大和ハウス工業株式会社

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土地活用ラボ for Biz

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ビジネスイノベーションを加速する物流戦略 内田和成×浦川竜哉コラム No.5-3

早稲田大学大学院商学研究科
早稲田大学ビジネススクール教授
内田和成
 × 
大和ハウス工業株式会社
常務執行役員建築事業担当
浦川竜哉

スペシャル対談

現場にこそイノベーションの種はある

内田ビジネスモデルのイノベーションというのは、実際にはすごく大変なことです。そこでお聞きしたいのですが、御社の物流ビジネスがイノベーションを起こし、成長してこられたのは、最初からこうだろうという風に先まで読み切って、法律の整備を待ち、金融環境が整うのを待った、という形で進めてこられたのか、それとも、最初はこっちの方向にスタートしたのだけれど、途中でこっちにはニーズがないとか、こういうやり方のほうがいいとか、いろいろな壁にぶち当たって思わぬ方向に変化し、最初に想定していたものとは違う形になったものなのか。「Dプロジェクト」というのは、どちらだったのでしょうか。

浦川後者です。初めから決めていたわけではありません。やはり現場にヒントがあります。現場のお客様のニーズですね。お客様が何を欲し、どんなことに困っていらっしゃるのか。今の世の中、いったい何が必要とされているのか。そういった声を真摯に聞き、それにいかに応えていくかということだと思います。
土地オーナーからの情報を得て、物流施設を建設するというやり方だけを踏襲していると、あくまで地主さんの土地あってのことですから、土地が更地で空いているとか、今建てている建物の賃貸借地権が満期で終わるので次の活用を考えている、といった声に巡り合わない限り、建物の建設はできないわけです。それではビジネスチャンスとしてあまりに少なすぎますよね。
しかし、建物の開発、建設の意思決定が、私たちによるもの、要するに当社が地主になって、活用の意思決定をしていくことができれば、テナント企業の期待を裏切ることは100%ないわけです。
それと、自分たちで持っていれば、お客様に対してすぐに提供することができます。そうやってお客様との長いリレーションシップ、プロパティマネジメントを通じて、お客様のニーズを理解しながら、A社様にはこの土地が合うだろう、B社様にはこの土地がいい、ということを判断しつつ、土地の先行取得をしたりしています。
また、すべての会社、ビジネスにおいて、非常にビジネスのリードタイムが少なくなっているという現状があります。たとえば、3PL企業が、A社というメーカー、B社という小売スーパーのコンペに呼ばれて、明日からでもすぐにやってほしいというようなオーダーを受けることがあります。
そうしたオーダーに対して、一から土地を探していたらそのニーズに応えることはできませんし、たまたま土地を見つけられたとしても、そうしたビジネスチャンスに巡り会う確率はものすごく低いでしょう。であれば、その確率を上げるために、皆様が好まれるような物件を先行取得していく以外に選択肢がなかったのです。

内田なるほど。そうすると、基本はお客様のニーズありきだということですね。ただ、ニーズを聞いてから物事を組み立てていると間に合わず、時間軸がずれたり、大きさがずれたりする。そうかといって、こちらで全部用意してアパートを建てました、物流センターを建てました、いつかお客様が入ってくれるのを待ちます、というのでは、とてもビジネスにはなりませんよね。
御社のスタンスをあるメーカーの言葉で言うと、「仕掛品をたくさん用意しておく」ということになるでしょうか。
先にある程度お金を払ってしまう仕掛品もあれば、とりあえず唾だけつけておいて、お客様のニーズに対して「こういうのがあったのでやりませんか?」というやり方もある。あるいは、賃貸マンションじゃありませんが、建てればニーズがあるはずだと考えて、まずは建ててしまうとか。そういういろいろなものを幅広く持っておくというのが、今の御社の強みなんでしょうね。

浦川まったくそのとおりです。ニーズからの開発と、最初に土地ありきからのスタートと、その組み合わせですね。たとえば、マルチテナント型の物流センターは、テナント企業の顔を見ないまま、先行して建設しているわけです。これは、先ほどもお話ししたように、オフィスビルの開発と同じです。
東日本大震災のときに思ったのですが、「今日欲しい」といった突発的な需要に応えるためには、オーダーを受けてつくっていたら、間に合わないわけです。ですから、これは先行投資ですね。不良在庫になる可能性もありますが、先につくっておいて、「今日欲しい。明日欲しい」というニーズに応えていく必要もあると考えています。
その反面、やはり細かなニーズに、一から応えて造り込んでいきたいとお考えのお客様もいらっしゃいます。この両方の開発をしていく必要があるのかなと思っています。

