税理士リレーインタビュー 第22回 「資産、相続に特化し、税務対策だけではなく皆さんが満足いただけることを目指しています。」 さくら税理士法人 代表社員・税理士 田中英雄様
公開日:2019/05/31
相続では、短期間で信頼関係を築くことが何よりも重要
インタビュアー(以下I):資産、相続がご専門ですが、相続ではどのような点に気をつけていらっしゃいますか。
田中(以下T):相続人からのクレームが絶対に起こらないことを第一に気をつけています。事務所の教育の中でも、税法に関して間違えないのは当たり前で、言葉遣いや細かい表現などにも細心の注意を払うように指導しています。感情面の配慮をきちんとしていないと相続人からの信頼を失ってしまいます。紹介してくださる銀行の方に対しても同じです。
法人契約の場合、顧問契約先と月1回のお会いできますが、相続の場合は一期一会です。例えば、初めてお会いしてから1週間以内にこちらから連絡しないと、「大丈夫ですか?」と連絡をいただくこともあります。法人の巡回監査と同じ感覚で月1回程度の報告でいいと思っていたら、相続のお客様との信頼関係を築くことはできません。法人の場合は継続的な顧問契約なので、少し失敗しても取り返すチャンスがありますが、相続の場合はそこで終わってしまいます。さらに、信頼関係を短期間で築かなければなりません。そのためには、常にお客様のことを考え「今日、これを送りましたよ」「届きましたか」など、まめにコミュニケーションをとる必要があります。
お客様の立場になってみると、一生に一度のことですから、本当に大丈夫なのか気になるのも当然です。税金と直接関係ありませんが、個人のお客様の場合、こうしたことで信頼関係を築くことが重要です。
分割対策、納税資金対策、相続税対策を3本柱に活動
I:ホームページに掲げていらっしゃる、相続対策の3本柱について教えていただけますか。
T:3本柱というのは、一つ目が分割対策、二つ目が納税資金対策、そして三つ目が相続税対策です。税理士に相談にいらっしゃる方は、基本的には税務対策が目的です。ところが、例えば土地が10億円で現金が5000万円だとしたら納税額を現金で準備しなければなりませんから、納税資金対策が必要になります。そこで、お客様の年齢に応じて、施設を建築してお金を貯める、あるいは全部売るなどの納税資金対策を立てることになります。
分割対策では、遺言書のご提案をします。私どもは、お客様であるオーナー様全員に遺言書をつくっていただいています。オーナー様が亡くなった瞬間にマンションの家賃が全員の共有になります。お子様が3人いる場合には、家賃収入も3人で割らないといけません。本当は長男が相続すると決まっていても、遺言書がないと、遺産分割協議までいったん3人で割らなければならないのです。
対策3本柱の中で、この分割対策が一番大切です。家賃の帰属をどうするのか、もしくはローンが残っている場合には誰が払っていくのかといった問題が出てくるからです。相続税対策ありきでいくと、分割を行う際、問題となってしまうこともありますから、分割対策を一番に意識しています。きちんと分け、お金もつくり、その後に税金の対策を考える、という順番です。
そうしないと、税務対策として生前贈与をしすぎて現金が不足することにもなりかねません。10人孫がいるとして、毎年110万円ずつ贈与すると年間で1000万円以上資産が減ることになります。いくら税金が減るとはいえ、やりすぎると、気づいたら現金がないということになってしまいます。私どもは相続専門の税理士事務所です。税務対策だけ行うのではなく、「皆さんにとっての最善は何か」を意識しています。
I:それぞれ条件は異なりますから、相続の対策に入るタイミングというのは相当難しいですね。
T:とても難しいですね。親世代が相談にいらっしゃる場合と子ども世代がいらっしゃる場合がありますが、やはり親世代が動いてくれないと、基本的には相続対策はできません。「うちは揉めないから」とおっしゃるご家族の相続がこじれるのはよくある話です。どうきっかけをつくり、ご説明していくかがポイントです。
子ども世代だけがご相談にいらっしゃる場合、親に自分から話しにくいのであれば、セミナーをきっかけにしてもらいます。親子でセミナーに来ていただいて、「あの税理士に相談しよう」といっていただくことからスタートします。
実際の相続のタイミングは、年齢や健康状態によって変わります。また、健康寿命が延びていますので、80歳の方への対策は、以前は約5年を想定していましたが、現在では約10年の対策を立てる必要があります。最近では、100歳までご健在という前提でお話しするようにしています。ご提案のときに「100歳まで考えていきましょう」といっても、「絶対に無理だから90歳で考えてほしい」といわれることもあります。その場合は、いわれたとおりに90歳で想定します。そこはお客様のご意思に従って受け身になるように意識しています。
居住用だけではない、幅広い提案がこれからのポイントになる
I:実際には、分割対策として遺言状である程度決めたうえで、もう少し資金がいる、もしくは活用が必要となるケースも当然出てくるかと思います。そのような場合にはどのようなご提案をされますか。
T:施設を建てようと考え、お客様が建設会社やハウスメーカーから直接提案を受けてしまうと、その後熱心に営業されてしまいます。しかし、私どもが窓口になれば、私どもが建設会社に依頼してお客様に提案をお持ちします。そうすると、お客様が不要な営業されたりすることはありませんとお伝えしています。また、売却を提案したいときには、不動産を複数持っている方の場合、「売りたくない」とおっしゃったとしても、遠いところやエリア的に少し外れているところは提案するようにしています。
