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コラム No.108-3

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急拡大するESG投資(3)7つの手法【1】ネガティブ・スクリーニングとポジティブ・スクリーニング

公開日:2020/11/30

ESG投資を実行する際の投資手法は7つあり、どの手法を選ぶのかは投資家の選択に委ねられています。今回はネガティブ・スクリーニングとポジティブ・スクリーニングを紹介します。

最も普及している手法だが異論も

ネガティブ・スクリーニングは、ギャンブルや武器製造、ポルノなど反社会的または非倫理的(ネガティブ)な事業を展開している企業を投資の対象から外す手法です。「スクリーニング(Screening)」は審査する、選考するという意味があります。環境用語としては、環境アセスメント(大規模開発事業などで環境に対する影響を事前に調査すること)を実施する事業かどうかの判断を行うことを指します。ちなみに、株式市場では多くの銘柄の中から投資したい銘柄を選ぶ行為のことをスクリーニングと呼んでいますので、覚えておくとよいでしょう。

ネガティブ・スクリーニングは第1回の「登場の背景」で触れたように、1920年代に米国のキリスト教メソジスト派が酒やたばこ、賭博など教義に反する業種や銘柄を投資対象から外したことに由来するといわれています。その後も1960年代のベトナム反戦や黒人差別撤廃などの社会運動の高まり、さらには1990年代以降の地球温暖化への関心などを背景にESG投資をけん引してきており、ESG投資の草分け的な手法になっています。投資手法別に見ても、2019年の調査で約39%を占めて最多の運用資産額です。
※数値は、日本サステナブル投資フォーラム「サステナブル投資残高調査2019」より

図1

ネガティブ・スクリーニングの具体的な投資としては、こうした銘柄を排除して組成する投資信託があります。欧米では排除対象になる株式や債券を「SinStock(罪ある株式)」と呼んでおり、国内の証券会社でも環境、医療、水などESGやSDGsを対象とした銘柄を組み込んだ投資ファンド(投資信託)を積極的に販売しています。

ただ、わが国におけるESG投資の代表的な組織「NPO法人日本サステナブル投資フォーラム(JSIF)」は、ネガティブ・スクリーニングをESG投資と考えていない立場を取っています。それは、単にESGに適していない銘柄を除外しているにすぎず、ESGに対する積極的な関与がないと判断しているためと思われます。

ESG投資関連の投資信託は環境に配慮している企業の銘柄だけを厳選している投信ですが、こうした投資信託を除くネガティブ・スクリーニングでは、地球環境や社会的課題に対する取り組み姿勢が欠けているというわけです。ESG型の投資信託のように能動的に「組み込む」ことが重要で、あらかじめ除外するだけでは受け身の行為にすぎないとうことでしょう。

前向きなESG投資だが対象が少ない

ネガティブ・スクリーニングの対極にあるのが、ポジティブ・スクリーニングです。こちらは1990年代に欧州で始まった手法で、環境保護や人権、従業員対策、ガバメント(企業統治)などに対して積極的な企業を選んで投資します。中長期的に見てESG関連の項目に注力している企業ほど企業業績も良好である、との前提に立っています。

2020年10月に、国内最大手の生命保険会社が来年度から全ての投融資の判断にESG評価を導入するとの報道があり、話題になりました。生保は契約者から集めた保険金を証券市場などで運用している巨大な機関投資家で、同社の不動産を含む金融資産は約70兆円と世界市場でもビッグプレーヤーの一角。同業大手も追随すると見られており、ポジティブ・スクリーニングによるESG投資が国内で加速する可能性が出てきました。

ポジティブ・スクリーニングは投資家の積極的な(ESGの)関与により、ESG投資を今後けん引していくことが期待されますが、労働環境から二酸化炭素削減、再生エネルギーといった環境評価など多様な評価項目があり、機関投資家自身の評価能力が求められます。そうなると、担い手は大手の機関投資家に限られることが考えられます。

図2

加えて、ESGに対する積極的な活動を展開している企業がそもそも少なく、評価対象の企業が増えないという課題があります。2019年の調査でも約3%と運用資産額では5番手となっています。前述したESG投資信託などは、投資手法の類型としてはネガティブ・スクリーニングではなくポジティブ・スクリーニングのカテゴリーに入れるべきと思われますがが、それでも全体の約3%にとどまっている理由は、投資対象が少なく、投資規模も小さいからでしょう。
※数値は、日本サステナブル投資フォーラム「サステナブル投資残高調査2019」より

ポジティブ・スクリーニングによるESG投資が伸びないもう一つの理由は、例えば環境保護に対して積極的に関与している企業であっても、そうした活動を裏付ける情報が十分に公開されていないため、投資家のほうで企業訪問をして意見聴取するという手間暇がかかるという問題点もあります。投資にかかるコストが高ければ、その手法を積極的に選ぶインセンティブは生まれにくいものです。

最近では、ESGに対する取り組みが必ずしも投資リターンに結び付いていないといった、ポジティブ・スクリーニングに対する信頼性が低下しているとの指摘も一部で出ています。投資の見返りが明確ではないとなると、投資家はESG投資に積極的に関与しづらくなります。ESGに対する支持が高いといわれる年金基金などのワーカーズキャピタルでも、投資に見合う配当が期待できないとなると、二の足を踏むことにもなるのではないでしょうか。

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