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コラム vol.404
  • 土地活用税務コラム

相続分割時には、不動産本来の持つ価値を下げない視点が大切

公開日:2022/06/22

POINT!

・遺産分割では、税務対策だけを考えるのではなく、不動産の価値を高めることが重要

・土地の相続評価は、土地全体の評価ではなく、一人一人が取得した財産の評価になる

・収益を期待する土地は収益を生めるように、住むための土地は快適に住めるようにする視点が大切

相続人、被相続人の高齢化が進んでいる

少子高齢化が叫ばれて久しい昨今、65歳以上人口は、「団塊の世代」が65歳以上となった2015年(平成27年)に3,347万人となり、「団塊の世代」が75歳以上となる2025年(令和7年)には3,677万人に達すると見込まれています(内閣府「令和3年版高齢社会白書」より)。相続でも高齢化が進み、「老老相続」と呼ばれる問題も顕在化するようになってきました。老老相続とは、被相続人と相続人の両者が60歳以上の高齢者となるような相続をいいますが、かつては、被相続人が60代、70代で、相続人が40代、50代であるのが主でした。今や相続人が60代、場合によっては70代の方も増えてきています。相続人が高齢で動けなくなってしまってから相続が発生することも、珍しくありません。

図1:相続税の申告からみた被相続人の年齢構成比

財務省資料「資産課税(相続税・贈与税)について」(2018年(平成30年)10月)

被相続人が高齢化することで問題となるのは、認知症です。仕事などから引退した後の期間が長くなり、長生きすると、認知症になってしまう可能性は少なくありません。被相続人が認知症になってしまうと、金融機関の預貯金の移動だけではなく、不動産の売買も簡単ではありません。正式な手続きができないため、財産の動かしようがなく、後見人を通じて裁判所の介入が必要となります。
ですから、認知症になる前に、財産の相続について決めておく必要があります。認知症になってしまうと、どれくらい続くかもわからないため、対策は非常に難しくなります。多くの場合、亡くなった後に遺産分割などを行うことになります。

「遺産分割」で大切な視点

生前に対策をしなかった場合、相続開始後に中心となるのが「遺産分割」です。基本的に遺言があれば遺言通りになりますが、遺言がある場合でも、相続人全員が合意すれば、遺言とは異なる遺産分割をすることもできます。
不動産を複数人で相続する場合、どのように分割しても良いのですが、税務対策を意識しすぎないようにすることが大切です。相続税を試算するときに、「とにかく相続税を下げたい」と考える方もいますが、「相続税が下がる」ということは、その不動産の「評価額が下がる」ということです。不動産活用の観点からすると、不動産の価値は高めるべきです。企業活動でも、利益が多くなれば当然税金は高くなります。利益が多く税金が低くなることは、理屈上はあり得ません。
どちらがいいかと言えば、税金を高く払えるほうがいいわけです。相続も同じです。良い評価額の不動産を取得すると、相続税は多少高いかもしれませんが、その土地の力が収益を生みます。どうやったら相続税が低くなるか考えるのもいいのですが、一番大事な基本的な部分、土地本来の価値を下げてしまっては本末転倒です。

土地の相続税評価は取得者ごとに行われる

土地の相続評価では、相続財産の「取得者」ごとに計算をします。例えば、亡くなった方が形もきれいで大きな土地を持っていたとして、それを評価するわけではありません。その土地を複数の相続人が取得したら、分筆であっても共有名義であっても、それぞれ取得した人ごとに評価します。つまり、土地全体の評価ではなく、一人一人が取得した財産の評価になります。
分割によって、やむを得ず元の土地の評価額よりも減額することもあります。しかし、通常では考えられないような不整形地をつくり出したり、建築基準法第42条で規定する道路に接道しない土地をつくり出したりするような極端な例は否認されることがあります。

  • 相続税評価額の計算
  • (1)路線価方式
    路線価図に基づいて土地を評価する方式。所有地に接する道路に付いた価格に、土地の面積(地積)を掛け合わせることで評価額を出す。
    路線価 × 地積 × 補正率
    評価額は、土地の間口、奥行、地形等、土地の形状を考慮した補正率に応じて補正が行われる。 利用しにくい土地は評価額が低くなり、利用価値が高い土地では高くなる。
  • (2)倍率方式
    倍率表に基づいて土地を評価する方式。都市郊外など、路線価が定められていない地域で採用されている。固定資産税評価額に一定の倍率を掛け合わせる。
    固定資産税評価額 × 倍率
  • 土地の形状がいびつな場合、不整形地補正、間口狭小補正、奥行長大補正などにより相続税評価額が減額される。
  • 不整形地補正
    不整形地の価額は、次の(1)から(4)までのいずれかの方法により計算した価額に、その不整形の程度、位置および地積の大小に応じ補正率を乗じて計算した価額により評価する。
    • (1)不整形地を区分して求めた整形地を基として計算する方法
    • (2)不整形地の地積を間口距離で除して算出した計算上の奥行距離を基として求めた整形地により計算する方法
    • (3)不整形地に近似する整形地を求め、その設定した近似整形地を基として計算する方法
    • (4)隣接する整形地と合わせて全体の整形地の価額の計算をしてから、隣接する整形地の価額を差し引いた価額を基として計算する方法
  • 間口狭小・奥行長大の補正
    路線価に奥行価格補正率および間口狭小補正率を乗じ、さらに奥行が長大な宅地については、奥行長大補正率を乗じた価額によって評価する。

    なお、間口が狭小な宅地とは、次の表に掲げる間口距離を有する宅地をいい、奥行が長大な宅地とは奥行距離を間口距離で除して得た数値が次の表に掲げるものをいう。
  • 地区区分 間口狭小な宅地
    (奥行距離)
    奥行長大な宅地
    (奥行距離÷間口距離)
    ビル街地区 28m未満 -
    高度商業地区 8m未満 3以上
    繁華街地区 4m未満 3以上
    普通商業・併用住宅地区 6m未満 3以上
    普通住宅地区 8m未満 2以上
    中小工場地区 10m未満 3以上
    大工場地区 28m未満 -
  • 国税庁ホームページより抜粋

分割して土地の評価が下がるのはある意味仕方のないことです。しかし、目先の相続税だけを考えて分割し、それぞれが次の世代に引き継いでいった結果、本来であれば効果的な不動産活用ができたにもかかわらず、何もできないとなると、土地の持つ本来の価値が下がったままになってしまうこともあるので注意しなければなりません。本来、収益を期待する土地は収益を生めるように、住むための土地は快適に住めるようにするのが一番です。そこを見誤らないよう、相続財産の分割ではこの視点を大切にするべきです。

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