CREコラム
不動産証券化のトレンドを追う第7回 不動産証券化とIT~不動産テックの波
公開日:2017/06/20
不動産業とITを融合させた仕組み「不動産テック」が注目を集めています。ITを駆使して不動産の物件情報や地価を推定したりするサービスが登場しており、不動産証券化でもITを活用した新しい潮流は避けて通れないでしょう。
不動産テックは「フィンテック」の不動産版
不動産テックとは、不動産とテクノロジー(Technology)を組み合わせた造語。金融業(Finance)とIT(Information Technology)が融合して生まれた新しいサービスの総称であるFintec(フィンテック)の不動産版です。
金融はITと親和性があるといわれてきました。
それは、金に色が付いていないからで、オカネが持つこの匿名性がインターネットになじみやすいのです。また、インターネットが登場する前から送金や口座振替など、コンピュータを使った資金移動が行われていました。金融業にとってインターネットをはじめとするITは、商品やサービスの裾野をこれまで以上に広げる大きな武器になり、今はフィンテックと称し、金融サービスの新潮流として進展しているのです。
では、不動産業とITはどういう関係にあるでしょうか。金は手にした人が所有者ですが、不動産には1つの物件に必ず所有者がいます。流通するには仲介業者の存在が欠かせません。このため、不動産テックといっても不動産の物件を直接取引するのではなく、物件の売買情報や地価の最新情報を提供するのにとどまっています。
こうしたサービスは、AI(人工知能)の発達でディープラーニング(深層学習)が高度化し、巨大化した情報(いわゆるビッグデータ)を読み込んで広範な情報分析が可能になったことで始まりました。
では、不動産テックは、不動産証券化にどのような形で影響する可能性があるでしょうか。
証券化のデメリットを解消する?
不動産証券化のデメリットは、その複雑な仕組みにあります。利害関係者が多く、コスト(手数料)がかかってしまうことが難点です。しかしITを有効活用し、複雑な証券化業務フローの中で一定の役割を代替することができれば業務効率は高まり、コスト低減につながります。証券化するまでの経費が低減できれば、資金調達(あるいは運用)したい原債権者(オリジネーター)にとって、低利で調達したりより有利な運用利回りが期待できます。投資家にとっても、より魅力ある商品になるでしょう。
ITが不動産証券化で活躍できるシーンには、どのようなものが想定されるでしょうか。たとえば、証券化する不動産物件の投資価値。物件調査や資産価値、法的問題の有無などをAIが判断できれば、建築士や不動産鑑定士、弁護士、税理士などの専門家に依頼していた調査は不要になり、調査や鑑定に関する手数料は大幅に軽減できるでしょう。オリジネーターにとっては経費削減になり朗報です。
一方、投資家はITの恩恵を受けるでしょうか。投資判断が難しいとされる資産担保証券(ABS)。格付け会社の格付けを取得している場合もありますが、これだけを判断材料にすることはできません。対象物件がテナントビルの場合、賃貸料が安全確実に定期的に収入として期待できるのかどうかが、投資のカギを握ります。
しかし物件の所在地に直接足を運んで調査することは難しいものです。商品の説明書(目論見書)に記載された情報などで判断することになりますが、ITを利用すればどうでしょうか。3D地図コンテンツを活用した詳細な画像データや、AIやビッグデータを使って地価などをもとにした将来の賃料収入予測システムを活用すれば、より多くの最新物件情報を提供することが可能になり、投資家への情報開示が進みます。ディスクロージャーに力を入れることは商品の透明性を高めることになり、証券化商品自体の価値を高めることにもつながります。
不動産とブロックチェーン
得や投資家への充実した情報開示など、不動産証券化の普及をより促進する手立てとなることでしょう。しかし、ブロックチェーンが活用されるようになれば、証券化はさらに大きく様変わりするかもしれません。
ブロックチェーンは、仮想通貨「ビットコイン」を生んだ技術で、説明が非常に難しい技術概念です。誤解を恐れずにいえば、ここでは、暗号化技術と類似している技術と考えてください。サイバー攻撃に強く、改ざんがほぼ不可能で、システム構築コストが安価であるという、インターネットの弱点を克服した技術といわれています。
この技術がなぜ証券化に革新をもたらすかといえば、たとえば、オリジネーターからSPC(特別目的会社)への資産譲渡や投資家への配当支払いの方法がまったく変わるからです。
不動産証券化は、1つの不動産には必ず所有者がいる、と前述しました。しかし不動産証券化ビジネスは、オフィステナントや物流施設など、現場の管理は人の手が不可欠であるものの、実際の取り引きは、極論すればバーチャル取引であるといっても過言ではありません。
不動産証券化では、対象物件が所有者から適切にSPCに移転したかどうかなど、複雑な仕組みを構成している多くの利害関係者同士の関係は、すべて「契約書」というドキュメントに基づいています。信託受益権も「証書」です。証券化ビジネスは契約書面の上で成り立っているといっても過言ではありません。こうしたドキュメントや証書が本物であることを証明できるのが、改ざんを許さないブロックチェーンの長所です。
ブロックチェーンという、改ざんできない情報の集積箱に証券化ビジネスの契約書を収めることができれば、SPCそのものも不要になるかもしれません。また投資家への利払いは、安全確実な仮想通貨を活用すればインターネット上で完結できます。
不動産テックは現状、証券化において驚異のITといえる段階ではありません。しかしAIや3D地図コンテンツ情報、ビッグデータなどを活用すれば、業務フローは大きく変わります。そして、ブロックチェーンが台頭する時代になれば、もっと大きく変わるでしょう。