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コラム No.27-47

サプライチェーン

秋葉淳一のトークセッション 第3回 知見のシェアリングが鍵を握る株式会社フレームワークス 代表取締役社長 秋葉淳一 × アスクル株式会社 CEO補佐室 兼 ECR本部 サービス開発 執行役員 ロジスティクスフェロー池田和幸

公開日:2020/03/31

配送における構造的問題

池田:これから私たちが解決しなければならない大きな問題があります。お届けするということ、つまり、配送です。物流センターの中はある程度集約して機械化することで、解決できることはどんどん増えているのですが、最後に届けるところが残っています。

秋葉:受け取り側の問題もありますよね。プッシュだけで解決できる話ではありません。

池田:構造的な問題と言えるかもしれません。そこにうまく技術を使って解決していかなければなりません。

秋葉:私はやはり再配達が一番の問題だと思っています。再配達がなければ手段はいろいろ取りようがあると思うのですが、いかがでしょうか。

池田:再配達は、非常に大きな問題で、優先して解決すべきだと考えています。ただ、そもそも届けるという行為自体が難しくなってくるのではないでしょうか。国内大手の運輸事業者がご苦労されているくらいですから、構造的に、届けるということ自体が今の仕組みのままでは難しくなる状況だと思っています。

秋葉:これらの対応については、様々な話が出ていますよね。例えば、緑ナンバーの車についてもそうです。自分の荷物であれば白ナンバーの車で行けるけれども、人の荷物の場合、緑ナンバーしか行けない。それなら、タクシーで届けてはいけないのかなど、いろいろな話があります。
今後、単身世帯が増えたり、働き方改革でオフィスに行かずに自宅で仕事をする人が増えたりという問題も絡めて、いろいろと考える点はあろうかと思います。

池田:今の日本のeコマースは小売りの6〜7%ですが、アジアや欧米の比率が高いところでは20%を超えてきています。日本でも20%になることは十分起こりえることですし、おそらくそうなっていくでしょう。国土交通省の最新の調査(2019年4月)では、宅配便再配達率は約16%でした。現在の荷物の量で国内大手の運輸事業者がご苦労されている状況の中、eコマースが3倍になるとしたら、構造やプロセスを変えていかないとどうにもなりません。そこには強い課題意識を持っています。

秋葉:ドローンで運べばいいという話がよく出ますが、私はドローンがずっと空を飛んでいる光景はイメージできません。自動運転の話もありますが、それもあまりイメージできません。100%ないと言うわけではありませんが、現実はやはり人がそれなりの物量を積んだ車で配達するのだろうと思っています。

池田:店舗だけでものを買う時代から、eコマースでもものを買うという流れは不可逆で、どんどん進展していきます。今までの店舗に届けて、店舗にお客様が買いに来るというかたちから、お客様にダイレクトに届けるというかたちに変わるということです。それに合わせて全体の見直しを業界全体でやっていかなければならないと考えています。

秋葉:かつては、店に並べられているものを買うという前提なので、ラストワンマイルをお客様にやってもらっていたということですよね。ということは、商品の中身というより、棚に置いたときの訴求やパッケージなど、並べたときに差異化する必要があるわけです。
しかし、eコマースではそうではありません。そういう意味から考えれば、ロジスティクスの生産性向上は確かに大きなテーマのひとつではあるのですが、さらに大きな話になっていきますね。

池田:実際、われわれは暮らしになじむデザインというコンセプトを掲げメーカーと共働で商品を企画し、販売しています。中身はナショナルブランドの商品なのですが、店舗で目立つのではなく、ご家庭でなじんで使いやすいことをポイントにしています。秋葉社長がおっしゃったように、今までは店頭で商品を選ぶという買い方でしたので、生活用品でも機能や効能を前面に押し出した派手なパッケージのものが多かった。ところが、家庭に持ち帰った場合、インテリアにー特にシックな空間-には置きづらかったりしたわけです。
デザインを暮らしになじむものにすることで、お客様からご支持いただけることが増えてきました。そういう意味では、買う場所、買うチャネルが変わるだけではなく、そうしたことで起こり得る変化は、商品のデザインかもしれません。あるいは、ロボットが扱いやすいような構造に変わっていくことも考えられます。

