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コラム vol.359-7
  • 賃貸住宅経営のポイント

2021年から動き出す新しい住宅政策とは?(7)環境問題 ~カーボンニュートラルの対応~

公開日:2022/01/11

POINT!

・2050年のカーボンニュートラルに向け、環境対策を意識した新しい基準の指標化、義務化が進められている

・2030・2050年に向けて、ZEH・ZEB基準の『省エネ性能』『再エネ状態』について、それぞれ2つの目標が示された

前回は「住宅ストック・産業」の視点から目標7「空き家の管理・除却・利活用」を中心に、住宅というモノの視点、ハード面から住宅政策を確認しました。具体的に空き家対策は市町村が対応するため、人口減少社会における土地活用は、今まで以上に行政の街づくり計画の影響を大きく受けることになります。適切な情報収集を行っていきましょう。
今回は「住宅ストック・産業」の視点から目標6「脱炭素社会に向けた住宅循環システムの構築と良質な住宅ストックの形成」を見ていきたいと思います。

図1:「住宅ストック・産業」の視点

出典:国土交通省「新たな住生活基本計画の概要」

セオリーの変化に乗り遅れると、間違えるべくして間違える!?

以前ある先輩から「セオリー通りに考えて行動すれば、9割方間違えることはない!」「なぜ、君はセオリー通り、行動しないんだ!」と何度も叱責を受けたことがありました。
私は一歩先読みする考え方や行動をすることが大好きですが、もちろん、変わらないセオリーも存在しますから、それも大事にしています。しかし、世の中には変わらないものの方が少ないと思います。しかも、このコロナ禍により、さまざまな変化が顕在化し、スピードも速まったように感じています。
実際、ここ数年、その先輩の業績や表情が暗いのも事実です。

なぜ、そうなっているのでしょうか?これは私の考えですが、セオリーとは、過去の成功事例や経験則の積み重ねです。ですから、過去にないような環境の変化が起これば、当然、成功に関する基準やルール(法則)は変化します。過去の成功に基づいたセオリーに固執しすぎると、逆に間違ってしまう原因になりかねません。
つまり、現在のような時代の節目では、「間違えるべくして間違えてしまう」ということが度々起きます。
土地活用は長期投資なので、普遍的な基準を上手に活かしながら、変わりそうな基準については変化のタイミングを想定し、先読み=先回りすることが大切です。
今回の「環境問題~カーボンニュートラルへの対応」も、まさに時代の節目により誕生した比較 的新しい基準ではないでしょうか。

そもそも、カーボンニュートラルって?

カーボンニュートラルとは、環境省「温室効果ガス排出・吸収量等の算定と報告」温室効果ガスインベントリの概要を参照にお伝えすると、一言でいえば「温室効果ガス」の排出を「ニュートラル」=0(ゼロ)にするということです。

なぜ、このような対応が必要になったかというと、20世紀半ば以降、世界の平均気温は上昇し続け、地球が温暖化しており、そのことで災害が激甚化するなど人類にとって悪影響が出ているとされ、この原因が18世紀後半の産業革命以降、大量の化石燃料を消費し、二酸化炭素(CO2)、メタン、N2O(一酸化二窒素)、フロンガスなどのいわゆる「温室効果ガス」が排出され、大気中の温室効果ガスの濃度が急激に上昇したことであると考えられているからです。そこで、次のような目標が掲げられました。

  • 2015年にパリ協定が採択され、産業革命以降の気温上昇を2℃ないし1.5℃に抑制することが長期目標として掲げられ、行動が促されている

1990年代に地球温暖化防止についての枠組みを規定した気候変動枠組条約(United Nations Framework Convention on Climate Change: UNFCCC)により、1年間に排出・吸収する温室効果ガスの量を「温室効果ガスインベントリ(Greenhouse GasInventory)」として国ごとで取りまとめ、直近年の温室効果ガス排出・吸収量を推計・公表するとともに、これらのデータを条約事務局に提出する義務を課せられています。

政府の対応

実際に、この「環境問題~カーボンニュートラルへの対応」が早まったのは、以下の理由があります。

  • ・2018年10月のIPCC(気候変動に関する政府間パネル)特別報告書で、将来の平均気温上昇が1.5℃を大きく超えないようにするためには、2050年前後に世界の二酸化炭素排出量が正味ゼロとなっていることが必要であるとの見解が示された。
  • ・2021年8月の報告書では、気温上昇を1.5℃に抑えることで10年に一度の豪雨等の頻度を低くし得るとの見解が示されました。事実、国土交通省の資料によると、2018年7月豪雨の総降水量は気候変動により約6.5%増と試算され、気候変動の影響が既に顕在化していることが明らかであると指摘されています。

そしてそのような中、菅首相(当時)が2020年10月26日の所信表明演説で「2050年にカーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す」ことを宣言し、2021年4月22日には「2030年度に、温室効果ガスを2013年度から46%削減することを目指す。さらに、50%の高みに向けて、挑戦を続けていく」ことが表明されました。

