CREコラム
今さら聞けない「不動産証券化」(12)不動産証券化には、どのようなプレーヤーが存在するか
公開日:2018/03/31
アレンジャーは証券化の司令塔
不動産証券化は、多くの利害関係者が存在します。不動産を保有し資金調達を図りたいオリジネーター(原債権者)と投資家との間に入って証券化を完成させる役割を担っています。証券化における主要なプレーヤーを見ていきましょう。
アレンジャーは文字通り、不動産証券化をアレンジ(用意・手配)する人や会社を指します。オリジネーターや不動産購入のための融資を実行する銀行、あるいは投資家の間に入って証券化商品を作って販売し、投資家に配当を還元するまでの一連の証券化業務を取り仕切ります。証券化における中心選手といっても過言ではありません。
具体的には不動産会社や銀行・信託銀行、証券会社、不動産専門のコンサルタント会社が担い手となります。不動産はもちろん、金融、法務、税務などの専門的な知識が不可欠だからです。必要に応じて弁護士や会計士、不動産鑑定士など、より専門的な領域の知見を持つ関係者との交渉を行います。証券化に必要なSPC(特別目的会社)の組成はアレンジャーの最も重要な仕事です。また証券化商品の格付けや証券化された不動産の資産管理の具体的な方法なども求められます。
証券化商品ができた後は、多くの投資家に購入してもらうため、募集・販売を展開することになります。これは証券の世界でアンダーライティング(引受業務)と呼ばれるもので、証券会社が得意とする分野。アレンジャーから一定量の証券化商品を引き受けて販売手数料を稼ぐ証券ビジネスですが、売れ残れば証券会社が自ら購入しなければいけません。
不動産証券化における利害調整役として司令塔の役割を持っており、各メンバー間でトラブルなどが生じた場合は、アレンジャーが矢面に立って業務の進行に当たらなくてはいけません。それだけに、不動産会社や銀行・証券といえども、自ずと信用力のある大手に限られてくる、と言えるでしょう。
証券化における「経営者」アセットマネージャー
アセットマネージャー(AM)は、証券化される不動産を探して買い付け、一定の期間に運用したあとは売却して投資家に配当をもたらすまでの業務に携わります。投資家に対して、どの物件にいくらで投資すべきなのか。いつ売却すれば最も良い収益が出るのかを検討して実行します。
運用対象の不動産物件を探し、売り主との交渉や資産査定、銀行借り入れの交渉などにあたります。証券化が完成すると、物件の価値が向上するように施策を展開しなければなりません。賃貸ビルならば、テナントが絶えず入居して満室状態になるよう稼働率を向上させたり、賃料の改善にも取り組みます。
そのために、後述するプロパティマネージャーへの業務指示も重要になります。投資家への配当金分配や決算などの情報開示といった投資家に対する運用レポートもAMの仕事です。そして、最終的には物件売却があります。
一般的には、顧客の資産を預かって運用していますので、資産運用会社ともいわれています。アセットマネジメントを略して「アセマネ」などとも呼ばれます。証券会社や信託銀行系の「〇〇アセットマネジメント」、「△△投信(投資顧問)」、「□□投資信託委託」といった社名が多いです。
不動産の管理人「プロパティマネージャー」
プロパティとは、財産あるいは資産、物件の意味。証券化で使われる場合は不動産を指します。従って、プロパティマネージャー(マネジメント)は、不動産の管理に関わる人や会社のこと。略してPMと呼んでいます。その仕事は大きく分けると4つあります。 (1)リーシング業務・(2)テナント管理業務・(3)請求出納業務・(4)建物管理業務 です。
リーシング業務は、オフィステナントなどの賃貸ビルにテナントを誘致して、稼働率を上げることに注力します。店子(テナント)が入らなければ、ただの空室。収益は何も生みません。そのため、絶えず稼働率100%を目指し、賃料の相場を調査したり、テナント募集の企画立案をしたりします。そして入居希望者と賃貸契約を結びます。
テナント管理は、入居者であるテナントとのコミュニケーションを図る仕事。ビルの所有者に代わって顧客との窓口になり、転居の際の解約や契約更新などに対処します。また、テナント(入居者)の動向をいち早くキャッチして退去・転居を回避したり、増床の提案や家賃の減額などにも対応します。
請求出納業務は、テナントに対しては賃料請求事務と入金の確認、ビル所有者に対しては月次管理資料の作成やテナント運営における予算管理を行います。
建物管理業務は、ビルの日常的な点検から法定点検、自主点検、清掃などビルの維持管理にあたります。賃貸オフィスなどの不動産物件は、それ自体が収益を生むものであり、美観や下水道・ガス・電気、ボイラー・空調などビルインフラの劣化に対しては絶えず厳しい目で管理しなければなりません。劣化を食い止たり改善しておくことは、資産価値の維持にもつながるだけに、大事な仕事です。そして改修改築などのリニューアルもあります。
これら4つの業務に関して、その多くは証券化における司令塔であるアセットマネージャーが外部の会社に委託して代行してもらう方式がとられています。リーシング業務は不動産仲介会社、ビル管理はビルメンテナンスの専門の会社、改修改築は施工会社などに任せます。
今さら聞けない「不動産証券化」
- (1) 証券化は、こうして始まった
- (2) ABSは証券化の代表選手
- (3) 不動産証券化のメリットとデメリット
- (4) Jリートとはなにか?
- (5) 広がる証券化ビジネス
- (6) なぜ不動産証券化が登場したのか
- (7) 不動産証券化の歴史(1)
- (8) 不動産証券化の歴史(2)
- (9) 不動産証券化の歴史(3)
- (10)資金調達、運用、そして新しいビジネス
- (11)3つのタイプの不動産証券化
- (12)不動産証券化には、どのようなプレーヤーが存在するか
- (13)不動産証券化における資金調達
- (14)倒産隔離と真正売買
- (15)二重課税の回避
- (16)信用補完について
- (17)ノンリコースローンについて
- (18)デュー・デリジェンス
- (19)格付けについて
- (20)利益相反について
- (21)出口戦略について
- (22)セール・アンド・リースバックについて
- (23)不動産鑑定評価について
- (24)不動産証券化に「信託」が利用される理由