内田実は、『ゲーム・チェンジャーの競争戦略』を書いたとき、うちのチームでも議論になったんですよ。なぜ、他の会社には御社の真似ができないのだろうかと。
チームのメンバーに言わせれば、「建設会社は建設のノウハウはあるけど、金融のノウハウ、SPCの知識などは持っていない」とか、「テナントと土地オーナーをマッチングさせるようなことをこれまでやってこなかったから、言われたことはできるけれど限界がある」など、いろいろな意見が出ました。逆の視点で「不動産会社は、不動産についてはノウハウを持っているけれど、建物についてはプロじゃない」などという意見も出ました。さらに、「そういう側面もあるかもしれないけれど、大手企業であれば、真似ようと思えば真似られるのではないか」という意見もありました。
なぜ、御社はこれほど独走しているのだと思われますか。

浦川たとえば、あるコンビニエンスストア様は今、年間1,000店舗くらいのペースで出店されているのですが、そのうちの100店舗前後を当社でやらせていただいています。コンビニエンスストアの店舗は非常に細かな出店を全国に展開する必要があり、開発、建築面から見るとあまり効率の良いビジネスとは言えません。しかし、全国の営業スタッフが、地域の土地オーナーの家族構成から、趣向、意向など、さまざまなニーズを全部つかんでいるので、効果的な提案ができるのです。
これは、住宅などでもまったく同じなのですが、お客様の生活習慣や趣味のひとつひとつを捉えた提案をしなければ、本当の意味での良い提案はできません。コンビニエンスストアの店舗においても、そのようにやっていくうちに、店舗での売れ筋情報や、プライベートブランドの展開状況など、いろいろな情報が入ってくるようになります。
すると、それが次第に大型スーパーの店舗、それに伴う物流などのビジネスに結びついていくわけです。

内田もう少し突っ込んだ質問をさせていただくと、やはりニーズをしっかり把握しているということですよね。コンビニエンスストアで言えば、お店側がどんな店をつくりたいかとか、地域によっても違うであろう店側のニーズを非常によく把握していることが強みなのか。それとも、出店戦略における他社との競争の中で、こういう店が欲しいという話があったときに、「それだったらこの角にこういう土地があるので、明日にでも紹介できます」という、土地オーナー側の情報を押さえていることが強みなのか。どちらもそこそこで、それをマッチングするデータベース機能が特に優れているのか。どこが優れているとお考えですか。

浦川すべてあるとは思いますが、時間差で言うと、土地オーナーの情報だと思います。

内田やはり、そうですか。それはすごくよくわかります。

浦川物件建設の効率化を図るためには、多くの土地を押さえておいて、即座に土地を提供する必要があります。また、出店のスピードを上げるために、コンビニエンスストアの建物についても、大和ハウス工業オリジナルのパネルをつくって、パッケージ商品化しています。
ただ、そうしたパッケージは後々できてきたものであって、最初はやはり、土地情報入手の効率化、スピードアップから生まれてきた強みだったと思います。

内田駐車場のタイムズ24の強みと似ていますね。あそこも、営業担当者が町中の土地情報を探し回り、見つけると、「もし更地にする予定があってしばらく使わないなら、駐車場にしませんか」とアプローチすると聞いています。すごく似ていますね。

浦川もうひとつは、北海道から九州まで、47都道府県に支社支店を持っていることです。たとえば香川県坂出市の「Dプロジェクト坂出」では、四国最大規模の延床面積約27,000m2で、4温度帯の物流センターを建築させていただきました。
全国の人口5万、10万人以上の都市には必ず当社の拠点がありますので、土地オーナーが相談できるような金融機関や不動産屋会社が地元になかったりすると、ビックリするような土地情報が飛び込んできたりします。
こうした要素がすべてではないのですが、他社がまだなかなか展開できない部分に強みがあるというのは、長年にわたって築いてきたステップの差なのかもしれません。

内田なるほど。リクルートの両手のビジネスは、一方では営業担当者がそれこそ喫茶店でも美容室でも戸別訪問して、徹底的に足で稼ぎます。その一方、ネットや雑誌などマス媒体を活用しています、しかし、御社の場合、基本は両方とも人間が足で稼ぐという感じですね。

浦川そうですね。基本は人海戦術です。

内田それで人間関係ができていくというのは、人間がベースとなったデータベースですよね。コンピュータ上のデータベースよりも、逆に強みになっていると思います。

浦川この60年間の顧客とのリレーションシップの中で、お互いの成長戦略、出店戦略、新規の不動産投資戦略が共有できつつあります。
先ほどもお話ししたアパレルのSPA企業様はその最たるもので、創立されて今年25年目になると思いますが、今まで数多くの店舗を手掛けさせていただきました。この長年のおつきあいがあったからこそ、今回の共同物流事業会社の立ち上げへとつながっていったのです。
そういった60年間にわたる、手間暇をかけた細かい部分での作業が、今日の物流事業にも非常に生きているということ。そして全国全域に対応できるということが、やはり当社の大きな強みとなっているのではないでしょうか。

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