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コラム vol.410
  • 不動産市況を読み解く

建築工事費の上昇続く!2022年前半の新設住宅着工戸数の分析と2022年後半の見通し

公開日:2022/07/19

POINT!

・2021年5月~2022年4月の新設住宅着工戸数の総計は、約86.7万戸(前年同期間比プラス1.3%)となった

・持ち家はマイナスになったものの、貸家は1月以降、分譲住宅は2月以降プラスが続いている

・建設工事費の上昇はしばらく続くと考えられる

・賃貸住宅建築において、金利の行方が最も大きな影響を与える

2022年年初から、新設住宅着工戸数において前年同月比プラスが続いています。今回の不動産市況レポートでは、2022年前半の新設住宅着工戸数の状況分析と2022年後半の見通し、そして今後の賃貸住宅・貸家市場について考えてみたいと思います。
(執筆時点:2022年6月23日、新設住宅着工戸数のデータは執筆時に公表済みの2022年4月分までです)

2021年1年間の新設住宅着工戸数の結果

「新設住宅着工戸数」は、毎月末に前月分が国土交通省から公表されます。執筆時点では、2022年4月分までのデータとなりますが、2022年前半の状況がおおむね見えてきました。
はじめに、2021年の1年間を振り返ると、新設住宅着工戸数の総計は前年比プラス5.0%で85.6万戸(端数切り捨て、2021年12月執筆の本レポートでの予想値約85.8万戸、以下同数値)、持ち家は28.5万戸(約28.5万戸)、貸家は約32.1万戸(約32.3万戸)、分譲住宅(=マンション+戸建の合計)は約24.3万戸(約24.4万戸)となりました。このように、新設住宅着工戸数は要因の大きな変化(例えば、金利の急変化、災害など)がなければ、年間推移を丹念に追うことでおおむね予測することができます。各カテゴリーとも新型コロナウイルス感染症の影響が色濃く出た2020年と比べると、持ち家(プラス9.4%)、貸家(プラス4.8%)、分譲住宅(プラス7.9%)となり、特に持ち家の増加が目立ちました。

2022年前半の新設住宅着工戸数

2022年に入っても新設住宅着工戸数はおおむね好調が続いていますが、カテゴリー別でみると、勢いに差があります。

図1:新設住宅着工戸数の推移

国土交通省「新設住宅着工戸数」より作成

図1は、2022年(1-4月)までの新設住宅着工戸数の推移を示しています。これを見れば、総計・貸家では1月以降、前年同月比でプラスが続いています。分譲住宅(マンションと戸建の合計)は、1月はマイナスとなりましたが、以降はプラスが続いています。特にプラスが顕著なのは、主に賃貸住宅である貸家のカテゴリーで、1月は前年同月比プラス16.6%、3月はプラス18.6%と大きく伸ばし、1-4月の合計でもプラス10.2%となっています。確かに2021年1月は貸家着工数が少なかったのですが、以降は好調でした。2022年は、それを上回る勢いで賃貸住宅の着工数が増えている状況です。
欧米などでは政策金利の急上昇が続き、貸出金利の上昇が続いていますが、わが国では金融緩和政策が継続され低金利が続いています。そのため、たとえ利回りがそれほど高くなくても、土地活用として、また土地と建物のセットで賃貸住宅投資を行う方(あるいは企業)がますます増えているものと思われます。
逆に、昨年年間でプラス9.4%と大きく伸ばした持ち家は、その反動なのか年初からマイナスが続いています。反動に加えて、後述するように、建設工事費の上昇も大きく影響しているものと思われます。

2022年の新設住宅着工戸数の見通し

図2では、2021年5月から2022年4月分までの新設住宅着工戸数の月次の数値を列記しています。

図2:新設住宅着工戸数の月次推移(2021年5月~2022年4月)

※「分譲住宅」は、「分譲マンション」、「分譲戸建て」、「長屋建等」の合計となります。

国土交通省「新設住宅着工戸数」より作成

この12カ月では、新設住宅着工戸数の総計は約86.7万戸で(2021年1年間と比べるとプラス1.3%、以下同比較)、持ち家は約27.9万戸(マイナス2.1%)、貸家は約33.1万戸(プラス3.1%)、分譲住宅は約25.1万戸(プラス2.9%)となっています。

この表を見れば、持ち家の数値が2021年12月から大きく落ち込んでいることが分かります。後述する建設工事費の上昇が大きな影響を及ぼしていると考えられます。
また、貸家は12カ月全てプラスで、先に述べたように好調ぶりがうかがえます。
この時点で年間を予測するのは気が早いとも思えますが、このペース(2022年1-4月の2021年との比で換算)でいけば、総計は89万戸前後、持ち家は26~27万戸、貸家は35万戸前後、分譲は26万戸前後の見通しとなります。しかし、建設工事費の上昇次第では、勢いに陰りが見える可能性もあります。

建設工事費の上昇はしばらく続くことが確実??

