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コラム No.38-5

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「空き家問題の解決は地域の活性化を生む」(5)空き家、空き店舗の活用が、地域コミュニティの再生を生む

公開日:2018/02/28

空き家、空き店舗は、地域社会の保安上、衛生上、あるいは景観の面から、解決が急がれる課題です。その解決には、行政による強制力をもった劣悪な空き家の排除とともに、地域住民が一体となった空き家、空き店舗の活用への取組が必要です。ここでは、地方自治体の対応状況と、空き家活用に関連した地域コミュニティ醸成の事例を見てみます。

地方自治体の空き家対策が活発化

先にも述べましたが、国は、平成26年に「空き家等対策の推進に関する特別措置法」を策定し、平成27年度から施行されましたが、その施行状況が、昨年12月に発表されました。
それによりますと、平成29年10月時点で、空家等対策の推進に関する特別措置法(空家法)に基づく空家等対策計画が、全市区町村の25.7%で策定されており、平成30年3月には5割を超える見込とのことです。特に、空き家率が高かった愛媛県や高知県では、県内の市区町村の9割以上で空家対策計画が策定される見込で、対応が急ピッチで進んでいることがわかります。空家対策計画の施行により、自治体は空き家の所有者に対して、助言・指導、勧告、命令、代執行、略式代執行といった、行政による強制的な空き家の排除が可能となりますので、今後は、劣悪な状態となっている空き家は減少することが期待されます。
一方で、地方自治体では、空き家の有効活用に関する独自の施策も合わせて進めています。その典型的な事例として、愛媛県の対応状況を見てみます。
愛媛県では、平成29年3月に“愛顔あふれる住まい・まち・くらし”を基本理念に、「愛媛県住生活基本計画」を策定し、その基本目標の一つとして「総合的な空き家対策の推進」を掲げ、その目標に沿って「空家等対策の推進に関する特別措置法(空家法)に基づく空家等対策計画」が位置づけられているようです。いわば、愛媛県においての空家法対応の上位構想が「愛媛県住生活基本計画」ということになります。この「愛媛県住生活基本計画」が目指すのは、個々の住宅が地域を形成する資源であると共に、次世代へ引き継ぐべき財産であるという意識のもと、ライフステージに合わせた住み替えを住民に奨励し、住宅を街の中で循環させていくことです。そうすることで、地域内の空き家の発生を防ぎ、空き家となる前に地域住民が空き家を積極的に活用する意識を持とうとの提案がなされています。地方における人口減少、少子高齢化社会にあって、親から相続した物件が空き家となってしまうことが多いとされることから、家族構成や年齢に合わせた適正な物件を、地域の中で共有しようという考え方でしょう。それを行政側が側面から支援する事業として、利用可能な空き家を地域住民や移住希望者などに紹介する「えひめ空き家情報バンク」を整備しています。
また、他県からの移住・定住を促進して、人口の減少に歯止めを掛けようとの施策として、「移住者住宅改修支援事業」など助成制度を準備しています。
概ね全国の地方自治体では、同様の施策や助成制度を策定し、地域社会の活性化に係る課題の一つとして、空き家、空き店舗への対応を進めているところです。

地域の再生・創生につながる空き家、空き店舗の活用

行政主導の空き家対策により、地域の生活環境は好転するはずですが、残念ながら、それのみによって地域が活性化する訳ではありません。空き家や空き店舗そのもの、あるいは跡地を、地域環境に合わせて再活用しなければなりません。それには、住民一人ひとりの意識も大切ですが、地域が一体となった開発へと展開するプロセスが必要です。

福岡市近郊の志賀島では、若者と地域住民、民間企業、支援機関、自治体が一体となった地域開発の取組が進んでいます。
志賀島の活性化に立ち上がったのは、福岡市に本社を置くカラクリワークス(株)の若い有志達です。同社はIT企業でありながら、市の条例改正による土地利用の制限緩和を機に、空き家を改装したレンタサイクルとカフェを兼ね備えた「シカシマサイクル」というショップ事業を平成26年から始めました。その後、彼らは商工会や自治体の支援を受けながら、地域住民への空き家活用に関する説明会を開催し、空き家を賃貸物件として登録する「空き家バンク事業」を立ち上げ、志賀島への移住・店舗開業の基盤を整備していきます。平成28年からは、空き家バンク登録物件を実際に内覧できる「みちきり貸家ツアー」を毎月開催、物件の特徴や入居後の流れ、改装に係る支援体制などを説明し、移住・開業希望者をサポートしています。現在では、1階をカレーショップや雑貨店とし、2階を住居として空き家を改装した住宅に、若者たちが少しずつ移住を始めています。また地域住民も、この活動呼応したように、地域の物産や工芸などを使ったイベントを催すなど、地域コミュニティが盛り上がりつつあります。

空き家、空き店舗の解消の先には地域コミュニティの再生がある

志賀島の事例の特徴は、まずキーマンとなった若者たちが志賀島の価値を認識して、志賀島に賑わいを取り戻したいと考えたこと、そこにあったのが空き家という地域資源であったこと、その空き家を活用する活動に地域住民が共感できたことではないでしょうか。
このような若者による地域活動の事例は、徳島県の神山町や高知県の土佐山地域でも見られます。
地域の再生、活性化には、地域コミュニティが創生あるいは再生することが必要で、そのきっかけとして、空き家や空き店舗という地域資源の再活用があるのかもしれません。
そもそも、地域社会が衰退した原因は、少子高齢化や都市部への人口移動によって人口が減少し、地域の経済基盤や生活基盤を活性化する地域コミュニティが弱体化したことによります。限界が見え始めた地域社会を立て直そうと、地域住民が問題意識を強くし、地域コミュニティを再形成することで、地域社会の再生が見えてくるように思います。

少子高齢化は先進国として成熟社会となった結果です。成熟社会の若者たちは、高度成長期とは違った価値観や人生観を持っているはずです。若者たちのニーズが変われば、企業や行政側のターゲットやサービスも変わります。社会環境が変われば、住民の地方・地域に対する意識も変わります。そしてそこから、画一化した都市生活では得られない新しいニーズが生まれます。その多様化したニーズに応える手法の一つが、地域を活性化して再生することかもしれません。
これからは、ダイバーシティの浸透によって、企業人による地域活動への参加も増えることでしょう。それが、地方・地域の再生を超えて、日本全体の生活環境のリストラクチャーにつながるかもしれません。空き家、空き店舗の問題解決は、その大きなきっかけの一つかもしれません。

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