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コラム No.4

CREコラム

Vol.4 CRE戦略実践のための「三種の神器」 インタビュー 百嶋 徹氏(ニッセイ基礎研究所 社会研究部 上席研究員/明治大学経営学部 特別招聘教授)

公開日:2016/06/29

記者(以下Q)Q1:実際に海外の先進企業はどのようにCRE戦略を実行していますか。

百嶋(以下A)A1:

先進事例の3つの共通点=「三種の神器」
海外の先進的なグローバル企業のCRE戦略には、3つの共通点が見られます。私はこれらの共通点を、CRE戦略実践のための「三種の神器」と呼んでいます。この三種の神器は、グローバル企業に限らず、あらゆる企業がCRE戦略に取り組む際の重要なポイントになるものと考えています。

三種の神器(1):CREマネジメントの一元化

1点目は、CRE戦略を担う専門部署の設置による意思決定の一元化とIT活用による不動産情報の一元管理により、CREマネジメントの一元化を図っていることです。ファシリティの運営維持管理コスト、施設利用度、従業員満足度などの一元管理された不動産情報は、世界の拠点間のベンチマークに活かされています。

三種の神器(2):HRMを重視した創造的ワークプレイスの構築

2点目は、CRE戦略の重点を不動産管理にとどまらず、先進的なワークプレイスやワークスタイルを活用した人的資源管理(HRM:Human Resource Management)に移行させていることです。それを反映するように、一部の先進企業では、CREの担当役員がHRMを併せて所管しているケースもありますし、またCRE戦略の専門部署を「ワークプレイス・リソース」という呼称で呼んでいるケースもあります。

三種の神器(3):外部ベンダー活用による戦略的業務への集中

そして3点目が、外部の不動産サービスベンダーを効果的に活用することにより、戦略的業務へ社内の人的資源の集中を進めていることです。施設運営など日々の不動産に関するサービス提供業務は、外部ベンダーに包括的に委託する一方、CRE専門部署では社内スタッフの少数精鋭化を進め、戦略の策定・意思決定やベンダーマネジメントに特化する傾向を強めています。
世界中の拠点で不動産を利活用しているようなグローバル企業が、不動産に関する業務すべてを自前で行うことなど不可能です。また、不動産管理は本業そのものではありませんから、社内のスタッフを大量に配置することもできません。巨大なグローバル企業といえども、CRE部門の社内スタッフが驚くほどの少人数ということが珍しくありません。
ですからCRE戦略の策定・意思決定、ベンダーマネジメントというCRE部門のコア業務に集中し、外部の不動産サービスベンダーを効果的に活用することが必要なわけです。社内スタッフと外部ベンダーが異なる組織にいながら実質的には一つのチームを形成し、社内スタッフはこのチームをフル活用することで、戦略的業務に注力することができるのです。
アウトソーシングを効果的に活用するためには、外部ベンダーを単なる外注先や下請けではなく、戦略パートナーとして捉え、お互いの良さを生かしながら、信頼関係を保ち、パートナーシップを築いていくことが欠かせません。

マイクロソフトの「インテグレーターモデル」=最先端のアウトソーシングモデル

海外先進事例の中でも、マイクロソフトが取り組んでいるアウトソーシングモデルは、「インテグレーターモデル(Integrator Model)」と呼ばれるCRE戦略の新しいパートナーシップモデルです。
インテグレーターというのはとりまとめ役のことで、マイクロソフトのケースではCBREグループが全世界のCREサービス提供に関するとりまとめ役を担っています。CBREグループがマイクロソフトのCRE部門と綿密な連携をとりながら、RFP(提案依頼書)を作成し、それを基にそれぞれの地域で適切なベンダーを選択するわけです。
つまり、不動産サービスを提供するベンダーの管理監督はCBREグループが行います。そしてマイクロソフトのCRE部門は、より戦略的に経営層や事業部門など「社内顧客」と密接に連携し、ビジネス戦略に即したオフィス戦略を立て、それを実行に移すことに注力できるわけです。これが海外の先進企業のなかでも最先端を行くアウトソーシングモデルと言っていいでしょう。

日本企業は三種の神器を早急に整備すべき

当然、多くの日本企業では、いきなり最先端のマイクロソフトのインテグレーターモデルを導入することは、難しいでしょう。まずは、戦略的に不動産管理業務に取り組むための準備を早急に行うべきです。
つまり、この「三種の神器」を整備することが不可欠であり、まず真っ先にCREマネジメントの一元化を図るとともに、創造的なワークプレイスを重視する考え方に改めることが求められているのです そして、このような準備を行った上で、企業がCRE戦略を実践し進化させていくためにはアウトソーシングの活用が戦略的に欠かせないということをしっかりと認識しなければならないのです。

