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土地活用ラボ for Biz

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コラム No.27-46

サプライチェーン

秋葉淳一のトークセッション 第2回 フィジカルインターネットをリードする株式会社フレームワークス 代表取締役社長 秋葉淳一 × アスクル株式会社 CEO補佐室 兼 ECR本部 サービス開発 執行役員 ロジスティクスフェロー池田和幸

公開日:2020/02/28

マーケティングラボでの取り組み

秋葉:アスクルさんは、消費者の購買情報やメーカーの開発情報などを他のメーカー、サプライヤーが見て、分析することができるサービスを提供されています。この取り組みによって、サプライヤーだけでなく消費者側にもメリットが出てきますよね。

池田:アスクルにはECマーケティングラボというスペースがあり、そこでは、メーカーの研究員の方が、ロハコサイトでお客様がどのように購入しているかなどお客様の購買行動情報を詳しく分析することができます。アスクルがそういった情報を提供することによって、お客様のニーズが本当はどういうところにあるのかを知ることができます。ある商品を単品として買いたいのではなく、これとこれをセットで買いたい、もしくはこういうサイズで買いたい、こういうデザインのものがいいなど、そういった詳しい情報を見ることで、メーカーは販売促進施策、品揃え、デザインなどを見直したりすることもできます。その結果、お客様が必要としている商品を開発できるようになります。非常に良い取り組みだと考えています。

秋葉:お客様のニーズを捉えた商品を提供し、それをきちんと届けるという物流面でもロボット活用によって利便性が良くなり、様々な側面でどんどん良くなっていくわけですから、アスクルさんは圧倒的に強くなりますよね。外販を拡げていくことは今までのビジネスの延長線上にあると思っています。ここでいう外販とは、他社の荷物を預かって販売するという、ロジスティクスとしてのビジネスを拡げるということです。そうなると、その中でどのように情報を持ち、どう活用するかという話になっていきます。
最近、フィジカルインターネットという概念が出てきました。車でも物流センターでもそうですが、それぞれの会社が持っているリソースの無駄を省いてシェアリングする、データをコネクトしてプラットフォーム化する、といったことです。アマゾンのような企業であれば1社でそれができますが、日本の場合はおそらく1社では難しいので、どこかの会社がリードして、それに周りの何社かが一緒に乗っかっていくだろうと、私は勝手に想像しています。しかし、1社ではうまくいかないからとりあえず一緒になろうということで始めてしまうと、なかなかうまくいかないとも思っています。アスクルさんのように圧倒的な強さを持った会社がリードして、周りを固める。当然、物量の全てというわけにはいかないので、例えば物量の30%程度が、アスクルさんを中心としたフィジカルインターネット上に乗るような世界が、意外と早く実現するのではないかと思っています。アスクルさんにはフィジカルインターネットのリーダーになってほしいですね。
アスクルさんにリーダーになってほしい理由がもう一つあります。今、ラストワンマイルのところも含めて、物流の負荷がどんどん上がってきています。ECで細かいものを送るとなると、物流の負荷は跳ね上がります。それを和らげるためには、サプライヤーやメーカーの協力が不可欠です。
そのとき、概念としてはわかっているけど自分たちの事情はこうだから、などと言っているうちは何も変わらないでしょう。アスクルさんの場合、自ら売り、自ら届け、自ら倉庫のオペレーションもするのでよくわかっています。そういう中で、メーカーやサプライヤーに対して情報やマーケティングラボを持っていて、皆で一緒にやって、効果があるということを見せています。ですから、アスクルさんのマーケティングラボはたしかにマーケティングに使ってもらうという意味もあるのでしょうけど、サプライチェーン全体でやろうというメッセージも含まれているのだと感じました。私は、これがすごく強いと思っています。「皆でこうした仕組みの中でやれば、さらに良くなる」というメッセージです。パレットもカゴ車も、何から何までサイズがバラバラでオーケー、物流事業者が一生懸命頑張ります、なんてことを言っているのは日本くらいですから。

池田:その危機感はありますね。1社だけでどうこうするのはなかなか難しいと思っています。

機械化が進む中で必要なこと

秋葉:先ほど、ロボット活用についてピッキングを中心にお話しいただきましたが、ピッキング以外にもロボットを活用されていますよね。

池田:メジャーなところでは搬送の部分で活用しています。従来はフォークリフトや人力でパレットを運んでいましたが、そういったところでもロボットが活躍しています。それ以外にも、箱を自動で作ったりもしています。

