税の仕組みを知れば、もっと土地活用は面白くなる(4)集合住宅のバリアフリー化と税について
公開日:2019/03/29
POINT!
・自己所有物件、集合住宅のバリアフリー化を後押しする優遇税制がある
・今後、住宅における高齢者対応のニーズは高まるだろう
国や地方自治体でも、超高齢社会に備えて、 高齢化住宅に対する施策を進めています。国や 自治体が求める社会的なニーズに対応して、そ れに応じた投資を行うことで、税制面などでの恩 恵を受けられる可能性が広がり、結果として投 資コストの軽減につながります。ぜひ、こうしたポ イントを押さえて、国や自治体の求める社会的な ニーズを上手に活用してはいかがでしょうか。
自己所有物件へのバリアフリー改修工 事を行った場合の優遇税制
まずは、自己所有物件へのバリアフリー改修工事について考えてみたいと思います。私には、一人暮らしをする98歳の祖母がいます。ただ、体も弱くなり、今の家に住み続けても何かと不便なので、それ相応の設備が整った施設のほうが良いのではないか、もしくは面倒をみられる家族と同居をしたほうがよいのではないか、という悩みを抱えています。祖母にとって、そうしたサービス付きの施設に入ったり、家族と同居をしたりすれば、さぞかし生活が楽になるだろう、と考えてしまいがちですが、高齢者にとって、生活環境を変えるのは、想像以上に負担が重いようです。何よりも新しい環境で生活を始めようという気持ちが動かないようです。このように同じ悩みを持たれている方も多いのではないでしょうか。
そこで、こうした住環境の変化がおっくうになる前に考えたいのが「老後に向けたバリアフリー化」です。今の住環境のまま、老後に備えて住みやすい家にカスタマイズ・改修をするというものです。何十年も同じ家に住み続けるのであれば、体や気持ちが動くうちに、その時々に合わせてカスタマイズ・改修をしていくのは非常に大事なことです。国や地方自治体の税制では、こうしたバリアフリー化を国民の自助努力によって整備できるように、社会政策的にさまざまな優遇税制が設けられています。
(1)(特定増改築等)住宅借入金等特別控除
返済期間が5年以上の住宅ローンを利用して、自分の住んでいるマイホームを所定のバリアフリー仕様にするためにリフォームをすると、特定増改築をした場合の住宅借入金等特別控除が利用できます。通常の新築や既存(中古)住宅のローン控除の場合は、10年以上の借入期間という要件がありますが、リフォームの借り入れの場合は、借入金が多額にならないため、借入期間が10年未満のケースが多いです。そこで、5年以上の住宅ローンであっても住宅借入金等特別控除が利用できるようになっています。その制度を「(特定増改築等)住宅借入金等特別控除」といい、内容は以下の通りです。
既存住宅を特定改修した場合の税額控除
居住年 | 対象ローン残高 | 控除対象限度額 | 控除期間 | 最大控除額 |
---|---|---|---|---|
2021年12月31日まで | 1000円万以下 | 2%(一定のバリアフリー改修工事にかかる借入金で250万円まで) | 5年 | 62.5万円 |
1%(上記以外工事に係る借入金) |
(2)投資型減税
高齢者や要介護・要支援認定者、障がい者本人、またはそれらの人と同居する人が自ら所有し居住する住宅のバリアフリー改修工事を行ったときに使える制度です。一定のバリアフリー改修工事を行った場合、控除対象限度額を上限として、その控除対象額の10%の控除を受けることができます。この減税は住宅ローンの借り入れの有無にかかわらず、自己資金によってバリアフリー改修工事を行った場合でも適用が可能です。
バリアフリー改修工事の投資型減税の概要
適用期間 (改修後の居住開始日) |
控除期間 | 控除対象限度額 | 最大控除額 |
---|---|---|---|
2021年12月31日まで | 1年間 | 200万円 | 20万円※ |
- ※消費税8%または10%が適用される場合の金額であり、それ以外の場合は15 万円
(3)固定資産税の軽減措置
2020年3月31日までの限定措置として、築後10年以上経過した住宅について、一定のバリアフリー改修工事を行った場合、その住宅にかかる固定資産税(100m2相当部分まで)の税額が以下の通り減額されます。
住宅のバリアフリー改修工事の固定資産税の減税措置
適用期間 | 減税期間 | 控除対象限度額 | 備考 |
---|---|---|---|
2021年12月31日まで | 工事完了の 翌1年度分 |
固定資産税額 の3分の1を減額 |
1戸あたり100m2相当分までを限度 |
(4)贈与税の非課税措置
通常、年間110万円を超える贈与を受けた場合には贈与税がかかりますが、父母等から自己の居住の用に供する住宅の新築もしくは取得、またはバリアフリー化やリフォームを含めた増改築等のための金銭(以下「住宅取得等資金」といいます)の贈与を受けた場合においては、下記の金額までの贈与について非課税措置が設けられています。
(a) 住宅用の家屋の新築等に係る対価等の額に含まれる消費税等の税率が10%である場合