Q2:この三種の神器は、日本の中小企業においても成り立ちますか。

A2:

中小企業にとってもCRE戦略は重要課題

三種の神器は、中小企業においても基本的に同様です。CRE戦略は、大企業にとってのみ重要なのではなく、中小企業にとっても極めて重要な課題だと言えます。最近では企業の土地取得額に占める中小企業の割合は3割前後に達しており、CRE戦略を通じた企業価値の向上は中小企業にも問われているものの、中小企業ではCRE戦略の認知度は未だ低いと思われます。

CREマネジメントの一元化

まずCREマネジメントの一元化について、考えてみましょう。 現実的には、小規模の会社では、CREの専任部署まで設置するというのは、行き過ぎたことかもしれません。ただし、しっかりと不動産について考え、CREの一元管理を継続的に行うことを目指して、できれば専任の担当者を置くことが望ましいでしょう。人材の制約から専任担当者を立てることがどうしても難しいなら、兼任でもいいでしょう。
そしてできれば、不動産情報の一元管理のために、ITを活用してほしいと思います。企業によって、利活用する不動産の規模は異なりますが、今自分たちが使っている施設の面積がどれくらいで、施設利用度、ファシリティコスト、所有不動産の簿価・時価評価額がどの程度か、借りているのなら賃料をいくら支払っているのか、賃貸借契約の期限はいつなのか、こうしたことを確実に把握しておく必要があります。また、登記簿謄本、建物図面、賃貸借契約書などの書類を電子化して保存しておくことも必要でしょう。
これらのデータや書類・資料を一元管理するためには、社長の頭の中に入っているということではなく、やはりITを積極的に活用すべきでしょう。ITベンダーが提供する本格的なITサービスを利用するかどうかは別にして、電子ファイルに落とし込むことが必要となります。
ここがCRE戦略のスタートになります。まず専任部署あるいは専任担当者を立て、不動産情報の一元管理に向けて、「不動産の棚卸し」を行うことがスタートであり、入り口です。

HRMを重視した創造的ワークプレイスの視点

そのうえで、HRMを重視した創造的なワークプレイスの視点を持ってほしいと思います。
例えば、長い歴史を持つ中小企業などでは、長年事業を継続してきた創業の地に事務所・オフィス・工場などに関わる不動産(土地・上物)を所有しているケースが多いのではないでしょうか。このことは、CRE戦略や三種の神器の視点から、どのように捉えればよいでしょうか。 社員のインセンティブを考えた場合、社員にとって創業地で働くことに対してプライドを持ち、高いモチベーションの源泉となっているのであれば、創業の地に構えたその不動産は経営的に大きな意味があると考えればよいのです。経営者はその地を事業所のロケーションとして選択するべきなのです。
このように社員が創業の地で働くことに対して、働きがいや誇りを感じている、あるいは経営トップが創業の地こそが自分たちにとって拠り所となる重要な場所であると考えるのであれば、それはCRE戦略としても大きな意味を持つのです。つまり、創業の地に事業所を構えることは、三種の神器で言えば、HRMを重視したワークプレイス構築につながり得ると考えられます。
また、その中小企業が創業の地で長年事業を継続することで、良き企業市民としてCSRを実践して社会的価値を創出し、その地域に貢献し続けるということも、非常に重要な視点です。第1回で詳しく述べましたが、社会的ミッションを起点とするCSRの実践が結果として経済合理性につながるのです。

先進的なワークプレイスづくりの要件

もちろん、ファシリティコストは冷静に見ておかなければなりません。売上に対してファシリティコストが上がっていたり、施設利用度が下がっているのであれば、何か対策を講じる必要はあります。これは経済合理性の側面ですが、目先のコストだけですべてを決めるということではないということです。第2回で指摘した通り、目先のコスト意識が先行してしまうと、創造的なオフィス環境の整備・構築に踏み出すことが難しくなることには留意が必要です。
先進的なワークプレイスづくりにおいては、(1)戦略投資と捉える視点、(2)組織を円滑に機能させる従業員間の信頼感やつながり、すなわち「企業内ソーシャル・キャピタル」を育む視点、(3)全社的な拠り所となる経営理念・企業文化や戦略意図を象徴的に示す視点、(4)省エネの推進など環境配慮型不動産の視点、が重視されるべきと私は考えています。前述した創業の地を拠り所としたワークプレイスづくりは、(3)の視点に当たるわけです。(2)の視点では、企業内ソーシャル・キャピタルが、社内のコミュニケーションやコラボレーションの活性化を通じて、イノベーション創出につながり得ると考えられます。

