住宅リノベーションと税務効果-2
公開日:2018/03/31
1. 相続税に関する税務上の主な取り扱い
ご自身が所有する居住用の不動産(ご自宅)について行ったリフォームやリノベーションの金額は、相続税についても税金を圧縮する効果があります。
これは自己のためのものなので、所得税の計算上で所得を圧縮するということではありません。
ご自宅のリノベーション等にかかる費用は経費には計上できませんが、その費用をご自身の預貯金等から引き出して支払われれば、相続が発生した時には預貯金が減少しているため課税財産を直接減らす効果となります。
また、その費用を借入金等で賄った場合は、マイナスの資産(借入金)の形成をしますので、相続時の借入金残高を財産から債務として控除することとなり相続税の課税財産を減らす効果があります。
2. 事例と取り扱い
(1)資金の捻出方法の違いで、相続税に影響があるのか
賃貸住宅やご自宅の建物の建築やリノベーション等を行う際の資金の捻出方法について、頻度が高くいただくご質問に「預貯金を取り崩して支払う方がいいのか、借金をして払う方がいいのか……」ということがあります。
これは、多少誤解されていらっしゃる方に多いご質問ですが、「借金」だから税務対策になるということではありません。
相続税額の計算をする上で必要な財産評価の計算では次のことがいえます。
「プラスの財産の減少=マイナスの財産の増加」つまり、借金をすれば相続開始時の借入残高を相続財産から引くこととなり、預貯金を取り崩せばその分の金額が相続財産には計上されておらず、すでに減額されているということです。
結果的に、借金でも預貯金でも、相続財産に直接の影響はないということになります。
ただし少し細かいことをいえば、借入金で賄った場合は借入利息が発生します。
そのため、手元に残る金額は自己資金で賄う場合よりも利息分だけ少なくなります。(もっと細かくいえば事業用の借入金では利息が経費になるため、所得税額は多少少なくはなります)
その結果、「借金を作れば相続税対策になる」という言葉自体は、必ずしも正しい言葉ではなく、「資産に投資すれば相続対策になる」という方がここで意味を成す正しい言葉となります。
(2)誤解の多い相続税の評価
相続が発生する前にしたご自宅のリフォームやリノベーション、またはお庭の整備費用等は、相続税にはどのように影響があるのでしょうか。
◆庭園設備
まず大前提として庭園設備というのは、庭木、庭石、あずまや、庭池等を指しますが、その庭園設備の財産評価の方法としては、その庭園設備の調達価額の100分の70に相当する価額によって評価すると財産評価基本通達によって定められています。
調達価格とは、課税時期においてその財産をその財産の現況により取得する場合の価額(簡単に言えば時価)をいいますので、時価の7掛けです。
では、相続発生前に500万円をかけて庭を洋風ガーデン仕立てにしたとします。
この場合は、500万円×70%=350万円を相続財産として計上する必要があるのでしょうか?
答え:NO
庭園設備として時価の7掛けで評価が必要な庭園設備は、実は一般の家庭の庭を想定していません。
有名観光地にあるような大規模な庭園を指しており、さらに重要なのが、「客観性」です。不特定多数の人が鑑賞する対象となるような庭園等である場合のことなので、一般家庭の庭は通常は評価額を資産に計上することはありません。
◆リノベーション等
建物については、固定資産税評価額を基本として評価することになりますが、リノベーション等で増改築をした部分についてはどのように取り扱うことになるのでしょうか?
答え:投資した金額の約70%で評価
かつては、リノベーション等をした部分は、固定資産税評価額に反映されないことが一般的で、高額な金額で増改築等をして資金を使ってしまいそれにより価値が増額した建物等については評価をしないという方法で相続対策をするケースがかなりありました。しかし、現在ではその点をわかりやすくするために評価の方法について、国税庁が「質疑応答集」に、「増改築等に係る家屋の状況に応じた固定資産税評価額が付されていない家屋の評価」より回答しています。
これによれば、もともとの建物の固定資産税評価額+増改築等の部分の見積もり評価額の70%で評価することになります。
ただ、見積もりした固定資産の金額については、その90%部分を減価償却した残りとなりますので、ご注意ください。
以上のことから、大掛かりなリノベーション等については、投資した金額の30%程度が圧縮されることになります。
◆資本的支出に該当しないリフォーム等
屋根の葺き替え等の原状回復費用などのように資本的支出に該当しない支出についてはいかがでしょう。
答え:そもそも資本的支出に該当しないため財産としての評価はない
仮に、500万円をかけて外壁塗装をした場合は、500万円が相続財産とはなりません。
3. まとめ
大きな金額を動かして新規で建物の建築をすることで相続に備えることは難しい場合でも、小さなリフォーム等をするだけでも対策になります。
せっかく建物をきれいにするのであれば、税金にとっても良いタイミングでお金を使えればより良い対策となるはずです。
なお、支出した金額の部分をどのように評価をするか、また資産等の取り扱いについてどのような処理をするかなどの判断は、個別事情によるところも大きいものです。
具体的な詳細につきましては、専門家とご相談いただきながらご判断ください。