契約の締結日 | 省エネ等住宅 | 左記以外の住宅 |
---|---|---|
2019年4月1日~2020年3月31日 | 3,000万円 | 2,500万円 |
2020年4月1日~2021年3月31日 | 1,500万円 | 1,000万円 |
2021年4月1日~2021年12月31日 | 1,200万円 | 700万円 |
(b)上記以外の場合
契約の締結日 | 省エネ等住宅 | 左記以外の住宅 |
---|---|---|
2016年1月1日~2020年3月31日 | 1,200万円 | 700万円 |
2020年4月1日~2021年3月31日 | 1,000万円 | 500万円 |
2021年4月1日~2021年12月31日 | 800万円 | 300万円 |
集合住宅へのバリアフリー化、他
次に、賃貸事業に係る賃貸住宅やマンション等の集合住宅へバリアフリーの設備投資を行った場合、並びに高齢者向け賃貸住宅投資の有用性について考えてみたいと思います。
住宅へのニーズはライフスタイルの変化とともに変わるため、賃貸住宅にお住まいの方にとっては、その時々に求める住環境に応じて住まいを変えられるという利点がありますが、歳をとってから最終的に住宅に求めるのは、生活するうえで障害の少ないバリアフリー化された住環境であり、マイホームにお住まいの方が住宅に求めるニーズと何ら変わらないのではないでしょうか。
賃貸事業を行っている貸主としては、今後、こうした借主のニーズに応じた住宅環境の提供が求められると思います。最近は、少子高齢化を背景に賃貸住宅・マンション投資についてネガティブなイメージを持たれている方がいらっしゃいますが、逆に今後の超高齢社会のニーズをくみ取って、賃貸住宅・マンションにバリアフリー化の投資を施したり、高齢者向け賃貸事業へ投資をしたりすることは、非常に大きな武器になるのではないでしょうか。
(1)助成金支援制度
各自治体によって助成金を受けるための要件や助成内容は異なりますが、多くの自治体で、集合住宅の共用部分のバリアフリー改修工事を行うと、費用の一部を助成する「共同住宅バリアフリー化支援事業」を行っています。
一例までに、東京都港区の支援事業をあげてみます。(東京都港区HPより引用)
要件 |
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事業の詳細 |
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- ※a~fの工事を組み合わせて申請することもできますが、助成を受けた工事については、受給後5年間は同一工事で申請できません。
- ※工事着工後の申請については、助成対象外となります。
工事費用と上記の限度額のいずれか少ない額の2分の1が助成されます。
賃貸事業を行っていてバリアフリー化を検討されている方は、ご自身が保有する不動産の所在する自治体の情報を集めてみてはいかがでしょうか。
(2)サービス付き高齢者向け住宅供給促進税制、、他
日本における高齢者住宅事情は、諸外国に比較して不足しているのと、賃貸住宅で自力だけで生活することへの不安、また、本来は高齢者住宅で対応可能な要介護度の低い高齢者でも特別養護老人ホームの申し込みとなっています。こうした状況等を踏まえ、高齢者生活支援施設を併設するサービス付きの高齢者向け住宅を推進させる施策が行われています。
高齢者が安心して暮らせる住宅の供給を促進することを目的に「サービス付き高齢者向け住宅」に係る税の特例措置が今年の税制改正によって2年間延長されることになりました。
固定資産税
適用期間 | 内容 |
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2021年3月31日まで | 5年間税額について2/3を参酌して1/2以上5/6以下の範囲内において市町村が条例で定める割合を軽減 (一般新築特例は1/2軽減)固定資産税額の3分の1を減額 |
要件 |
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不動産取得税
適用期間 | 内容 |
---|---|
2021年3月31日まで | 家屋課税標準から1,200万円控除/戸(一般新築特例と同じ) 土地家屋の床面積の2倍にあたる土地面積相当分の価額等を減額(一般新築特例と同じ) |
要件 |
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また、融資の面においても「サービス付き高齢者向け住宅」として登録を受ける賃貸住宅の建設、改修に必要な資金、または賃貸住宅とする中古住宅の購入に必要な資金の貸付制度を住宅金融支援機構が支援しています。
このように、今後はマイホーム並びに賃貸住宅投資関連においても、高齢者対応へのニーズが間違いなく高まるでしょう。また、国や地方自治体においても、それを支援するような施策が進められています。国や自治体の求める社会的なニーズを上手に活用して、バリアフリーや高齢者向けの対応を念頭において投資を検討されてはいかがでしょうか。