住生活基本計画に明記され、土地活用に影響のありそうな施策

住生活基本計画に明記され、土地活用に影響のありそうな施策は以下の通りです。

  • ○住宅の省エネルギー基準の義務づけや省エネルギー性能表示に関する規制など更なる規制の強化
  • ○炭素貯蔵効果の高い木造住宅等の普及や、中高層住宅等の木造化等により、まちにおける炭素の貯蔵の促進
  • ○住宅事業者の省エネルギー性能向上に係る取り組み状況の情報を集約し、消費者等に分かりやすく公表する仕組みの構築

脱炭素社会に向けた目標6によれば、2050年のカーボンニュートラルに向け、ここ10年程度で環境対策を意識した新しい基準が確実に生まれ、指標化&義務化されそうです。

住宅・建築物を取り巻く環境と2050年カーボンニュートラルの実現に向けた基本的な考え方

このような状況下、国土交通省、経済産業省及び環境省の三省は、2021年4月に「脱炭素社会に向けた住宅・建築物の省エネ対策等のあり方検討会」を立ち上げ、2021年8月23日に「脱炭素社会に向けた住宅・建築物における省エネ対策等のあり方・進め方」という報告書をとりまとめ、公表しました。
この報告内容が、今後の政策のベースになります。

表1:脱炭素社会に向けた住宅・建築物における省エネ対策等のあり方・進め方の概要

  1. 2050年カーボンニュートラルの実現に向けた取り組みの進め方
  2. I.家庭・業務部門(住宅・建築物における省エネ対策の強化)
  3. (1)省エネ性能の底上げ(ボトムアップ)
    ・住宅を含む省エネ基準への適合義務化〈2025年度〉
    ・断熱施工に関する実地訓練を含む未習熟な事業者の技術力向上の支援
    ・新築に対する支援措置について省エネ基準適合の要件化
    (2)の取り組みを経て
    ・義務化が先行している大規模建築物から省エネ基準を段階的に引き上げ
    ・遅くとも2030年までに、誘導基準への適合率が8割を超えた時点で、義務化
    された省エネ基準をZEH・ZEB基準の水準の省エネ性能(※)に引き上げ
     ※住宅:強化外皮基準+一次エネルギー消費量▲20%
     建築物:用途に応じ、一次エネルギー消費量▲30%又は40%(小規模は20%)
  4. (2)省エネ性能のボリュームゾーンのレベルアップ
    ・建築物省エネ法に基づく誘導基準や長期優良住宅、低炭素建築物等の認定基準をZEH・ZEB基準の水準の省エネ性能に引き上げ、整合させる
    ・国・地方自治体等の新築建築物・住宅について誘導基準の原則化
    ・ZEH、ZEB等に対する支援を継続・充実
    ・住宅トップランナー制度の充実・強化(分譲マンションの追加、トップランナー基準をZEH相当の省エネ性能に引き上げ)
  5. (3)より高い省エネ性能を実現するトップアップの取り組み
    ・ZEH+やLCCM住宅などの取り組みの促進
    ・住宅性能表示制度の上位等級として多段階の断熱性能を設定
  6. (4)機器・建材トップランナー制度の強化等による機器・建材の性能向上
  7. (5)省エネ性能表示の取り組み
    ・新築住宅・建築物の販売・賃貸の広告等における省エネ性能表示の義務付けを目指し、既存ストックは表示・情報提供方法を検討・試行
  8. (6)既存ストック対策としての省エネ改修のあり方・進め方
    ・国・地方自治体等の建築物・住宅の計画的な省エネ改修の促進
    ・耐震改修と合わせた省エネ改修の促進や建替えの誘導
    ・窓改修や部分断熱改修等の省エネ改修の促進
    ・地方自治体と連携した省エネ改修に対する支援を継続・拡充等
  1. II.エネルギー転換部門(再生可能エネルギーの導入拡大)
    太陽光発電や太陽熱・地中熱の利用、バイオマスの活用など、地域の実情に応 じた再生可能エネルギーや未利用エネルギーの利用拡大を図ることが重要
  2. (1)太陽光発電の活用
    • 太陽光発電設備の設置については、その設置義務化に対する課題の指摘もあったが、導入拡大の必要性については共通認識
    • 将来における太陽光発電設備の設置義務化も選択肢の1つとしてあらゆる手段を検討し、その設置促進のための取り組みを進める
    ・国や地方自治体の率先した取り組み(新築における標準化等)
    ・関係省庁・関係業界が連携した適切な情報発信・周知、再生可能エネルギー利用設備の設置に関する建築主への情報伝達の仕組みの構築
    ・ZEH・ZEB等への補助の継続・充実、特にZEH等への融資・税制の支援
    ・低炭素建築物の認定基準の見直し(再エネ導入ZEH・ZEBの要件化)
    ・消費者や事業主が安心できるPPAモデルの定着
    ・脱炭素先行地域づくり等への支援によるモデル地域の実現。そうした取り組み状況も踏まえ、地域・立地条件の差異等を勘案しつつ、制度的な対応のあり方も含め必要な対応を検討
    ・技術開発と蓄電池も含めた一層の低コスト化
  3. (2)その他の再生可能エネルギー・未利用エネルギーの活用や面的な取り組み
    ・給湯消費エネルギーの低減が期待される太陽熱利用設備等の利用拡大
    ・複数棟の住宅・建築物による電気・熱エネルギーの面的な利用・融通等の取り組みの促進
    ・変動型再生可能エネルギーの増加に対応した系統の安定維持等の対策
  1. III.吸収源対策(木材の利用拡大)
  2. ・木造建築物等に関する建築基準の更なる合理化
    ・公共建築物における率先した木造化・木質化の取り組み
    ・民間の非住宅建築物や中高層住宅における木造化の推進
    ・木材の安定的な確保の実現に向けた体制整備の推進に対する支援
    ・地域材活用の炭素削減効果を評価可能なLCCM住宅・建築物の普及拡大

