフィス環境の整備です。1日の大半の時間をオフィスで過ごす社員にとって、オフィス環境が心身に与える影響は少なくありません。大手外資系企業を中心に、健康面に配慮したオフィスづくりを行う企業も増加しています。
また、オフィス環境やオフィスのデザインが、業績や仕事の質に影響するということは、さまざまな調査結果でいわれています。
注目を集める「WELL認証」
現在、オフィス(ワークプレイス)における、働く人の健康に配慮した建物・室内環境及び業務運用の評価基準「WELL認証」が注目を集めています。
WELL認 証(WELL Building StandardTM)とは、 認証業務を行っているGBCI(Green Business Certification Inc.)によれば、「空間のデザイン・構築・運用に『人間の健康』という視点を加え、より良い住環境の創造を目指した評価システム」とされています。公益企業であるInternational WELL Building Institute(国際WELLビルディング協会)から2014年10月20日にv1として正式公開されてスタートし、2018年5月には、v2パイロット版が公開されました。
WELL認証の発案は、アメリカの不動産企業Delos社のポール・シャッラ氏で、日本では一般社団法人グリーンビルディングジャパンが協力しています。徐々にですが、認証取得に取り組む国内企業も出始めており、2019年1月11日現在での認証は142件(うち日本1件)、認証に向けた登録は1,136件(うち日本13件)となっています。
WELL認証は、建物だけではなく、活動まで含んだ全般的な内容となっており、管理運営に関すること、社内制度やポリシーの内容にまで及んでいます。一例を挙げると、空気質や水質などオフィスビルの物理的な環境の整備から、運動機会や睡眠への配慮、精神的なサポート、コミュニティーの形成といった制度づくりや運用など、内容は多岐にわたっています。
WELL認証の具体内容
WELL認証は、「コンセプト」と呼ばれる10のカテゴリーに分類されています。v1のWELL認証の評価項目は、空気、水、食物、光、フィットネス、快適性、こころの7つのコンセプトで、合計100項目(必須項目41、加点項目59)でしたが、WELLv2では従来の7つから10に増えています。7つのコンセプトをさらに細分化した形になり、空気、水、栄養、光、運動、温熱快適性、音、材料、心、コミュニティーの計10コンセプトで評価されます。さらに先進的な取り組みを評価する「イノベーション」も用意されています。
WELL認証10のコンセプト
空気 | 建物の総合的な設計戦略やさまざまな施策によって、高品質の室内空気質の確保を目標とする |
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水 | 利用者への十分な水分補給を行うとともに、水質に関する高い意識、メンテナンスや管理を通じて、健康へのリスクの低減を目指す |
栄養 | より健康的な食品や飲料を選択できるような環境を設計し、健康的な食生活をサポートする |
光 | サーカディアン位相(体内リズム)の阻害の軽減、睡眠品質の改善、空間と生産性へ好影響をもたらす照明環境の提供を行う |
運動 | 座りっぱなしの状態を阻止し、生活、学習、仕事、遊びのスペース全体で運動の機会を生み出し、運動を促す |
温熱快適性 | 温熱に関する設計と制御を向上させ、温熱快適性の提供に向け全体的なアプローチを実施する |
音 | 内外部の騒音や雑音の制御など、音響的快適性を妨げる要素を特定し、軽減することで、働く人のウェルビーイングを向上させる |
材料 | 有害な化合物や製品の制限、排除によって、危険な建物の材料成分に人がさらされることを減らす |
こころ | 利用者の認知および情緒の健康とウェルビーイング向上のために、精神的健康のあらゆる要因に配慮し取り組む |
コミュニティ | 医療プログラムの提供、育児サポート、社会参加の促進などに加え、あらゆる人々がスペースを活用できるユニバーサルデザインの原則を具体化して、統合されたコミュニティを確立する |
※ウェルビーイング:身体的、精神的、社会的に良好な状態にあること
「IWBI WELL v2™パイロット版」より作成
健康経営や働き方改革への取り組みに代表されるように、社員の健康が企業の業績に直結するという経営的に加えて、地球環境、企業、オフィス、人、すべてが健康となり、サステナブルな社会を目指す価値観は、世界的な潮流となっています。中でも中心となる「人」の心身の健康は、ビジネスの範疇を超え、もっとも重要な基準といえるでしょう。