秋葉:荷物が入ってから出ていくまで、かなりの部分でロボット化が進んでいるということですね。それによって何割くらいの省人化が可能になりますか。

池田:機械化はだいぶ進んでいます。省人化については、現状より5年、10年というタイミングでいえば、今の6掛けくらいで進まないと厳しいと考えています。これはアスクルだけに限った話ではなく、eコマースの伸びを考えると、業界全体でそのくらいの人で回るようにしていかないと厳しいのではないでしょうか。

秋葉:それくらいやらないとだめでしょうね。ローランド・ベルガーの小野塚さんは、欧米でも2030年時点で、よくても40%くらいが自動化されていると言っていました。おそらく日本の場合、5年遅れでそうなるという推論でもまったく間に合わないので、池田さんが今おっしゃった数字にならなければいけないと思います。
一方、それができる会社とできない会社がはっきりするのではないかとも思っています。誰でもそれができるかというと難しいのではないでしょうか。ノウハウを蓄積したうえでやっている人たちがいる一方で、いきなり動くものを持ってこようとする人たちもいるわけですから。
アスクルさんが使っているロボットとMUJINのコントローラーを入れたらできるのかといったら、「できません」というところがポイントなのです。そこに本気で取り組まなければなりません。それなりの時間もかかるし、それなりの優秀な人間をアサインしたチームが必要ですし、それなりのコストもかけて、どれだけ速くそれに取り組めるかなのです。そこで明らかに差がついていきます。それも、速いスピードでそうなるでしょう。人工知能の進化が皆の想像よりも前倒しできているので、ロボットも同様に前倒しでくるでしょうし、余計差異化が図れていくのではないでしょうか。
アスクルさんの今後の展開においても、もっと速く進みそうだという手応えはありますか。

池田:今回、ようやくできるということが確認できました。今後1~2年でできること、できないことがだいぶ見えてきて、具体的にやれることが明確になっていきます。正直、今までは手探りのような部分もありましたが、今ははっきり進むべき道が見えています。そういう意味では、おっしゃるようにここから先は速いと考えています。

秋葉:アスクルさんがついにプレイヤーとして実現してくれたのは大きなことです。「アスクルさんがやっているじゃないですか」と言えるわけですから(笑)。
できることとできないことをはっきりさせるということ、100%は難しいという前提の中でどうするのか、ということがポイントなのです。なんだかわからないけどロボットと人工知能とコンピューターを使えばほぼ完全にできると思っている人が、今でもいらっしゃるのも事実です。だからこそ、できること、できないことは何かを整理することが非常に重要です。
ディープラーニングでやればやるほど覚えるということをやっている以上、ぜったいに100%にはならないですよね。100%にならないからだめだということではなく、何%までいけばいいのか、100%にならなかった部分をどうするのかといった話をきちんと考えられるかどうかなのです。経営者は、そうした形式知化ができる優秀な人材を会社に入れられるか、教育できるかが大きなポイントになってくると改めて思っています。

データ収集によって、できなかったことができるようになる

秋葉:デジタル化のメリットとして、当然省人化も大きいのですが、機械化した後のデータ収集とその活用も挙げられると思います。

池田:データはいろいろなかたちで使っています。アスクルでは、センターの運営も自分たちでやっていますし、物流システムも自社で持っており、データもすべて自分たちで触れる環境にあります。しかし、中にはうまくいかないこともあります。例えば、物流設備を増やしていくと、設備が止まったときのダメージは非常に大きくなります。10年前と違って設備に依存する作業が多くなっているので、設備が故障してしまうと、お客様にご迷惑をおかけすることになってしまいます。そこで、今取得しているデータで予知ができないか、そうした活用にトライしています。なかなかゴールに辿り着いてはいませんが、これからはそういったことも重要になってくると思います。つまり、データが取れることによって、今までできていなかったことができるようになるのです。10年前であれば、情報を取って未然に予知するというプロセス自体が必要ありませんでした。なぜなら機械化率が少なく、人間が何とかするので必要のない業務だったのです。デジタル化が進んでいく中、そうした仕事はますます増えていくでしょう。あとは、それをやるかやらないかです。われわれのような事業会社の中でどこまでやるか、優先順位としてどうつけていくかという判断なのだと思います。