実は、大和ハウスグループの日本住宅流通(現 大和ハウスリアルエステート)さんが私どもの事務所の隣にあります。非常に査定をお願いしやすい環境にあり、頻繁にお客様の不動産の査定を出していただいています。
お客様の中には嫌がる方もいらっしゃいますから、一応、お客様に査定の了解を得ます。思ったよりも良い査定が出れば、お客様に確認したうえで正式な査定をご提案します。それで売却されるケースもありますし、「売らない」とおっしゃっている場合でも、査定に出す了解を得られたときには査定をお願いしています。日本住宅流通(現 大和ハウスリアルエステート)さんの査定書は、事例が入ったきちんとしたものなので、多くのお客様が、今売らなくても何かあったときに参考にしようと、捨てずに取っておいてくれるのです。
こうした使い方はTKC会員として提携させていただいているからできることであって、非常にありがたい環境です。オーナー様に頻繁な営業電話が掛かってくるわけではなく、外部に情報が漏れることもまったくありません。そういったことが一切ないことが喜ばれています。情報は欲しいというニーズを汲んでいくと、紹介元の方にも喜んでいただけますし、もちろんオーナー様にも喜んでいただいています。
I:最近の活用事例では、どのようなものが多いのでしょうか。
T:最近多いのは、「居住用の賃貸住宅、マンションはまだ大丈夫なのか」というご相談です。相続対策で多くの方が賃貸住宅を建てられましたが、まだ建築しても大丈夫なのかと心配されているようです。銀行の融資も少し厳しくなっていますし、ニーズはあるのか、というご相談がすごく増えました。どうしたらいいのかご相談に来られるのですが、大きく相続税を下げるためには施設の建築の検討が必要になります。居住用の賃貸住宅の他に民泊やホテル、老人ホームやケアハウス、保育園、社宅などがあります。
実は、こうした非居住用物件をお薦めすると、「では何がいいと思いますか?」と聞かれることがあり、いつも答えに困ってしまいます。お客様の「ここで何をしたらいいのか」という質問に答えてくれるのが、大和ハウス工業さんです。大和ハウス工業さんは、その土地にあったコンビニエンスストア、ロードサイドの店舗、ホテルなどの用途を、テナントを含めて提案してくださいます。ここがとても大事なポイントになると思います。
居住用施設一辺倒では通用しなくなる時代がこれからくるでしょう。税理士も「ここでしたら居住用よりもこのほうがいいのではないですか」という提案する必要があります。最終的に居住用にするとしても提案はするべきです。また、収益面も考えないといけません。建ててもまったく入居者が入らないという可能性もあります。そうなると、税理士だけでは借り主は見つけられません。その点において、大和ハウス工業さんのような規模の会社の力は非常に頼りになります。これだけいろいろなことをやっている企業と提携できていることは、大変ありがたいです。
相談相手を見つけ、税理士をうまく活用する
I:被相続人であるオーナー様の立場で意識したほうがよいこと、年齢が上がるにつれて準備しておいたほうがよいことはありますか。
T:まずは、自分の財産のことを全部さらけ出して相談できる人を見つけておくことです。銀行、弁護士などもいいのですが、税理士は関与者全員のニーズを考えながら申告を出すという方向性ですから、私は税理士がいいと思っています。ただ、税理士なら誰でもいいというわけではなく、やはり相続を専門にしている税理士がいいでしょう。今の時代、どの事務所のホームページにも相続ができると書いてあります。医者も医師免許を取るのに医学部ですべての分野を勉強します。しかし、手の骨が折れたら眼科ではなく整形外科に行きますね。それと同じで、財産所有者の方は、専門性を見きわめることが相続対策をするうえで大事だと思います。
インターネットでよく調べている方から、最初の質問で「先生のところは相続税の申告を年間何件くらいやっていますか」と聞かれることもあります。税理士について書かれている本の中に、そういうことを聞くようにと書いてあるようです(笑)。ほかにも報酬規定についてなど、本に書いてあるとおりに質問なさいます。しかし、それで見きわめるしかありませんから、大事な点は聞いておきましょう。私どももご相談にいらっしゃった方には、「これから他事務所も回るのであれば、相続の申告を年間50件以上やっていたら慣れていると思いますので、聞いてみてはいかがですか」と提案しています。
I:相続税の対策をする方の中には、税理士事務所を敷居が高く感じたり、今まで税理士さんとのお付き合いがなかった方もいらっしゃいます。そういった方々にも気軽に来ていただきたいですね。
T:そういった方のために、事務所の立地にはこだわり、私どもの事務所はこれまで4回の引っ越しをしてきました。ご相談の声が外に漏れないよう、上まで壁がある個室をつくることにずっとこだわってきました。これは非常に大切なことです。最初に借りた事務所は、他の部屋で電話をしているのがわかるようなところでした。そんなところに財産の話をしに行きたくはないだろうと思い、1回目の引っ越しできちんとした個室をつくりました。銀行と提携の仕事がぐっと増えたのはそこからです。銀行が提携するときには、大事なお客様を紹介しても大丈夫なのか判断するために、事務所を見にきます。関係者以外が事務所に入れないようにセキュリティを強化するなど、銀行で行っていることはすべて取り入れました。
TKCといえば巡回監査をはじめとする法人で有名ですが、実は資産税のシステムも非常に優れています。しかし相続となると、なぜかTKCの税理士に頼もうという風潮があまりできていません。そこを何とかすることが、今一番頑張りたいと思っているところです。