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コラム No.53-60

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戦略的な地域活性化の取り組み(60)公民連携による国土強靭化の取り組み【22】世界的な半導体危機への対応が劇的な地域(エリア)リノベーションを後押しする

公開日:2023/04/28

世界的な半導体不足のなか、大手半導体製造各社は増産体制を急速に強化しています。そのグローバルな流れが日本にも波及し、工場進出地域の発展に大きな影響を及ぼしています。今回は、その現状や背景などを取り上げたいと思います。

半導体最大手TSMC社の熊本進出でシリコンアイランド復活か

世界最大手の半導体製造メーカーである台湾積体電路製造(TSMC)が、熊本県菊陽町の工業団地に2024年中の稼働を目指して工場を建設中です。その投資額は、提携する日本企業と合わせて1兆円にも上り、1000人を超える新規雇用を計画、また関連する多くの国内企業が同地への進出を計画しています。そもそも九州は1980年代にシリコンアイランドと呼ばれ、各地に半導体関連メーカーや自動車、家電メーカーなどの集積がみられます。その中でも熊本は、水資源と電源が安定しているため、半導体製造メーカーが立地する条件を備えており、また台湾との地理的距離も近く、空港や港湾も整備されていることから、適地であったと思われます。
ここで製造を予定しているのは、20ナノメートルクラスのミドルレンジにあたるロジック半導体だと言われおり、5ナノメートル以下の超微細な最先端半導体ではありませんが、日本が得意とする自動車や電化製品での需要が逼迫していることを考えると、現実的な投資戦略だと考えられます。今回のTSMC社進出が成功することで、九州全体の産業が底上げされれば、九州各地域の産業基盤再整備が進み、往年のシリコンアイランドが復活するかもしれません。

北海道千歳市に国策半導体新会社ラピダス株式会社が半導体製造拠点を設立

経済産業省は2022年11月、先端半導体の国産化に向けて国内企業8社で設立したラピダス株式会社に対し、政府が研究開発拠点の整備費用などに700億円を補助することを明らかにし、国策事業として官民連携で次世代半導体の国産化を目指すことを正式に発表しました。ラピダス(株)は、これまで国内企業が実現できなかった2ナノメートル以下のハイエンドな半導体の研究開発を進め、5年後の2027年から生産を始める計画であるとしています。
また、ラピダス(株)は2023年2月に、同社として初の工場を北海道千歳市に建設することを発表しました。用地選定理由としては、熊本事例と同様、豊富な水資源や電源の安定供給、地理的な利便性が挙げられています。事業基盤整備はこれからですが、5兆円あまりが投じられる最先端半導体工場が出現することになり、地域産業の振興と地域の活性化に期待が集まっています。

世界半導体市場再編成のインパクト

かつて1980年代の日本は、半導体の設計・製造分野で世界市場の50%をシェアしていました。その後、半導体需要が急増する中で、市場ニーズに合った半導体設計を専門とするファブレス企業(半導体の開発・設計を行う企業)と、半導体の委託製造を主業とするファウンドリ企業(半導体の製造を専門に行う企業)の水平分業が進み競争が激化したことで、日本企業は失速し、現在の世界シェアは10%程度にまで落ち込んでいます。一方、ファウンドリ企業であるTSMCやサムソン電子などは、多数のファブレス企業からの委託製造を請け負うことで超微細な半導体製造技術を確立し、世界のトップシェアを握るに至っています。今では、台湾・韓国・中国のファウンドリ企業が世界の90%の半導体を製造・供給しており、アジアでの寡占化が進んでいます。

日本における半導体戦略と地域の対応

経済産業省が2021年6月に公表した「半導体戦略」によれば、国内産業基盤の強靱化にあたっての半導体戦略を、(1)日本に強みのある製造装置・素材技術を生かし、(2)海外の先端ファウンドリとの共同開発を推進し、(3)先端ロジック半導体の量産化に向けたファウンドリの国内立地を図る、としています。前述の熊本及び北海道事例は、この戦略に沿った動きであり、政府はTSMCの国内運営会社に4000億円超を、ラピダス(株)に3000億円を補助する方針で、前例のない異次元の支援による半導体国内製造基盤強化施策が始まっています。世界の半導体市場は今後も拡大を続け、2030年の市場規模は現在から倍増の100兆円に達すると言われており、海外半導体企業の誘致や、国内既存半導体メーカーへの投資が急増することが予測されます。
このような動きは、国内対象地域にとっては活性化の千歳一隅の好機となる一方、受け入れる地域の対応には課題もありそうです。例えば熊本の事例では、急増する関連企業の進出に対応する工業用地や住宅用地の不足、幹線道路の渋滞問題、国内外従業員の生活環境整備への懸念などが指摘されています。これに対して熊本市は、2022年12月に「半導体関連産業の集積に向けた産業用地整備事業」を策定し、官民連携による産業基盤の強靭化と地域経済の活性化に取り組み始めています。

国内には、半導体製造に適した水資源と再生可能エネルギーを主体とした電力供給が可能な工業用地が多数存在します。今後の半導体企業進出にあたって、“熊本モデル”として先行事例となるような、既存産業と調和のとれた持続可能な地域再開発(エリア・リノベーション)を期待したいと思います。

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