秋葉:JALではすでに取り組まれているようです。飛行機の機体数に余裕があるわけではないので、故障してしまったときの顧客満足度の低下も含めてインパクトが大きすぎます。予防保全のために振動等のデータを取って、結果に対して相関が強いデータが何なのかを導き出し、それを追いかけることで、異常があれば事前に交換されているそうです。飛行機は典型的な例ですが、ロジスティクスの世界でも同じです。ロボットやマテハンへの依存度が上がれば上がるほど、予防保全をきちんとやらなければなりません。そもそもマテハンの使用環境はバラバラなのに、「定期点検」という言い方をしていることがおかしいですよね。アスクルさんのようにマテハンもロボットもフル稼働している会社とのんびり稼働させている会社があるのに、同じタイミングで点検するのはおかしなことです。いろいろな意味でのデータがないために、そういうやり方をせざるを得ないのです。
インパクトが大きいというのは、会社のリスクとしてのインパクトだけではなく、お客様に迷惑をかけてしまうというインパクトもあるわけです。今後は、予防保全においても大きく変わるのではないでしょうか。

画像解析の精度が課題解決を左右する

秋葉:2023年には5Gがそれなりに普及していると言われていますし、Wi-Fi6の国際標準も先日出されました。通信速度が圧倒的に変わってくるわけです。そうすると、データを何から取るかということも含めて、画像、カメラを有効に使うことが一つのポイントになると思います。アマゾンは、「Amazon Go(アマゾンゴー)」で様々な実験をいろいろやった結果、物流センターの中でハンディ端末を使うということは行わずに、画像だけで認識するようなことを始めています。
ダイワロジテックもABEJAと共同研究を行っています。ABEJAは人工知能のベンチャー企業ですから、収集したデータをどう活用するか、いろいろな取り組みができると考えています。それこそアマゾンがやったという事実もあります。
カメラで撮った画像から活用できるデータとして抜き出すときに重要となるのは、どういうレイアウト設計をするのか、センター内の明るさはどうするのか、間違いが起こりやすい人の作業にどのようにフォーカスするかといった点です。
そしてもう一つ重要なのが3Dビジョンです。3Dで撮れるということは、ものの認識という意味において、ティーチレスに対しても非常に大きな影響があります。最新のiPhoneにも3Dカメラが搭載されました。あれほどの小型で3D画像、3D動画が撮れるのですから、物流の世界でも3Dで撮ることで解決できる課題があると思っています。
Kyoto Roboticsという3Dビジョンで有名な会社がありますが、もともとロボットを扱う企業だったわけではありません。彼らの技術をどう使うかを考えたとき、物流の世界にロボットを導入すればインテグレーターになれると判断したわけです。彼らの画像解析技術は素晴らしいものです。
人間の目は非常に優れているので、同じケースをパレットに並べたとき、箱の切れ目がどこかすぐにわかります。ところが画像の精度が悪いと、箱の切れ目なのか、箱の模様なのかわかりづらいのです。彼らの技術を使うとそれがくっきり見えますから、どこをバキュームするかということもきちんとわかります。池田さんがお話しされていたティッシュのミシン目も、パッと見た瞬間に判断することができるかもしれません。それができるのはどういう状態や環境なのかという課題は当然あります。社長の徐さんは、試すことが必要だと言っています。また、全部できるとは言っておらず、ここも重要なポイントのひとつです。
私たちも流山の物流センターで、カメラで数を数えたりしていますが、100%ではありません。100%にならないところをどう補っているかというと、動画をクラウドに上げておいて、東南アジアのスタッフが動画を4倍速で見て数えています。
当然そこにはコストがかかりますが、お客様のところに間違って届けて大騒ぎになることを考えたら、これは必要なことだと思います。 しかもディープラーニングですから、画像に撮られたデータが蓄積されていくと、精度がより上がっていき、予知的なこともできるようになっていくでしょう。

池田:そうですね。ビジョンは5Gと合わせて重要な変化で、いろいろな活用方法があると考えています。

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土地活用ラボ for Biz アナリスト

秋葉 淳一(あきば じゅんいち)

株式会社フレームワークス会長。1987年4月大手鉄鋼メーカー系のゼネコンに入社。制御用コンピュータ開発と生産管理システムの構築に携わる。
その後、多くの企業のサプライチェーンマネジメントシステム(SCM)の構築とそれに伴うビジネスプロセス・リエンジニアリング(BPR)のコンサルティングに従事。
2005年8月株式会社フレームワークスに入社、SCM・ロジスティクスコンサルタントとしてロジスティクスの構築や改革、および倉庫管理システム(WMS)の導入をサポートしている。

単に言葉の定義ではない、企業に応じたオムニチャネルを実現するために奔走中。

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