コラム vol.061
基本的な相続税の仕組み
執筆:公認会計士・税理士 高桑昌也
公開日:2015/02/01
相続税とは?
日本人の平均寿命は男性80.2歳、女性86.6歳(平成25年)です。人間誰しも、いずれはこの世にお別れをしなければなりません。日本では年間9%(平成20年度厚生労働省調べ)の方が亡くなられます。その時に、不動産や預貯金などの財産がある場合に課せられるのが「相続税」です。
誰が払うか?
亡くなった方の財産を引き継いだ人に相続税は課されます。4人家族(父、母、子2人)としますと、父が亡くなられた場合、母・子が財産を引き継ぐとともに、母・子が引き継いだ父の財産に応じて相続税を払います。母が亡くなられた場合も同様に、父・子が相続税を払います。
いつ払うか?
人が亡くなられたタイミング=「相続が発生」と考えます。相続が発生してから10カ月以内に、税務署に相続税を支払わなければなりません。10カ月後までに払えなかった場合には「延納」と言って、払う期間を猶予してもらうことができます。
どのようにして払うか?
原則として現金で払います。ただ相続したものが現金であればすんなり払えるのですが、不動産や株式(上場していない)など、換金が難しい資産もあったりします。そのような現金で払えない場合には「物納」といって、不動産や株式の現物を税務署に納めることで、相続税の支払いに替えることができる制度もあります。
どのように計算するか?
基本的な計算方法としては、以下のとおりです。
(1)続した財産の評価額-(2)相続した負債の額-(3)基礎控除額=
正味の相続財産正味の相続財産×(4)税率=相続税額
(1)相続した財産の評価額は資産によって評価の方法は異なりますが大きく以下のように分かれます。
- ・金融資産‥‥原則として相続発生時の時価
- ・不動産‥‥‥相続税評価額(公示価格の7割程度)
(2)相続した負債の額は負債の額面となります。住宅ローンのような借入金であれば、相続発生時の額面金額となります。
(3)基礎控除額は2015年1月から法律が代わり、3,000万円+600万円×法定相続人の数となります。
(4)税率は累進課税(財産の額が多いほど税率も高くなる)となり、正味の相続財産の額に応じて、以下のような税率となります。
相続した財産の額 | 税率 | 税額控除額 | ||
---|---|---|---|---|
1,000万円以下 | 10% | なし | ||
3,000万円以下 | 15% | 50万円 | ||
5,000万円以下 | 20% | 200万円 | ||
1億円以下 | 30% | 700万円 | ||
2億円以下 | 40% | 1,700万円 | ||
3億円以下 | 45% | 2,700万円 | ||
6億円以下 | 50% | 4,200万円 | ||
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
具体的な計算
5歳の父(年金暮らし)、70歳の母(無職)、会社員の息子2名(45歳、41歳)の家庭を想定し、お父さんが亡くなられたとします。 お父さんの財産は以下のようなものでした。
- ・自己居住用の一戸建て(世田谷区、評価額6,000万円)
- ・賃貸用のワンルームマンション(中野区、評価額1,500万円)
- ・郵便局の貯金(4,000万円)
- ・上場株式(買ったときの価格は200万円、時価は500万円)
- ・借入などの負債は零
- 合計評価額:1億2,000万円
この場合の相続税額はおおむね以下のような計算となります。
(1)相続した財産の評価額:1億2000万円
(2)相続した負債の額:零
(3)基礎控除額:3000万円+600万円×3=4800万円
正味の相続財産((1)-(2)-(3)):7200万円
これを法定相続割合(配偶者2分の1、子4分の1)で相続したとすると、
母の相続税額:3,600万円×(4)税率20%-控除200万円=520万円
子2人の相続税額:(1,800万円×(4)税率15%-控除50万円)×2名=440万円
残された家族が払うべき相続税はトータルで960万円となります。
これをお父さんが亡くなられた後、10カ月以内に税金として払わなければいけません。結構手痛い出費です。
(注)実際は葬儀費用などを控除できますが、この例では細目は割愛しております。
相続税を節約する方法はあるの?
先に述べた相続の計算式の中で、(3)基礎控除額と(4)税率は、国によって決められているため、私たちが変えることはできません。変更可能なものは、(1)相続した財産の評価額と、(2)相続した負債の額になります。中でも(1)の相続財産の「評価額を下げたり」、相続財産の構成(不動産と金融資産)を「替えたり」、相続財産を生前に贈与して「名義を替える」ことが、いわゆる相続税対策というものです。 では、先の例で母と2人の息子はどのようなことを事前にしておくべきだったのでしょうか?