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コラム vol.240-12
  • 土地活用法律コラム

続・土地活用・不動産投資におけるトラブル第6回 賃借人との立退き合意における留意点とその実務

公開日:2019/03/29

POINT!

・高齢のため、意思能力がなかった、あるいは錯誤無効である等の主張をされるケースでは、賃借人の年齢、職業、関係性、条件の内容を踏まえ、柔軟に対応する

・賃借人の意思いかんで何とでもなるような合意内容は不適切であり、客観的な基準で条件成就などを判断できる内容とする必要がある

・立退き料は、極力立退き完了時に支払う方向で調整するのが大原則

以前のコラム「賃借人の立退きに関するトラブル」の中で、民法や借地借家法における賃借人の立退きに関する取扱いや立退き交渉等における留意点について説明をしました。今回のコラムでは、立退き合意に関するトラブルを防止するための対処法に絞って説明します。

立退き合意に見られるトラブル事例

やっとの思いで賃貸住宅における賃借人との間で立退き合意を取り付けたものの、いざ立退き実行の段階になってトラブルになるケースがあります。そのようなトラブル事例としては、以下のような事例があげられます。

  • (1)賃借人が高齢であったため、立退き合意後、親族から立退き合意につき本人が理解できていなかった、内容について判断する能力がなかったなどとして、立退き合意について、意思能力がなかった、あるいは錯誤無効であるなどの主張をされるケース
  • (2)立退き合意の内容について、借家契約終了の合意がなかったり、明け渡し期限が曖昧になっていたり、法的に明け渡し請求を求められないようなケース
  • (3)立退き合意に基づき、立退き料を支払ったにもかかわらず、賃借人が立退き実行をしないケース

以下、上記トラブルを防止するための対処法について説明をします。

トラブル事例(1)について

賃借人が高齢の場合、意思能力や判断力が問題となることがあります。例えば、高齢の賃借人が一人暮らしをしているような場合で、親族に相談せずに立退き合意をしたときに、事後に親族がそれを知って、争ってくるケースがあります。意思能力とは、意思表示などの法律上の判断において自己の行為の結果を判断することができる能力をいい、意思能力に欠けた法律行為は民法上無効とされます。また、錯誤無効とは、法律行為における重大な部分に錯誤があり、本人に重大な過失がないときは、その法律行為が無効となることをいいます。
このような主張は、比較的よくあります。だからといって簡単に認められるわけでもありませんが、そのような主張をされて争いになり、結局、任意に立退きを実行しない場合には、最終的には法的手続きを執らざるを得ず、時間もコストもかかってしまい、当初想定していた立退き後の賃貸住宅の建て替えなどの計画に大きな支障をきたすことになります。したがって、そのようなトラブルが生じないようにするのが肝要となります。
このトラブル回避のための対処法としては、さまざまな方法がありますが、賃借人の年齢、職業、関係性、親族との関わり合い、立退き条件自体の内容などを踏まえて、柔軟に選択、対応されるのがいいでしょう。
まずは、立退き合意書については、賃借人本人の意思に基づく合意であることを示すために、実印で捺印してもらい、印鑑登録証明書を提出してもらうことが有用です。そして、立退き合意書には、賃借人本人は意思能力その他契約締結をするのに十分な能力があること、合意内容につき理解し、錯誤がないことなどを明記することも考えられます。
賃借人本人の意思能力の関係では、さらに、賃借人本人につき被後見人などの登記がされていないことを確認するために、法務局発行の登記されていないことの証明書の提出を受ける方法が考えられます。
また、立退き合意書の締結の際に、親族の方に立ち会ってもらい、立会人として当該合意書に署名捺印してもらうのも一つの方法です。立会人は親族以外の第三者でもいいのですが、親族が立ち会ったほうが、より有効的となるでしょう。
さらには、公証役場に行き、公証人の面前で賃借人の意思を確認してもらい、公正証書にて立退き合意をすることも考えられます。なお、後に説明する裁判上の和解である即決和解による方法でも、このトラブルをリスクヘッジできると思われます。

トラブル事例(2)について

事例(2)は、せっかく立退き合意を取り付けたものの、その内容自体が不十分なものとなっており、法的手続きを通じて解決することができないケースです。
例えば、立退き合意の中には、賃借人が賃貸物件を使用占有する根拠である借家契約自体について、特に解約、終了させる旨の合意がないものが見受けられます。一般に、賃借人が保護されているのは、借地借家法により借家契約の解除、更新拒絶が難しいからです。借家契約が存続する限り、賃借人は賃貸物件を使用し続けることができるので、立退き合意においては、まず、この借家契約の終了を明確にさせる必要があります。そのため、借家契約の終了については条件などを付けるのは適切ではなく、明快に、かつ合意時に解除等をするのが得策かと思います。もし、賃借人からいろいろ条件を提示されているような場合には、借家契約終了の条件ではなく、明け渡し条件において調整するのが得策です。
立退き合意書において、転居先が見つかったら退去するとか、その他曖昧な条件を付けたり、明け渡し期限が明確でなかったりする場合は、賃借人がいつまでも約束を履行しないときでも、法的手段に訴えて解決することができないケースがあります。
転居先の確保は重要な条件であり、交渉の中では往々にしてそのような協議が持たれるものと思いますが、このような場合でも、一旦は期限を切る形での合意内容とし、仮にこの期限を延長する場合には、どのような条件の場合なのかをあらかじめ定めておく必要があります。
また、明け渡しの条件では、賃借人の意思いかんで何とでもなるような内容は不適切であり、客観的な基準で条件成就などを判断できる内容とする必要があります。

トラブル事例(3)について

立退き合意書の中で合意書締結時に立退き料を支払うとの内容になっており、支払いを行ったものの、賃借人が約定に従って退去をしないというケースも見られます。立退き料は、例えば、合意時に10 ~ 20%、立退き完了時に残額を支払うなどの支払い方式もありますが、極力立退き完了時に支払う方向で調整するのが大原則です。
しかし、現実には賃借人の退去資力が乏しい場合に、やむなく先行して退去費用を支払う必要があることは否定できませんが、そうだとしても、一定の手立てを講じる必要があります。
例えば、仮に一定の資金を賃借人に交付するとしても、それは立退き料ではなく、金銭消費貸借でひとまず貸し付けをして、後に支払う立退き料と貸金の返還とで相殺するという方法が考えられます。この場合、万が一、金銭交付後、明け渡しを履行しない場合には、そもそも貸金債権ですので返還請求できますし、当該債権をもって、仮差押え等のアクションがとれますので、明け渡しの法的手続き以外の方法によって、間接的に明け渡しの履行を迫ることができます。
また、立退き料を先行して支払わざるを得ないようなケースでは、立退き合意を即決和解手続きにより行い、賃借人の明け渡し履行の実効性を法的に担保するのも一つの方法です。即決和解手続きは、あらかじめ合意した内容で簡易裁判所に申し立てを行うことにより、裁判上の和解を行う手続きであり、これによって成立した和解調書は、いわゆる債務名義として強制執行を行うことができます。本来は、賃借人が明け渡しの履行をしない場合には、訴訟を提起して勝訴判決を得て、当該判決が確定した後、強制執行を行う必要がありますが、即決和解手続きにより和解が成立している場合には、直ちに強制執行を行うことが可能となり、時間的、コスト的にも節約することができます。
しかも、裁判所まで関与する手続きになりますので、賃借人も合意内容をきちんと遵守する傾向が強いといえます。

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