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コラム No.53-69

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戦略的な地域活性化の取り組み(69)公民連携による国土強靭化の取り組み【31】気候変動、人口減少時代におけるグリーンインフラ推進の意義

公開日:2024/01/31

国土交通省は、2019年に策定された「グリーンインフラ推進戦略」を前面改訂し、「グリーンインフラ推進戦略2023」を2023年9月に公表しました。また、2023年10月には「グリーンインフラ実践ガイド」が発行され、グリーンインフラの具体的な取り組みや手法を提示しています。

グリーンインフラとは

グリーンインフラとは、「社会資本整備や土地利用等のハード・ソフト両面において、自然環境が有する多様な機能を活用し、持続可能で魅力ある国土・都市・地域づくりを進める取り組み」です。つまり、災害対策や生活基盤整備等の社会課題の解決を図る手法として、自然が有する力を積極的に活用することを推進する概念で、端的に言えば、「自然と共生する社会」の実現を目指す取り組みです。従来から緑地緑化を推進する取り組みがありますが、グリーンインフラは2010年頃に米国で始まったとされる比較的新しい概念で、国内では2015年に策定された「第4次社会資本整備重点計画」で社会資本整備の手法としてグリーンインフラが位置付けられました。
その背景としては、人類生存のために開発を続けた地球環境は限界に達しつつあると言われており、持続可能な人間社会の生存基盤をも脅かしかねないため、近年顕著になっている温暖化・気候変動への対応として、温室効果ガスの排出抑制と並行して、生物多様性の喪失を止め反転させ自然を回復させる「ネイチャーポジティブ(自然再興)」の実現が急務になっていることにあります。国内においても、2023年5月に「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律(GX 推進法)」が成立し、2050 年カーボンニュートラル等の国際公約と産業競争力強化・経済成長を同時に実現していく動きが加速しています。
グリーンインフラに対比する言葉としてグレーインフラがあります。グレーインフラとは、都市整備や防災・減災などに対してコンクリート等の人口構造物を活用する手法ですが、グリーンインフラは、更に自然生態系を活用した整備手法と言えます。また、カーボンニュートラルが地球規模での喫緊の地球温暖化緩和策だとすれば、グリーンインフラは地域や都市における中長期的な気候変動適応策と言うこともできます。

グリーンインフラの社会的意義

前述したように、グリーンインフラとは従来の社会資本に自然資本を取り入れ、それぞれの良さを統合的に発揮させる整備手法ですが、その意義や期待される効果は少なくないようです。その内容を「グリーンインフラ推進戦略2023」から抜粋して、以下に列記します。

  • 1.生物多様性・土壌・水などの自然資本を損なわず、むしろ回復させるネイチャーポジティブやカーボンニュートラルの実現に資する。
  • 2.自然そのものが防災・減災といったインフラとしての機能を発揮するとともに、その持続性・永続性を高める。
  • 3.まちづくりに自然を取り入れることで、都市の快適性などを高め、コミュニティの醸成にも資する。
  • 4.自然を取り入れることで、自然が有する、心身両面での健康への効果、景観形成や文化醸成、地域活動や教育面での効果を引き出すことができる。
  • 5.Well-being(心身と社会的な健康状態)の向上、地域の賑わいの創出、働く人々等の生産性の向上、コミュニティの再生、ひいては SDGs や地方創生の実現に資する。

人口減少、少子高齢化時代にあって、社会インフラ老朽化対策や遊休地利活用、都市再生、地方再生等にグリーンインフラを取り入れ、「自然と共生する社会」を実現するメリットは大きいと思います。

グリーンインフラの活用事例

「グリーンインフラ実践ガイド」には、グリーンインフラの先行的活用事例が紹介されています。
主に首都圏等都市部での大規模オフィスビル再開発地区や住宅地・商業地において、快適な緑地オープンスペースを創出することで、ヒートアイランド現象を緩和したり、雨水貯留・浸透機能を向上させ都市型洪水を抑制するとともに、地域住民の憩いの場を提供する取り組みが多数見られます。
また、公園や低未利用空間において、官民連携、住民参加による整備を推進し、維持管理や運営・活用に対しても地域住民が柔軟に参加できる仕組みを作ることで、コミュニティ醸成を促進する取り組みが各所で見られます。
公共インフラである道路等においても、植栽帯や街路樹を積極的に整備することで、雨水流失を抑制するとともに、景観や歩行者の安全性、快適性を向上させる取り組みが全国で見られます。
さらに河川では、水害防備林や霞堤(かすみてい)などの伝統的治水工法の活用や川岸の緑地化等によって、治水と生物多様性を両立する環境が整備され、加えて港湾・海岸部においては、生物共生型護岸や海岸防災林の整備、干潟や砂浜の再生・維持による多様な海生生物の保全と交流の場を創出する取り組みが進められています。 このように見ると、グリーンインフラは、日本が本来持っていた豊かな自然環境を再生する施策なのかもしれません。

公民連携により自然との共生を推進し、将来に向けて国土全体の社会資本価値を向上させるグリーンインフラの取り組みは、国土を強靭化し資産価値を高める手法として、大変有意義ではないでしょうか。

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