CREコラム
不動産テック入門(11)「不動産価格の可視化・査定」
公開日:2020/06/30
同じものは二つとないのが不動産。しかし不動産の「価格」は一つだけではありません。売買する時期や売買の需要、また貸す人、借りる人の実需によって価格は変化します。不動産テックでは、こうした不動産価格の見える化(可視化)や迅速な査定結果を提供するサービスが広がっています。
1つの不動産に5つの価格
不動産の価格すなわち「地価」は、土地の特性や周辺環境、流通量など多くの要素を複合的に勘案して決まります。不動産は同じものは二つとありませんが、食料品などと違って値札を付けるわけにもいきません。このため地価を客観的に評価して数値化します。評価額も「実勢価格」「公示地価」「相続税評価額」「固定資産税評価額」「鑑定評価額」があり、「一物5価」といわれています。実に1つの不動産に5つの価格と評価方法が存在するのです。
不動産の購入と売却における「売買価格」、ビルテナントや賃貸用住居などの「賃料価格」、投資用か実需向けなのかなど、不動産の種類や目的によっても価格は違ってきます。また、不動産鑑定士による不動産鑑定評価は、専門家による多角的な分析結果で権威あるものですが、不動産を事業としてみた場合、その取引価格は関係者が抱える事情が加味されるので、鑑定評価とは異なる相場が形成されることもあります。
例えば賃料のフリーレント。稼働率を上げるために、契約当初の家賃を半年間など一定期間無料にする手法です。空室が目立てば入居希望者はさらに減少する恐れがあるので、早期の入居を促し稼働率を上げる狙いで考案された苦肉の策です。このように、賃貸価格は関係者の利害や実需によって、大きく左右されます。
マンションの売却が主流
不動産テックにおける価格の「可視化」では、個人向けのサービスが多く見受けられます。特にマンションの売却価格をAIやビッグデータを駆使して複数の不動産会社に一括見積依頼を行うサービスが主流です。
仕組みは、利用者が所有している不動産をマンションや戸建て、土地などの種類から選び、県名から町名までを指定して周辺の類似物件を探し出して特定していきます。どのサービス提供会社も無料で査定してくれますが、登録が必要です。不動産の売却を真剣に検討している人で、多忙のために不動産会社の窓口に行けない人などには便利な機能です。
投資マンションの買い取りに特化したビジネスも出ています。仲介業者を介さずに不動産を直接買い取り、仲介手数料を省くため、高額買い取りを可能にしています。膨大な物件の査定データのもとでAIが物件を査定します。直接買取で仲介手数料を省き、AIが査定することで経費を大幅削減する手法は、これまでの不動産買い取りと異なるツールといえるでしょう。
不動産の営業支援ツールも
不動産価格の情報提供に特化した不動産テック企業もあります。不動産の担保評価やプレゼンテーション資料の作成ツールを売り物にしており、金融機関や不動産会社に利用されているようです。不動産は1つひとつが高価な商品であり、顧客が売り買いを判断する際の資料は、より多角的な高いレベルのものを必要とします。しかし、こうした営業支援ツールを不動産会社が自前で作成するのは容易ではありません。
不動産情報は多岐にわたり、前述したように「一物5価」といわれるほど多くの種類があります。多角的な資料を作成するには、多くのデータが必要になります。サービスはASP(アプリケーションサービスプロバイダー)によって提供され、利用したい分だけ対価を払う仕組み。10万件のマンションデータや固定資産税の標準宅地データなどのほか、住宅地図も利用可能です。
不動産投資におけるシミュレーションソフトも登場しています。マンションやアパートなど賃貸不動産の経営に必要な賃料設定の基準や提案資料の作成などをサポートしています。このサービスは、賃貸不動産の購入や売却を事業とする不動産会社向けのものです。不動産会社では、不動産投資における賃貸不動産関連の業務は手間のかかるビジネスです。こうした事業領域に特化した不動産会社を除けば、不動産オーナーとの折衝で欠かせない資料の作成や不動産管理、賃貸管理など多岐の仕事が待ち構えています。
このサービスもインターネット環境があれば比較的簡単に導入できますので、新型コロナの影響で拡大したテレワークにも対応できるため注目されると思われます。現地に行かなければわからないことが多いとされてきた不動産の情報ですが、膨大なデータが蓄積されたことで分析・解析能力が格段に向上してきました。不動産価格は複雑でわかりにくいといわれてきた不動産業界にとっては、不動産の可視化は画期的なことではないでしょうか。