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コラム No.77

CREコラム・トレンド

国交省が四半世紀ぶりに「不動産業ビジョン」策定

公開日:2019/05/31

国土交通省は2019年4月、約四半世紀ぶりに「不動産業ビジョン」を策定しました。不動産業に関わる全ての関係者が、業界の持続的な発展に向けて取り組むべき課題などを取りまとめています。

市場環境の変化9項目を指摘

いうまでもなく、不動産業は豊かな国民生活、経済成長を支える重要な基幹産業。今後10年間も継続的に成長産業として発展することが期待されています。そのためには、不動産業に携わるすべてのプレーヤーが業界のあるべき将来像や目標を認識し、官民一体となって必要な取り組みを推進することが不可欠。2018年10月から社会資本整備審議会産業分科会の不動産部会で議論が展開され、1992年以来27年ぶりに「不動産業界ビジョン2030」を策定しました。

ビジョンはまず、不動産業を取り巻く市場環境の変化として「少子高齢化・人口減少の進展」「空き家・空き地などの遊休不動産の増加・既存ストックの老朽化」など9項目を挙げました。国立社会保障・人口問題研究所の将来推計人口によると、2030年には約1億1900万人、2065年には約8800万人になると見込まれ、わが国は既に本格的な人口減少局面に突入しているとしています。

また総務省の住宅・土地統計調査によれば、2013年までの20年間で空き家の総数は448万戸から820万戸と1.8倍に増加し、このうち賃貸・売却を除いた空き家は、149万戸から318万戸と2.1倍にもなっています(2018年の調査結果では、空き家の総数は846万戸)。今後も世帯数の減少などに伴って空き家が増加すると見込まれており、国は2025年の時点で400万戸程度に抑えることを目指しています。

不動産市場の変化としては、消費者・企業・投資家それぞれの「ニーズ」が変化していると述べています。国土交通省の調査によれば、預貯金や株式などの金融資産に比べて土地を有利な資産だと思わない国民の割合が増加し、空き家や空き地の増加あるいは所有者不明の土地問題など、不動産の質的な需給のギャップを指摘しています。

オフィスに対する企業のニーズは、生産年齢人口の減少に伴い、人材獲得や生産性向上の観点から快適さや交通の利便性などをオフィス空間に求める傾向が強くなっていると指摘。一方、ITを有効利用したサテライトオフィスやシェアオフィスなど、いわゆる「サードプレイスオフィス」を活用する企業も増えてきていると述べています。

投資家ニーズの変化は、不動産投資の国際化で環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)における課題解決に貢献する企業やプロジェクトを支援・支持するESG投資が世界的に注目されており、不動産開発に携わる企業は、こうした中長期的な投資を呼び込める努力をすることが今後重要との見方を示唆しています。

有効活用に限界があれば「たたむ」ことも指摘

「ビジョン」では、不動産業が今後実現すべき官民の共通目標を7つ掲げています。人口減少がさらに進み、一方で空き家など遊休の土地が増えることを考えると、今後は「残された」不動産、つまり不動産ストックの質を高めて、それを最大限利活用する仕組みを作ることが求められます。これは人口増加局面で策定された過去2度のビジョンにはない、新たな目標です。

ストック型社会の実現には、不動産の適切な管理・修繕・改修が不可欠で、これらの物件の長寿命化や付加価値化を図りながら、その価値が市場で適切な評価を得るような好循環を創出することが大切とビジョンは説きます。こうしたマーケットができることで、所有と賃貸、新築と中古、戸建てとマンションという多様な選択肢が揃うことになります。

ビジョンでは、空き家・空き地に対するリノベーションの重要性を説く一方、有効な活用策が見込めない不動産に対しては、思い切って「たたむ」ことも視野に入れ、その適切な「たたみかた」などを模索する必要がある、と不動産の処分という踏み込んだ指摘を盛り込んだことは、極めて注目されます。

まずコンプライアンス徹底を指摘

ビジョンは、民間と国の役割について、その前提として業界が「信頼産業」として認知されるようコンプライアンスの徹底を掲げています。近年、賃貸住宅投資や原野商法など不動産を巡るトラブルが発生しており、一部悪質な不動産業者が存在しています。基幹産業である不動産業が国民に愛される業界であり続けるには、法令順守や業務遂行における透明性の確保が不可欠と強調しています。 そのうえで、民間の不動産業関係者は従来の伝統的、画一的手法にとらわれることなく、多様なニーズに合わせて他業種や行政との連携や協働を通じたトータルサービスを提供するよう述べています。また、AIやIoTなどの新技術を効果的に活用し、業務の効率化を図ること。人材確保のために、業界全体で定着率を高める職場環境の整備など担い手問題を改善することを指摘しています。

官が担う役割としては、市場環境の整備をはじめ、社会ニーズの変化に対応した政策を展開し、業界の適切な指導を行うよう求めています。具体的には前述した「不動産ストック」や、土地所有権の放棄や引き取り手のない不動産の対応など「たたむ」ことに対する「あり方」について今後の検討課題に挙げています。

官と役割のなかに、「心理的瑕疵を巡る課題の解決」記述があります。これは過去に自殺や事件などがあった不動産物件をどう扱うのかを指しています。見守りサービスなどを通じた未然防止策や宅建建物取引業者の説明義務などを検討課題として指摘しています。

「不動産業ビジョン2030」は、これまでの人口増加局面から一転し、人口減少を見込んだ初めての提言になっています。このため、不動産の処分(「たたむ」こと)にも言及するなど踏み込んだ内容になっているといえるでしょう。

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