秋葉:パッケージや梱包も相当変化する可能性があるということですね。

相互理解、言い換えれば知見のシェアリングをするということ

秋葉:アスクルさんのような、実際に成功している事業者は大きな存在です。シェアリングにしても、概念的には皆さんそうだとおっしゃいます。労働人口の減少のスピードを考えると、どのような手立てを尽くしても運ぶことができない、届けられなくなる世界が近づいていることは皆が知っています。しかし、自分たちは大丈夫だと、どこか心の中でまだ思っているようです。
シェアリングをしていかないと、様々なプロセスで限界点がやってくるとは思っているものの、それを進めるには、明確にリーダーになってくれる人がいないとだめなのだと、この3年間で感じるようになりました。
今、その壁を感じています。私どもがいくら叫んでも、実事業者側ではなく提供者側なので、外野が騒いでいるような感じなのかもしれません。ロジスティクスだけではなく、売るということにおいてもそうですが、アスクルさんのように業界をリードしている会社が中心になって、こういうところを共通化しましょうとリードしていただくことが、シェアリングを進めるためには必要なのだと思います。
池田さんは、シェアリングという考え方についてはどのように思いますか。

池田:シェアリングと言えるかどうかわかりませんが、一緒に考えることは必要だと思います。相互理解ということでしょうか。今の課題や課題を解決する手段に関しての認識をシェアして、一緒に考えて、一緒に行動するということが必要なのではないでしょうか。
結局、誰かが何かをやってくれるというだけでは構造的に解決しきれません。お褒めいただいていますが、アスクル単体で何かができるかというと、やはりそれは違うと考えています。今、こういう問題が起きていて、その背景にあるのは何なのか。物流現場には、そういったことを形式知化するのが苦手な方が意外と多いですが、われわれは現場を持っているので、そこはきちんと理論立てて説明できます。
「こういう問題なので、もっと上流で解決しないといけない。そのかわり下流でもここまでは頑張る」という話をきちんとして、そこで共通理解ができて初めて、「じゃあ、少し見直してみようか」という話になるのだと考えています。
先ほどお話しした、暮らしになじむ商品のデザイン、商品の形状など、そうした説明をしていく中で、つくりあげていくことができつつあります。ですから、知見のシェアリングですね。そこも重要なのではないでしょうか。

秋葉:知見のシェアリングができると、アスクルさんに商品を供給している会社もそれに気づくわけですよね。その結果として、箱のサイズ、梱包、商品形状、納入形態などが揃っていく。それでメリットがあるとわかるので、おそらく他に出すときもそのかたちで出すということが起こると思います。そうして様々なことが揃ってくるのであれば、物流センター内においても、配送においても、こういうやり方をすれば同じものに乗せられるということもできてきます。
池田さんが言われたように、きちんと相互理解をして、それに対しての効果も共有できるような状況が作られるとすごくいいですよね。
メーカーからしてみれば、チャネルが増えれば増えるほど、いろいろな対応が必要になるので大変です。商品を提供する側としても、今後eコマースが増え、ロボット化していく中で、メーカーの考えも変わっていきますよね。
メーカーサイドからこうしていきたいといった声はありますか。

池田:お話しいただくケースもありますし、とりあえずどこまでできるのか教えてほしいというケースもあります。メーカーによって、まだ温度感がありますので、知識の共有や相互理解は進めていかなければなりません。メーカーはお客様にお届けするところが少し遠いので、お届けのところで起きている問題を正しく伝える役割が必要です。そういう意味では、われわれはその情報を持っているので、きちんとお伝えしていくことが重要だと思っています。今までは店舗にお客様が買いに来ていたので、そこを考える必要もありませんでしたし、旧来の店舗はあまりそういうところに熱心ではなかったのではないかと思います。

秋葉:メーカーは、どうしても作ったものをプッシュしますし、基本的にBtoBなので、どこにどれだけ買ってもらえるかという課題ばかりでした。直接お客様に届けるとなったときに、どうすればいいのかという課題には、なかなかたどりつきません。物流サイドからの目線で見ると、先ほどのEC化率が6%から20%になるというだけで途轍もないことだとドキドキしてしまうわけですが、メーカーからすると、売れている数というところではあまり変わりません。
そうなると、8割対2割をどう捉えるかという話になります。8割からは要求されていないけど2割からは要求されていると思いがちですが、本当は2割のほうが消費者にダイレクトなので、商品価値という意味でも、心理的な割合はどんどん増えていくと思います。
先ほどノウハウ的な話をされていましたが、利活用する側も同様です。人工知能にしてもロボットにしても、きちんと覚えさせ、経験させなければいけません。データを与えれば、人間より人工知能のほうが圧倒的に速い時間で処理できるようになります。そのためのエンジニア、そのための整理ができる人、そういった人材をどうやってロジスティクスのど真ん中、あるいは周辺に寄せていくかが最大の課題だと思っています。
シリコンバレーあたりでは、大学院卒でデータサイエンティストの新入社員の年収が4000万円の場合もあるほどです。それだけ人材の取り合いなのです。そもそもロジスティクスの領域には、周辺領域も含めてなかなかそのような人材が少ないのが実態です。しかし、人工知能を取り扱ったり、データ分析をしていたり、ロボットのベンチャーには優秀な人たちがいます。そういう人たちと協業して、どうしていくかを考えることができる人材をロジスティクス関連に集めていかなければなりません。そこが大きなポイントです。
アスクルさんがすごいのは、池田さんのような方がロジスティクスの担当をしているということです。そこを重要だと思うか思わないかということなのでしょうね。教えてもらいたいことばかりです。

