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コラム No.53-13

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戦略的な地域活性化の取り組み(13)海外における「スマート農業」の先進事例 ~米国~

公開日:2019/05/31

世界の穀物需給動向と米国の存在

まず、世界の穀物生産、消費の動向と米国の位置付けを見てみます。なお、穀物とは小麦、大麦、とうもろこし、コメなどのイネ科の農作物ですが、ここでは、食糧はもとより、飼料、工業用デンプンやエタノール等の原料となる重要な農作物として、大豆も含めることにします。
米国農務省「穀物等需給報告」(2018年11月見込み)によれば、世界の穀物生産量は約26億トン、消費量は26億4千万トンですが、期末在庫量は7億6千万トン(期末在庫率:28.9%)ですので、現在はほぼ需給のバランスが取れている状況です。穀物の生産は、主に米国やインド、ロシア、ブラジルといった広大な国土を持つ国々が、世界全体の大半を担っています。その中で米国は約4.4億トン余り、全体の約16%を生産しています。特に大豆、とうもろこしは、全世界の約35%を生産しており、日本に対する最大の食料供給国でもあります。
一方、世界の人口は、開発途上国を中心に増加の一途にあり、国連の「世界人口推計2017年 版(World Population Prospects 2017)」によれば、1970年に約37億人であったものが、 2015年には約74億人となっており、2050年には約98億人に達するといわれています。農林水産省「海外食料需給レポート2016」によれば、 2050年に必要な食料は現在の1.6倍、そのうち穀物は1.7倍の生産増加が必要であると推計しています。
このように見ると、米国における農業生産性の維持・向上は、米国内のみならず、全世界的な課題であるといえます。

米国の農業の実態

日本の26倍の国土、約90倍の農地を有する米国の代表的な農業地域は、イリノイ、アイオワ州を中心とした中西部コーンベルト地帯、コーンベルトの西に位置し主に小麦などを生産する大平原地帯、主に綿花などを生産するノースカロライナ州からテキサス州にかけた南部デルタ地帯、主に果実や野菜などを生産するカリフォルニア州を中心とした西海岸地域で、地形や気候に応じた多様な農業が展開されています。在サンフランシスコ日本総領事館が米国農務省等の2015年データを取りまとめた資料によれば、カリフォルニア州では、農場数こそ全米の4%弱に過ぎませんが、農産物販売額は471億ドルで全米第1位となっており、2位アイオワ州278億ドル、3位テキサス州237億ドルを大きく引き離しています。
一方、近年の動向をみると、5年に一度実施されている2017年「米国農業センサス」によれば、農場数は前回調査から3.3%減の204万戸、総農場面積は1.6%減の約3億6千万ヘクタール、生産者の平均年齢は57.5歳となっており、農場数の減少、農場の大規模化、生産者の高齢化が進んでいることがうかがえます。また近年の課題としては、豪雨や干ばつをはじめとした異常気象の頻発等、不安要因が懸念されていることです。さらに、農業労働に対する規制の強化による人件費の上昇や政策による移民規制、農薬規制などの影響も指摘されており、農業生産性向上に向けたイノベーションが求められています。

米国アグテックの挑戦

アグテック(AgTech)とは、農業(Agriculture)と技術(Technology)を組み合わせた造語で、その他にもアグリテック(AgriTech)やスマート農業などの言葉もありますが、ここでは、農業にハイテク技術を応用した取り組みという意味で、同様に扱います。
前述したように、世界人口の増加に伴う穀物を中心とした農作物需要の増加が予想されています。その一方、生産地においては農業人口の減少と高齢化、労働コストの上昇、異常気象の頻発、土壌の汚染や砂漠化、雑草や害虫の薬剤耐性など、農業を取り巻く環境は厳しくなっているといわれています。その課題を解決する手法のひとつとして、ICT技術等ハイテク産業の先進国である米国において、アグテックビジネスが注目を集めています。
これまでも、広大な農地で農業を行う取り組みとして、トラクターなど農業機械の開発が行われたり、農地を円形に耕作して部分的に自動化したりと、効率的な農業が進められてきましたが、さらにハイテク技術を駆使して生産コストの低減、生産性の向上を図るビジネスが始まっています。
これらアグテックの取り組みは一例にすぎませんが、人口増による食料の需要の増加が見込まれることから、農業・食料関連事業のイノベーションにチャレンジする民間ビジネス(産業)が出現することは必然かもしれません。

  1. ・IoT技術を応用し、センサーを農地に配置してネットで情報を収集し監視、管理するビジネス
  2. ・ドローンで上空から農地を撮影し、作物の生育状況や雑草の分布を、画像解析技術を使って可視的に把握するビジネス
  3. ・土壌が必要でない作物を都市部の植物工場で生育させ、生産と物流コストを削減するビジネス
  4. ・自動運転技術を使って、トラクターなどを農業用ロボットとして活用するビジネス
  5. ・精細な気象データを活用して、気象変化をいち早く予測し、予報するビジネス
  6. ・公的機関のさまざまなデータと、生産者から収集されたビッグデータを管理し、データベースを生産者や事業者に対して提供するビジネス

アグテックは新産業を育む

アグテックに注目が集まっている状況は、農業・食料関連企業への投資額にも表れています。米国AgFunder社によれば、米国における農業・食料関連スタートアップ企業の2018年資金調達額は169億米ドル(約1.5兆円)と前年比43%増加し、ベンチャーキャピタルのみならず、農業関連企業やIT企業の出資が急増しているといわれています。
日本においては、米国ほどの盛り上がりは見られませんが、アグテックビジネスで育まれたテクノロジーが、バイオビジネスや環境ビジネス、IoT、 AI関連ビジネスに大きく波及する可能性もあり、動向を注視していく必要がありそうです。

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