出典:国土交通省 脱炭素社会に向けた住宅・建築物の省エネ対策等のあり方検討会「脱炭素社会に向けた住宅・建築物における省エネ対策等のあり方・進め方」概要(2021年8月)

同報告書によると、2030年及び2050年に目指すべき住宅・建築物の姿≪あり方≫として「省エネ性能の確保・向上による省エネルギーの徹底と再生可能エネルギーの導入拡大」を基本とすると示しています。
具体的には、2030年までに誘導基準への適合率が8割を超えた時点では、(1)新築ベースで「強化外皮基準及び再生可能エネルギーを除いた一次エネルギー消費量を現行の省エネ基準値から20%削減、建築物については用途に応じて30~40%削減(小規模は20%)」というZEH・ZEB基準の『省エネ性能』、(2)「新築戸建住宅の6割において太陽光発電設備が導入される」という『再エネ状態』の2つを備えるという目標が示されています。

また、2050年時点では、(1)ストック平均で「一次エネルギーの平均消費量を省エネ基準から 20%程度削減、建築物については用途に応じて30%又は40%程度削減」というZEH・ZEB基準 の『省エネ性能』、(2)「導入が合理的な住宅・建築物における太陽光発電設備等の再生可能 エネルギー導入が一般的」になるという『再エネ状態』を備えるという2つの目標が示されています。

今後、関係各省で、具体化に向けて取り組まれていくそうですが、前述の報告書とともに公表 されたタイムテーブルを見ると、さまざまな規制が確実に拡大・強化されていく予定です。

「(参考)脱炭素社会に向けた住宅・建築物における省エネ対策等のあり方・進め方に関するロードマップ(2021.8)」

出典:国土交通省 脱炭素社会に向けた住宅・建築物の省エネ対策等のあり方検討会「脱炭素社会に向けた住宅・建築物における省エネ対策等のあり方・進め方に関するロードマップ」(2021年8月)

まとめ ~私たちができること

間違えず、時代に乗り遅れないためには、現在の最低基準に合わせるのではなく、時流で変化する基準から、それぞれの状況に合わせて賢く適宜対応していくことが大切です。

  • ○2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、省エネルギー性能を一層向上しつつ、長寿命でライフサイクルCO2排出量が少ない長期優良住宅ストックやZEHストックを拡充し、ライフサイクルでCO2排出量をマイナスにするLCCM(ライフサイクルカーボンマイナス)住宅の評価と普及を推進するとともに、住宅の省エネルギー基準の義務づけや省エネルギー性能表示に関する規制など更なる規制の強化
  • ○炭素貯蔵効果の高い木造住宅等の普及や、CLT(直交集成板)等を活用した中高層住宅等の木造化等により、まちにおける炭素の貯蔵の促進
  • ○住宅事業者の省エネルギー性能向上に係る取り組み状況の情報を集約し、消費者等に分かりやすく公表する仕組みの構築。高い省エネルギー性能や、CO2排出量、長期優良性、既存宅地を重視して、住宅取得を推進

出典:国土交通省「新たな住生活基本計画の概要」

上記、「新たな住生活基本計画の概要目標6」に記載されている内容については、確実に実施されるものと理解し、このような環境変化への対応も事業計画に加味していきましょう。
対応方法には、目に見えるがお金がかかる「ハード面」の対応と、目に見えづらいが経験値が上がりノウハウとなる「ソフト」面の対応があります。
特に、ハード面は技術革新が進行中で、基準自体もより厳しいレベルに変更されそうですから、 大きな投資をするには難しい局面です。例えば、修繕やリフォームをするにしてもどの程度まで対応するのか、収支バランスも意識してしっかり考えた上で、適宜対応する必要があります。

新しい基準が創造されているときには、変化することもあり得ますから、まずは、ノウハウや技術対応が先行している大手業者さんとしっかり関係性を持って、情報収集に努めましょう。

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