池田:ロジスティクスはアスクルの事業の根幹であり、コア・コンピタンスでもあります。その一方、ウィークポイントにもなりかねません。

秋葉:私らにご相談いただく会社様は、昔からのお付き合いのところもあるのですが、いわゆる戦略コンサルティングファームや大手商社も増えてきています。ロジスティクス周りが課題だと思い始めた経営者が増えてきたからだと思います。そのとき、そう思っているスピード感と同じくらいの速さで人材を育てたり、確保したりすることができているでしょうか。当然、人を教育することには時間がかかりますから、早く始める必要があります。
アスクルさんにおいてもロジスティクスの課題はあると思いますが、今後、どういったことを解決し、どのようにされていくのでしょうか。

池田:今日お話ししたようなロボティクスだったり、配送だったり、サプライチェーン全体のところでも、やらなければいけないことはたくさんあります。やらなければいけないテーマが、ありすぎるというのが本音です。その中で、先ほど秋葉社長がおっしゃっていたように、仲間を作りたいということがあります。物流には3種類の人たちがいます。ひとつは、MUJINさんのような、ソリューションに特化した、エッジの効いた方たちが増えてきました。次に、薄く広く情報だけ見ているような、物流の問題について表面的な情報だけを持っている方がたくさんいます。最後に、ずっと現場で働いている方たちです。それぞれの知見が、ばらばらのままでは、物流が抱える構造的な問題の解決は難しくなります。
私が秋葉社長を尊敬しているのは、今起きている問題、これから起きる問題の原因は何なのか、それを解決するためには何をしなければいけないのかを考えて、取り組まれているのが素晴らしいと思うからです。今われわれがやらなければいけないのは、そうした認識を持って行動できる人材を増やしていくことです。業界全体の人間がそういうふうに考えなければいけないと思っています。ネットでいろいろな情報が取れるので、表面の情報だけを持っている人は大勢います。しかし、今なぜこうなっているのかを聞いてもわからない、もしくは考えていない方が多いのです。
物流業界は人手不足といわれながらも、人はたくさんいます。そういう意味では、考える人が少し増えるだけであっという間に生産性は良くなるはずだと思っています。

秋葉:業界内のつながりの仲間もありますが、サプライチェーン全体に影響するので、業界の垣根を越えた方たちとも詰めていかなければいけません。池田さんの言葉でいうと、相互理解をしていかなければいけません。何が本当の課題なのか、何を解決しなければいけないのかといったことをききちんと判断できる人がいないと、そもそもできません。その中でエッジの効いたベンチャーをどのように活用するのかという話も出てくるのだと思います。思っていないと変わらないし、やらないのは思っていないのと同じですから、そこはきちんと志を持ってやるということだと思います。いろいろな業種・業態の経営者の方たちにそのことを理解していただいて、それぞれの会社にそんなふうに考える人たちを入れてもらえたら、変わる確率は当然上がりますし、スピード感も変わってくると思います。そのとき、業界をリードしているアスクルさんの存在がとても大きいのです。日本で誰もやれていないことをやりましょうというのは大変なことで、やれている人がいるのとでは話がまったく違います。「アスクルさんがやっていますよね」という一言が言えますから。
他の企業でそれができたときには、アスクルさんはさらに先に行っているはずです。そういう状況は、日本のロジスティクスにとっても非常に大きなことです。そういう意味で、池田さんにもっと頑張ってもらって、アスクルさんにもっともっと目立っていただきたいですね。
今日は本当に素晴らしい話をありがとうございました。

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土地活用ラボ for Biz アナリスト

秋葉 淳一(あきば じゅんいち)

株式会社フレームワークス会長。1987年4月大手鉄鋼メーカー系のゼネコンに入社。制御用コンピュータ開発と生産管理システムの構築に携わる。
その後、多くの企業のサプライチェーンマネジメントシステム(SCM)の構築とそれに伴うビジネスプロセス・リエンジニアリング(BPR)のコンサルティングに従事。
2005年8月株式会社フレームワークスに入社、SCM・ロジスティクスコンサルタントとしてロジスティクスの構築や改革、および倉庫管理システム(WMS)の導入をサポートしている。

単に言葉の定義ではない、企業に応じたオムニチャネルを実現するために奔走中。

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