大和ハウス工業株式会社

DaiwaHouse

メニュー
コラム vol.512
  • 日本社会のこれから

立地適正化計画で市街化区域の資産価値が大きく変化?

公開日:2024/06/28

国立社会保障・人口問題研究所によれば、日本の総人口は、50年後には現在の約7割、9000万人を割り込み、65歳以上の高齢化率は4割に上ると推計されています。このような急激な人口減少、少子高齢化社会を見越し、安心・快適なまちづくりをいかに行うかは、地域にとって大きな課題となっています。

立地適正化計画制度の創設

多くの自治体では、都市の無秩序な開発を抑制し、快適で商工業活動が行いやすく、十分な行政サービスが受けられる都市を目指して、都市計画法に則った都市計画が策定されています。具体的には、地域の開発を促進する「市街化区域」と、開発を抑制する「市街化調整区域」に区域区分し、「市街化区域」には地域の特性に応じて「住居専用地域」「商業地域」「工業地域」などの用途地域を設け、建物の容積率や高さ等を制限しています。
しかし近年、急速な情報化や国際化、少子高齢化等の社会情勢の変化に対応する必要性から、2002(平成14)年に「都市再生特別措置法」が制定され、指定された都市再生緊急整備地域内においては、都市計画で規制されている用途地域や容積率、高さなどの規制を解除することで、特に都市部では、公民による大規模再開発による都市機能の高度化が進められています。
一方、人口減少や少子高齢化が進行する中で、過疎化が進む地方部では、医療・福祉・商業等の生活サービスの維持が困難となっており、公共交通ネットワークの縮小・公民サービス水準の低下、地域産業の停滞、企業の撤退、低未利用地や空き店舗の増加、生活インフラの老朽化など、多くの課題が顕在化していることから、市街化区域内の「コンパクト+ネットワーク」化の推進が急務となっています。それに対応して国は、2014(平成26)年に「都市再生特別措置法等の一部を改正する法律」を制定し、「立地適正化計画制度」が創設されました。
「立地適正化計画制度」とは、市町村が主体となって、都市計画で区域区分された「市街化区域」に、「居住誘導区域」と、医療・福祉・商業等の都市機能を集約する「都市機能誘導区域」を設定し、区域内に必要なインフラを優先的に整備(コンパクト化)するとともに、それぞれの地域を結ぶ公共交通網を構築(ネットワーク化)する中長期的な計画を策定した上で、国がそのマスタープランの実現に向けて助成・支援する制度です。
この制度により、地域においては、持続可能な(1)生活利便性の維持・向上、(2)地域経済の活性化、(3)行政コストの削減、(4)地球環境への負荷の低減、(5)居住地の安全性強化が見込まれるとしており、2023(令和5)年12月末時点で、703都市が立地適正化計画について具体的な取り組みを行っており、537都市が既に計画を作成・公表しています。

立地適正化計画の取り組み事例と効果

各都市が策定している立地適正化計画は、地域の実情や直面している課題などにより多種多様ですが、総じていくつかのパターンがあるようです。以下に、国土交通省が選定したモデル都市から、数例を紹介します。
石川県金沢市や熊本県熊本市では、利用客の減少等により経営難に陥っているバス等の公共交通機関を再編し、基幹路線周辺に住民の居住を誘導、路線の起点となる市街地のバスターミナル周辺等に民間活力による再開発で都市機能の集約を計画しています。
長野県松本市では、市街地の公用地(PRE)を活用、再編して都市機能の拠点を集約。区域外の老朽化した公営住宅を用途廃止して居住地域へ誘導する方針を示しています。
青森県むつ市では、用途地域外(白地地域)へ無秩序に拡大する住宅地を抑制するために「特定用途制限地域」を設定。用途地域周辺に「居住調整地域」を設定することで、市街地拡大を抑制し、除雪費や上水道管理費等の維持管理費の削減を図っています。
これらの事例は、ほんの一部ではありますが、国土交通省の資料によると、2020年までに立地適正化計画を作成・公表した都市のうち、「居住誘導区域」を設定した都市(対象380都市)の66,1%で区域内人口が増加、「都市機能誘導区域」を設定した都市(対象383都市)の67.9%で区域内施設数が維持または増加しているとのことです。また、2014年~2022年と2006年~2014年の市街化区域の地価変動率を比較すると、計画未策定都市の+9.9に対して、立地適正化計画策定済み都市が+12,6と上回っており、地価変動率の改善状況が良好であることから、立地適正化計画の効果が推察されます。

自治体が策定する地域計画に沿った土地活用計画が必要

前述したように、地域を将来的に持続可能な都市として維持する施策としては、立地適正化計画は有効な制度といえます。
しかし一方で、「居住誘導区域」あるいは「都市機能誘導区域」に、国や自治体が政策的に集約投資してコンパクト化する取り組みであることから、区域外の開発が抑制されることが予測されます。
立地適正化計画は、移住等を強制するものではなく、あくまで誘導するための施策ですが、コンパクトシティ化が避けられない現状を考えると、今後10年20年のスパンでは、人口や都市機能の集約度に地域差が生まれ、土地等の個人資産の所在が区域内外かによって、その価値に大きな差が出てくる懸念があります。
そのため、これから賃貸住宅としての土地活用を考える際には、自治体が策定する地域計画に沿った土地活用計画を立てる必要がありますし、場合によっては、現在保有する土地の別用途への転換や、売却して別地域での賃貸住宅を検討するといった必要性もあるでしょう。
今後、土地活用を考えるにあたっては、日頃から地域計画や地域動向等の情報を収集すること、信頼できるパートナーに相談することが、さらに重要になりそうです。

メルマガ
会員登録

注目
ランキング

注目ランキング