大和ハウス工業株式会社

DaiwaHouse

土地活用ラボ for Biz

土地活用ラボ for Biz

ビジネスイノベーションを加速する物流戦略 内田和成×浦川竜哉コラム No.5-2

早稲田大学大学院商学研究科
早稲田大学ビジネススクール教授
内田和成
 × 
大和ハウス工業株式会社
常務執行役員建築事業担当
浦川竜哉

スペシャル対談

イノベーションとは技術革新だけではない

内田世の中では、ビジネスのイノベーションや新しいビジネスモデルというものは、技術革新から起こると思われがちです。しかし、ビジネスモデルや新しい戦略などを専門とする立場で、今の話を解釈していくと、技術革新というのは要素のひとつに過ぎないということが言えると思います。
私はビジネスのイノベーションの大事な要素として、「技術」「構造変化」、それから「心理的変化」という3つで捉えています。そうすると、ビジネスのイノベーションがとても見えやすくなります。
具体的な例で申し上げると、最近、日本でも「シェアハウス」や「エアビーアンドビー(Airbnb)」という、空いている部屋を見知らぬ人に貸すというビジネスが出てきました。これはアメリカで始まったビジネスですが、今や世界中に広がって、時価総額が数兆円というレベルになっており、大きなブームを起こしています。
インターネットや携帯端末などが普及の一因だといわれていて、確かにそれもあるかもしれないのですが、私から言わせると、これは「構造変化」なんです。

たとえば、日本で言えば、人口はどんどん減っているのに、世帯数はどんどん増えているという状況があります。そうすると何が起きるかと言うと、かつて大人数の家族で住んでいた住居は不要になり、新しく一人用、二人用の住居が必要になっていきます。あるいは地方では家が余っていても、都心では足りないなど、さまざまな問題が起こるようになります。
こうした社会構造上の変化を受け、現在の住宅のミスマッチを何とか解消しようとする中で、不要な部屋を持っている人が必要な人に貸し出すというビジネスが生まれるわけです。

浦川空き部屋の解消という問題の解決にもなりますね。

内田あるいは、「3LDKの住居を親から引き継いだけど、しばらく使う見込みがないので、それならシェアハウスにすれば独身者3人が住めるよね」と、これが構造変化の話だと思うんです。
それからもうひとつ。「心理的変化」というのは、今までは結婚すると最初に賃貸アパートから始まって、次は賃貸マンション、やがてマンションを購入して、最後に一戸建て住宅を購入する、という考え方でした。「すごろく」じゃないですけど、それが今までのパターンだったのです。
でも、今は、結婚しても子どもができるかわからないし、どこに住むかもわからない。その時々に最適な家に住んだほうがいいという価値観の人が増えています。そして、「持つ」ということに対してあまりこだわりがないので、「所有」から「利用」へと考え方も変わってきています。
そういう心理的な変化や構造的な変化と、インターネットを介して空き家を簡単にマッチングできるという仕組みとが相まって、シェアハウスやエアビーアンドビーのようなサービスがすごく伸びてきています。
世の中で起きている新しいビジネスというのは、一見するとロボットだとかインターネットなどの技術革新がトリガーに見えるのかもしれませんが、その根っこには、世帯や人口といった非常に大きな構造変化、あるいは東日本大震災以降、特に顕著に見られる心理や価値観の変化があるというのが私の持論なんです。

浦川まったく同感です。物流センターの開発を行う中でも、同じようなことを思うことがあります。各社がいろいろな物流戦略を実施することによって、各社の競争戦略が物流そのもののノウハウとしてたまっていきます。
これは、各起業家の方々の考え方、もしくは企業の発展のプロセスとも同じだと思うのです。最初は1人、2人、3人の起業家がゼロから立ち上げて、1部屋の小さな事務所から始まり、やがて200人、300人、1000人の大きな組織になり、本社ビルが建つという風になっていきます。 物流も同様で、最初は小さな借り物からスタートして、物をつくって、買って、保管して、売るというシステムの中で、物流自体のノウハウがたまっていきます。そうやってビジネスを継続していく中で、自分たちの重要な企業戦略である物流のノウハウを詰め込んで、さらに利用しやすい箱にしていくわけです。
たとえば、オフィスビルは、まず良い立地に最新鋭のインフラを整えて建設し、その後、テナント企業を募集して埋めていきますが、マルチテナント型の物流センターもまったく同じつくり方をしています。通常、5.5mの有効階高に平米1.5トンの床加重で各社のトラックがランプウェイ方式で接車できるという最大公約数のニーズにフォーカスして建設し、後から荷主企業を募っていくというやり方です。
逆に、そういうところに入っているテナント企業側からも、「こんな空間じゃなくて、10mの階高の中に自動ラック倉庫を走り回せるものを」とか、あるいはアパレル企業ですと「3mの階高で十分なので、5.5mで5階建てだったら、極端な話、3mにしたら8階建てができるじゃないか」など、自社のノウハウを通じた意見が出てきますし、さらにその中で「空調効率や照度の効率を上げて、もっと空間の有効利用をしたい」などといったニーズも生まれてきます。
このように、各社の業種業態ごとに物流のノウハウが蓄積されていくと、やはり自社のノウハウが具現化できるような器に切り替えていこうという動きになっていきます。それとは反対に、自社で器を持つのは重たいので、借り物でずっと行くという選択もあり、今後はこの二つの流れに大別されていくような気がしています。

