コラム vol.098
ケースで学ぶ「土地活用と税金」(2)
土地活用の基本(1)
~税制度から考える「事業的規模」とすることのメリット~
公開日:2016/01/05
賃貸住宅、マンション経営を行うと、賃料収入が生じます。この賃料収入については税務上の「所得」として扱われますが、どれくらい不動産を保有されているかで税務上の取り扱いが変わってきます。
今回は土地の上に賃貸住宅を建てた場合、どのような税のメリットがあるかについてお話しします。
土地は持っているだけだと、当然ながらキャッシュは生みません。国としても土地の放置はあまり歓迎しておらず、土地の活用を税務面でもバックアップしています。主に土地の上に賃貸住宅を建てることによる、固定資産税の税務メリットを見ていきましょう。
- (1)マンション、賃貸住宅等については、貸与することのできる独立した室数がおおむね10室以上であること。
- (2)一戸建て(独立家屋の貸付け)であれば、おおむね5棟以上であること。
これを5棟10室基準といいます。マンション、賃貸住宅を10室以上所有、賃貸していると事業とされ(「事業的規模」)、青色申告をしている場合、特別控除が65万円になるなどの税務上のメリットがあります。なお、白色申告だとこのような事業的規模による恩典はありません。※青色申告で65万円控除をうけるために、複式簿記をつける必要があります。
賃貸住宅、マンションのほか、月極駐車場を所有、賃貸している場合には、5台分を賃貸住宅1室として計算します。
ケース1 事業的規模
10室に満たないため、Aさんは青色申告をしても10万円の控除しか受けることができません。
- ・家賃収入………………年間600万円
- ・経費……………………年間▲400万円
- ・青色申告特別控………年間▲10万円
- ・不動産所得……………190万円
5棟10室基準は組み合わせでもOKです。Aさんの場合、たとえばマンション1部屋を追加で所有し賃貸すれば、10室となり、65万円の控除を受けることができます。
- ・家賃収入………………年間660万円(賃貸1部屋増で60万円増加)
- ・経費……………………年間▲450万円(賃貸1部屋増で50万円増加)
- ・青色申告特別控………年間▲65万円
- ・不動産所得……………145万円
と、事業的規模とすることにより所得の金額を圧縮することが可能になりました。
事業的規模のメリットとして、「青色事業専従者給与」という制度があります。これは青色申告をしており事業的規模であれば「生計を一にしている配偶者その他の親族が納税者の経営する事業に従事している場合、支払った給与」を、必要経費にすることができる制度です。
ケース2 青色事業専従者給与
先ほどのAさんの場合、親族(配偶者や15歳以上のご子息)に対し、給与を支給することで経費にすることができます。
- ・家賃収入……………………年間660万円(賃貸1部屋増で60万円増加)
- ・経費…………………………年間▲450万円(賃貸1部屋増で50万円増加)
- ・青色申告特別控……………年間▲65万円
- ・青色事業専従者給与………年間▲100万円
- ・不動産所得…………………45万円
と、事業的規模にし、特別控除に加え、青色事業専従者給与を活用することにより、所得の金額をさらに圧縮することができました。
ただし、この青色事業専従者給与は無制限に認められる訳ではなく、以下の要件が求められますのでご注意ください。
- (1)青色申告者と生計を一にする配偶者その他の親族であること
- (2)年齢が15歳以上であること(その年の12月31日現在)
- (3)原則、年間6ヵ月を超えて、青色申告者の事業に専念していること
- (4)「青色事業専従者給与に関する届出書」を税務署に提出していること
提出期限は、青色事業専従者給与額を経費にしようとする年の3月15日です。届出書に記載されている方法により支払われ、かつその記載されている金額の範囲内で支払われたものであることが必要です。3月15日を1日でもオーバーすると経費とできませんのでご注意ください。 - (5)青色事業専従者給与の額は、労務の対価として相当であると認められる金額であること
15歳以上であっても学業に専念する大学生・高校生は、(3)を満たさず原則として専従者にはなれないとされています。したがって、配偶者を青色事業専従者給与にすることが一般的かと思われます。もちろん支給するだけでなく、実際に賃貸経営に携わっていただく必要があります。
- ・賃料収入の入金管理
- ・収入、経費などの支出の帳簿をつける
- ・賃貸物件の掃除など
本日お伝えしたことをまとめますと、以下のようになります。
事業の規模 | 所得控除の額 | 青色事業専従者給与 | |
白色申告 | --- | なし | なし |
青色申告 | --- | 10万円控除 | なし |
事業的規模 (5棟10室以上) |
65万円控除 | 経費に算入 |
なお「5棟10室基準」は「おおむね」5棟10室もっていれば、事業的規模とする、というものです。
あくまでおおむねですので、現在5~9室しかもっていなくても、将来的に物件数を増やしていくことが予想されている場合には、事業的規模と判断できることもあります。
判例では、実質判断の基準として、賃貸する部屋数のほか、以下の要素を考慮するものとされています。(1)営利性・有償性の有無、(2)継続性・反復性の有無、(3)自己の危険と計算における事業遂行性の有無、(4)取引に費やした精神的・肉体的労力の程度、(5)人的・物的設備の有無、(6)取引の目的、(7)事業を営む者の経歴・社会的地位・生活状況など。
例えば、賃貸物件が6室だったとしても、その6室が店舗、オフィスの貸し出しであり、収益が数千万円単位と住居用と比べて比較的大きく、管理にかなりの労力と手間を費やしている、これからも継続して物件数を増やしていく予定である、というような場合には定量的に5棟10室でなくとも事業用規模と判断される余地はあります。皆様のおかれている状況によりことなりますので、迷われた場合には税理士にご相談ください。
お詫びと訂正
平成28年2月17日まで公開していた本コラムの表記で「6室」と表記すべき箇所を誤って「60室」と表記しておりました。
ここにお詫びすると共に訂正させていただきます。