時代とともに変化する食卓に合わせた、
手づくりのうつわを手掛けるうつわ専門店、
東京都千代田区の「暮らしのうつわ 花田」。
要介護の方にも、子どもたちにも、
すべての人に使いやすいうつわづくりに
ついて伺いました。
2024.3
「みそ汁は取っ手の付いた椀のようなものではなく、できるなら持って飲みたいし、漆器で飲みたいですよね」と店主の松井英輔さん。
1階は常設の作品が並ぶ。茶わんから皿、グラス、箸置きまで、さまざまなカテゴリーの和食器がそろう。2階は作家の個展を定期開催。
手づくりでつくる
すべての人に使いやすいうつわ
1977年の開店以来、全国各地の作家とうつわづくりを手掛ける「暮らしのうつわ 花田」。時代とともに変わる食卓スタイルに合わせながら、人々が求めるうつわをつくってきました。障がいのある方や高齢者の方、子どもたちのためのうつわもその一つ。より使いやすく、より美しいうつわをコンセプトに「MOAS(モアス)」シリーズとして展開しています。
「障がいのある方や高齢者の方のうつわって、パッと見てわかるものが多いでしょう。だから食卓に並んでいるのを見たときに、そこに誰が座るのかってわかる。おまけにどこで買うかというと、食器売り場ではなくて、介護用品売り場や医療用品売り場だったりする。色はだいたいピンクとかベージュで、選びようがないし、食卓上で使うものにもかかわらず、極端に言えばおむつの横に売っていたりする。それはおかしな話だなと思ったんです」と店主の松井英輔さん。店が掲げる「おいしく楽しい食卓」はすべての人々に向けてのメッセージではないのか、そんな疑問が原点となったと言います。
卓上で、できるだけ普通のうつわと
同じように見せる工夫を
ブルーが美しい碗は人気作家の一人、瀧田 操さんのもの。リムの縁にごくわずかな返しをもたせ、すくいやすい形状に。岩手の佐賀義之さんがつくる木目が美しい汁わんは大中小のサイズがあり幅広い年代に。
(左から)佐賀義之・汁椀(中) 4,950円、瀧田 操・蜜柑釉リム小鉢 3,300円、ルリ釉リム小鉢 3,300円。
佐賀義之さんの汁わん。高台の際に溝を施し指がかかりやすい工夫が施されている。
「もっと(MO)明日(AS)を…」という願いを込めて「MOAS」として2013年にスタートしたシリーズは、さまざまな試作を重ねてつくられています。たとえば漆の汁わん。「これは岩手の陶芸作家の工房に行ったとき、同じ考え方でつくられた試作品を見つけたのがきっかけです。同じ思いを持つ作家の佐賀義之さんも続いてつくることになりました。できるだけ普通にするという佐賀さんならではの発想で出来上がったものです」
制作段階では作家が考えた試作品を障がいのある方に使ってもらいながら進めたそう。「だんだん仲良くなって使う側も言いたいことを言えるようになってきたのではないでしょうか、試作を繰り返したと聞いています」
出来た椀は高台をやや高くし、際に溝をつくっているので指がかかりやすく、安全に持つことができます。最大の特徴は、その溝が外側から見えないこと。溝を付けるために見込み部分の生地を厚くひいていますが、重心は違和感がない仕上がりになっています。
「卓上に並んだときに見た目が普通の汁わんというのがいいでしょう。みそ汁って、取っ手が付いたおわんより手に持って飲みたいし、漆のもので飲みたいですよね。この汁わんは金沢の寿司屋さんでも使われています。酔ったお客さんがこぼさないようにって(笑)。皆さん、見て気づかない、持ってみて、あ、指がかかるって気づくらしいですね」
汁わんは祖父母や父母へのプレゼントとして選ばれることも多いそう。ほかにもスプーンなどのカトラリーや滑りにくい木のトレーなど、さまざまなうつわがつくられ、ウェブサイトでも紹介されています。
子どもたちにも
食事が楽しくなるうつわを
「MOAS」には子ども用の「MOAS Kids(モアス キッズ)」もあります。「『MOAS』をやってみて、大人だけでなく子どもも同じように、食事の時間をもっとおいしく楽しく豊かにしてほしいなという願いからつくったんです。子どもは大人のミニチュアではないし、小さいだけではないですよね」
特に子どものときにこそ、手づくりのものに触れてほしいと松井さんは言います。「漆器なんかは特にそう思いますね。理屈じゃなく、手で唇で感触を知っておくことは大事だと思います。浄法寺塗りの産地へ行くと漆を表現するときに“赤ちゃんの肌のようなしっとりした質感”という表現をするんですが、まさにそれなんです。子どもの頃にしっかりとつくられたものを使うと心も豊かになるんじゃないかなと。そんな願いを込めてつくっています」
リスに、うさぎに、車、どんぐり…にぎやかな絵が踊る子どものうつわ。浄法寺塗りの汁わんもぜひ普段づかいに。スプーンレストは口に入れないように大きなサイズにしている。
村田菜穂美ほか・子ども飯碗2,750円~3,520円、浄法寺・子ども椀各6,600円、石川漆宝堂・子ども五角箸3,410円、村田菜穂美・うさちゃんスプーンレスト1,650円ほか。
手書きの絵の青いラインは染付に使われる染料・呉須をクレヨンのような形状に仕上げたもので描くそう。「子どものうつわですが、癒やしになると大人の方が買っていかれることもあります」
(左上から時計回りに)いずれも村田菜穂美・五寸皿 こりすちゃんバルーン 2,970円、20cmプレート ブレーメンの音楽隊 4,840円、楕円小鉢 トリケラトプス 2,750円。
自分でうつわを選ぶ楽しみを
子どもたちにも
「MOAS Kids」のうつわは、店の奥のコーナーにずらりと並んで大人が眺めていても楽しい気分に。松井さんは選ぶときは子ども自身で選ぶようにすすめるのだそう。
「子どもだって自分でお茶わんくらい選んでもらいたいなと思って。結構、しっかり選びますよ。手づくりのうつわは個体差があるので、少しずつ違う。それを選んでって言うと、『うーん僕はこっちだな!』ってちゃんと選びますからね。意外とお母さんが選ぶものと本人が選ぶものは違いますしね(笑)。でも自分で選ぶと大人もそうですが、やっぱり大事にするんです。運ぶときも両手でしっかり持ったり、丁寧な所作になっていくんです」
Column
ちょっと楽しい仕掛け、発見!
子ども用のうつわの特徴は、見込み部分に絵が多いこと。「最後まで食べたら、ごほうびで絵が現れる。だからごはんを残さないようになる。残さないで食べましたっていうゴールみたいなものですね」。小さなうさぎが1匹だったり、2匹だったり、消防車と一緒だったり…。少しずつ違っていて選ぶときもワクワクします。
おいしく楽しい食卓のひとときは、誰にとっても大切なもの。介護が必要な方や子どもたちにとって、食事のひとときはとりわけ楽しみな時間であることも多いでしょう。「食卓の豊かな時間は、ひいては豊かな人生につながる」と語る松井さん。うつわを選ぶことから、そんな大切な時間を築いてみませんか。
暮らしのうつわ 花田
東京都千代田区九段南2-2-5 九段ビル1・2階
tel.03-3262-0669
12:00~17:00
営業日はウェブサイトでお知らせしていますのでご確認ください。
utsuwa-hanada.jp
※表示価格は消費税込み2024年2月現在。詳しくは暮らしのうつわ 花田のウェブサイトをご確認ください。
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