CREコラム
今さら聞けない「不動産証券化」(7)不動産証券化の歴史(1)
公開日:2017/07/30
不動産証券化が最も発達したのは米国。米国の金融当局は、国民のマイホーム保有を推進させるためには、土地を担保にした住宅ローンを取り扱う銀行が健全経営を継続する必要があると判断し、保有リスクのある住宅ローン債権を銀行から切り離し、政府系の公的機関が買い取りました。国の信用で銀行の住宅融資を支えたのです。
米国に3つの住宅抵当公庫あり
こうした公的機関は、銀行から買い取った住宅ローン債権を証券化市場で住宅ローン担保証券として発行して証券化、住宅ローンが拡大し住宅販売が増加していったのでした。米国では住宅ローンの3分の2が証券化されているといわれており、その大半は、民間銀行から住宅ローン債権を買い取る3つの住宅抵当公庫が占めています。
1938年にできた連邦住宅抵当公庫は、頭文字をとって「ファニーメイ」と呼ばれていて、1968年に民営化されました。アメリカ連邦政府抵当金庫は通称「ジニーメイ」。1968年にファニーメイから分離独立した政府100%出資の国営企業です。連邦住宅金融抵当公庫は、通称「フレディマック」。1970年に設立された半官半民の金融機関です。しかしファニーメイとフレディマックは2008年に起きたリーマン・ショックで経営が破たんして国有化されており、存続を巡って議会で議論が起きています。
我が国では不良債権処理に一役買った
日本では、1980年代後半のバブル景気で地価が異常に高騰し、土地神話が生まれました。銀行は土地さえあればいくらでも融資を実行し、企業は保有する不動産を担保に巨額の貸付金を得て、ホテルやゴルフ場などを次々と建設していきました。
しかし、バブルが崩壊し景気が低迷すると、企業は巨額融資の返済に窮して経営危機に陥るところが出てきました。銀行は、万が一の融資の肩代わりとして担保を取っていた土地を売って融資の焦げ付きをカバーしようとしますが、土地神話が崩壊し地価が暴落したため、売るに売れず困り果てます。
そこで国は、銀行が保有している土地担保付きの貸付債権、いわば不良債権を買い取る組織「共同債権買取機構」を1993年に設立しました。この組織に多くの銀行が出資しました。また、買い取るには、不良債権を機構に持ち込んだ銀行自らが買い取り、資金を機構に出さなければならないので、バランスシートから不良債権を取り外すにすぎない会計処理、という批判も出ました。
銀行の土地付き不良債権をこうして1カ所に集めたところで、今度は不動産の売却を進めなければいけません。そこで出てくるのが不動産の証券化です。銀行は、共同債権買取機構に不良債権を売却して、返済困難になった貸付債権をバランスシートから切り離しました。国は、売れない不動産の売買を活性化させる狙いから2001年に不動産の流動化策を実施、新たな市場を作りました。これが不動産投資信託、いわゆるJリートです。Jリートの創設は銀行の不良債権処理が引き金になり、不動産証券化は、銀行の不良債権処理に一役買ったのです。
弾みをつけたSPC法
米国では住宅ローン債権で弾みがつき、我が国では不良債権処理で脚光を浴びた不動産証券化ですが、その流れを加速させたのは、1998年に制定された「資産の流動化に関する法律」、いわゆるSPC法でしょう。
SPC法は、資産を小口化してより多くの投資家に提供する証券化の根拠法で、当初は流動化の対象債権が土地などに限定されていましたが、2001年に改正されて、すべての財産権を対象にした流動化がその対象範囲となりました。
SPCは、「Special Purpose Company」の略で、不動産などの資産を担保にした信託受益権を発行するためだけに設立された会社を指します。特定(または特別)目的会社などともいわれ、TMKと通称されることもあります。
SPC法によって、資産価値のあるものはすべてが証券化の対象になり、企業の資金調達及び資金運用の幅が一気に広がりました。資産を保有する企業(原債権者)や、資産を売却して信託受益権を発行したりするSPC、資産を適切に管理する信託銀行、受益権証券を販売する証券会社など、証券化の仕組みに関わるプレーヤーの立ち位置を明確にしました。
経済が透けて見える証券化
いま、インフラファンドが注目されています。インフラファンドとは、鉄道・空港・港湾などの交通網や、発電所などのエネルギー関連施設といった社会基盤(インフラ)の建設や運営に投資する不動産証券化の金融商品です。公共施設の使用料や売電から上がる収益から配当が分配されます。
公共性が高い施設のため施設使用料は景気に左右されにくく、長期的に安定した配当が期待できるといわれています。
証券化市場を俯瞰すると、世界経済のありようが一望できます。インフラファンドは近年、世界各国で増えています。経済成長を遂げている新興国では、国の財源不足でインフラ整備が進んでいません。反面、先進国でも財政が悪化して支出を抑えるため、新たなインフラ設備の建設や既存の公共事業の運営には、民間の資金やノウハウを導入する手法が増えています。
環境保護の世界的な高まりも、インフラファンドのニーズを生んでいるようです。再生可能エネルギーなどはその代表格で、2015年に国内で始まった「東証インフラファンド市場」の2つのファンドともメガソーラー案件です。また、地方自治体が苦慮する地方空港の運営も、インフラファンドが活躍する舞台になりつつあります。高齢社会が本格化し、今後は大規模な高齢者向け住宅や介護施設、医療モールなど、投資に見合うヘルスケア関連施設の建設プロジェクトも見込まれるでしょう。
不動産証券化は、社会経済を映す、鏡の1つでもあるのです。
今さら聞けない「不動産証券化」
- (1) 証券化は、こうして始まった
- (2) ABSは証券化の代表選手
- (3) 不動産証券化のメリットとデメリット
- (4) Jリートとはなにか?
- (5) 広がる証券化ビジネス
- (6) なぜ不動産証券化が登場したのか
- (7) 不動産証券化の歴史(1)
- (8) 不動産証券化の歴史(2)
- (9) 不動産証券化の歴史(3)
- (10)資金調達、運用、そして新しいビジネス
- (11)3つのタイプの不動産証券化
- (12)不動産証券化には、どのようなプレーヤーが存在するか
- (13)不動産証券化における資金調達
- (14)倒産隔離と真正売買
- (15)二重課税の回避
- (16)信用補完について
- (17)ノンリコースローンについて
- (18)デュー・デリジェンス
- (19)格付けについて
- (20)利益相反について
- (21)出口戦略について
- (22)セール・アンド・リースバックについて
- (23)不動産鑑定評価について
- (24)不動産証券化に「信託」が利用される理由