内田業種は違いますが、ITシステムでも同じような話があります。わかりやすい例ですと、金融機関ではこれまで、勘定系のシステムをゼロから構築していました。都銀などは数年に1回、1000億円程度の大規模な投資を行っています。しかし、果たしてそれが本当に競争力の源泉になっているのだろうかと考えてみると、パッケージや共同センターでもいいじゃないかという考え方も出てくるわけです。
その一方、金融機関において唯一差別化できるのはやはりシステムの部分ですから、そこを除外してサービスの差別化を実現することはできないということになります。
つまり、一方では個別にシステムをつくるのは無駄だという思いがあり、もう一方ではシステムこそが差別化の源泉だという思いがあって、両者のニーズのトレードオフの中、従来のような自己システムを維持していく方法ではやって行けないという考え方に、世の中がなってきています。事実、アメリカなどでは、ほとんどパッケージソフトで対応しているようです。
パッケージソフトを使って両方のニーズを何とか満たすには、二つの流れがあると思われます。ひとつは、自由度が高いパッケージを用いて、カスタマイズしながら問題点を解消するという方法。もうひとつは、今までのようなメインフレーム中心ではなく、小さな自前のオーダーメイドをつくるという方法です。
おそらく、物流の話も非常に似たところがあって、全部を自社でやる、徹底的に自社のビジネスのための専用の器をつくるという企業と、すべてを自社でまかなうような物流のノウハウもなければ資金も人材もない、かといって普通の倉庫では自分たちのビジネスの競争力につながらないので、その点がうまく凝縮された大和ハウス工業さんの物流施設を使おうとか、お客様のタイプによって2つの大きな流れに分かれるということですよね。

浦川おっしゃるとおりです。大手通販会社などは、フルフィルメントセンターとして自社のノウハウによってがっちりつくり込んだものを建設しています。自社で器を持ち、存分に使いこなしながら、そのノウハウを他社に貸し出したり、売り出したりするというやり方ですね。
反対に、メーカーや小売業などにおいては、サード・パーティー・ロジスティクス(3PL)を活用する、持たざる物流が非常に伸びています。ある化粧品会社では、自社の物流を切り離して3PL会社に売却し、完全にアウトソーシングに移行しました。このように3PL会社をうまく活用することで、物流の効率化、低減化を図っていくやり方です。物流の世界は本当に二極化しつつありますね。

内田いろいろな側面で、経営の選択肢が広がったということですね。昔の日本のメーカーなどは垂直統合型で、工具から部品まで自分でつくって、流通も自社で行っていました。そういうやり方から、持たざる経営へと変化しているのがひとつの流れです。
ただし、持たざる経営は一見すると身軽でいいのですが、成長戦略やコア・コンピテンスという視点から見ると、非常に危うくなります。これが今、各社の悩みになっているように思います。
私の持論としては、今どき全部自社でやるのはさまざまな意味で経済合理性に合わない。そうかといって全部丸投げしてしまうと、今度はまったく他者との優位性ができなくなる。そういった中で、自社の勝ちパターンというのをいかにつくっていくかというのがすごく大事になると考えています。その勝ちパターンをどこに置くかによって、営業のやり方、研究開発のやり方、生産のやり方、物流のやり方も違ってくるわけです。
私が外から見た感じで言えば、世の中はアマゾンという企業をEコマースと捉えていますが、彼らは「物流こそが我々の命だ」と思っているからこそ、あそこまで物流に資源を突っ込むことができるわけです。そういう意味で、アマゾンの勝ちパターンというのは、実は物流じゃないかと私は思っています。自社の勝ちパターンをどこに見つけるかという視点で考えたときに、今までとは違ういろいろなパターンが生まれてきて、そこに思い切りフォーカスしたからこそ、アマゾンは王者になれたのではないかと思います。

  • 前に戻る前に戻る
  • 続きを読む続きを読む

メールマガジン会員に登録して、土地の活用に役立つ情報をゲットしよう!

土地活用ラボ for Owner メールマガジン会員 無料会員登録

土地活用に役立つコラムや動画の最新情報はメールマガジンで配信しております。他にもセミナーや現場見学会の案内など役立つ情報が満載です。


  • TOP

このページの先頭へ