外部ベンダーの戦略的活用

さらに、三種の神器の三番目の要素であるアウトソーシングの戦略的活用について、考えてみましょう。
中小企業でも、複数拠点を展開し比較的多くの不動産を保有、活用する企業であれば、不動産サービスベンダーなどへのアウトソーシングは有効でしょう。一方、小規模の企業であっても、実際にアウトソーシングを活用するかどうかは別にしても、地域の不動産会社、金融機関、税理士など不動産に関するプロフェッショナルのアドバイスを受けたり、知恵を借りたりすることは必要でしょう。

以上述べました通り、中小企業がCRE戦略に取り組むためには、大企業と同様に三種の神器を整備することが欠かせません。

Q3:中小企業の本質的なCRE戦略が進まないのはなぜでしょうか。

A3:

担保資産としての不動産

中小企業においてCRE戦略が普及しない主たる背景として、CREが経営資源として位置付けられていない可能性があることが挙げられます。
中小企業のオーナーは、不動産を取得・所有する傾向が強いとみられます。一部のオーナーが不動産を積極的に所有したいと考えていることもありますが、所有せざるを得ないという側面が強いのではないかと思われます。
それはなぜかというと、事業の自由度を確保するために自前の不動産を持ちたいとの意識も一部にありますが、担保資産として所有せざるを得ないというケースが多いからだと思います。第2回で述べましたように、金融機関では、本来の在り方である企業の将来性に対する目利き力を活かすことよりも、土地担保を重視した融資スタンスを取ってきたとみられます。中小企業が資金を調達する際には、担保資産としての不動産の所有が極めて重要になるというわけです。
ですから、経営資源というよりも担保用の不動産という位置づけですから、貴重な資源が有効に活用されていないというケースが出てきます。単に駐車場に使用しているとか、遊休地のまま所有しているだけというケースです。

好立地の不動産の低利用・未利用での放置は買収リスクを高める

仮にそうした低利用・未利用の不動産が非常に好立地にあるとすると、固定資産税を払い続けなければならないことに加え、買収されるリスクすら出てきます。企業買収は、蓄えたキャッシュを有効に活用できずに持て余しているようなキャッシュリッチ企業を対象にすることが多いのですが、好立地にある不動産というのは換金性が非常に高いですから、好立地の不動産を低利用・未利用のまま持て余している場合も、買収の対象になり得るわけです。
中小企業のオーナーの方々も、地域の不動産会社、金融機関、税理士など専門機関の力を借りつつ、できれば社内に不動産管理の専任担当者を置いて、自社が保有する不動産の「棚卸し」を行い、自社の事業戦略や経営理念に基づいた活用がしっかりとできているかどうか、真剣に考えチェックすべき時期に来ているのではないでしょうか。

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土地活用ラボ for Biz アナリスト

百嶋 徹(ひゃくしま とおる)

ニッセイ基礎研究所 社会研究部 上席研究員 / 明治大学経営学部 特別招聘教授

1985年(株)野村総合研究所入社、証券アナリスト業務および財務・事業戦略提言業務に従事。野村アセットマネジメント(株)出向を経て、1998年(株)ニッセイ基礎研究所入社。2014年から明治大学経営学部特別招聘教授。企業経営を中心に、産業競争力、産業政策、イノベーション、CRE(企業不動産)、環境経営・CSR(企業の社会的責任)などが専門の研究テーマ。日本証券アナリスト協会検定会員。1994年発表の日経金融新聞およびInstitutional Investor誌のアナリストランキングにおいて、素材産業部門でそれぞれ第1位。2006年度国土交通省CRE研究会の事務局を担当。国土交通省CRE研究会ワーキンググループ委員として『CRE戦略実践のためのガイドライン』の作成に参画、「事例編」の執筆を担当(2008~2010年)。共著書『CRE(企業不動産)戦略と企業経営』(東洋経済新報社、2006年)で第1回日本ファシリティマネジメント大賞奨励賞受賞(JFMA主催、2007年)。
公益社団法人日本ファシリティマネジメント協会(JFMA)CREマネジメント研究部会委員(2013年~)。CRE戦略の重要性をいち早く主張し、普及啓発に努めてきた第一人者。

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