おおむね好調な新設住宅着工戸数ですが、気になるのは、建設工事費の上昇が再び顕著になってきていることと金利の行方です。
本コラムでも何度か建設工事費デフレーターのデータを基に建設工事費が上昇していることをお伝えしましたが、2021年の12月には建設工事費が下がるキザシが見られました。しかし、その後2022年に入ると世界的なインフレが顕著となり、再び建設工事費は上昇を続けています。

図3:建設工事費デフレーターの推移

国土交通省「建設工事費デフレータ(2015基準)より作成

図3は、2021年4月から2022年3月(執筆時最新データ)までの建設工事費デフレーターの推移を示しています。建設工事費デフレーターは国土交通省から毎月公表されていますが、数カ月の時差がありますので、ここでは3月分までのデータとなっています。
これを見ると、建設工事費は新型コロナウイルス感染症の影響後のペントアップ需要(何らかの理由で抑圧されていた需要が本来の需要に戻る)により、「ウッドショック」と騒がれていた2021年5月ごろから急上昇し、その傾向は2021年11月ごろまで続きました。その後2021年12月あたりには上昇に一服感が見られましたが、その後ウクライナ情勢の悪化に加え、世界的なインフレ傾向、そして円安と続き、再び上昇基調となり、上昇角度も大きくなってきました。

この建設工事費の高止まりは、しばらく続きそうです。建築関連資材の需要が旺盛な事による価格上昇は、需給のバランスが整えば落ち着きを見せます。しかし、石油をはじめとしたエネルギー価格の上昇は、建築資材の多くを海外からの輸入に頼るわが国では、深刻な影響を及ぼします。ガソリンなどの石油燃料費は物流コストの上昇に直撃しますし、石油由来の精製品価格の上昇も避けることはできません。こうした状況はしばらく続くでしょう。
また、言うまでもなく輸入品価格は為替相場も大きな影響を与えます。日銀は、現在の物価上昇は一時的なものに過ぎず、需給バランスを示すGDPギャップ等の数値を見ても需要旺盛によるインフレではないとして、現時点では、金融緩和を止める見通しはないと言明しています。海外主要国との金利格差、国債利回りの格差は広がるばかりです。そのため円安が進行しているわけですが、この状況はしばらく続くでしょう。そうだとすれば、建設工事費の上昇が続くことは想像に難くないでしょう。

低金利がいつまで続くかがカギ

年間の新設住宅着工戸数は、例年約4割程度が貸家、約3割強が持ち家、約3割弱が分譲住宅という比率です。そのため、新設住宅着工戸数の数値は、最もウエイトの大きい約4割を占める貸家の状況いかんで、ある程度は決まるといえます。
持ち家は、ほとんどが個人住宅のため、消費税増税前後や減税適応の有り無し、新型コロナウイルス感染症の影響といったことで大きく動きます。また、分譲住宅はデベロッパー等の供給状況により増減が起こります。一方、貸家着工戸数も、2013-14年前後の相続税の改正や消費増税の影響も大きく見られましたが、ある程度の割合を占める賃貸住宅投資のための賃貸住宅建築においては、最も大きな影響を与えるのは金利の行方です。

2013年半ばからの金融緩和政策、低金利政策はすでに10年近くになりますが、その間に多少の波がありながら多くの賃貸住宅が建築されました。
現在も低金利が続いており、まだしばらくは継続されるようですが、「諸外国が政策金利を上げ、それに伴い貸出金利も上昇している中で、いつまで日本は金融緩和政策・低金利を続けるのか」という声もちらほら聞こえてきます。こうした声に対して政府や日銀がどこまで反応するかが、今後の貸家着工戸数の行方を左右するものと思われます。

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