PREコラム
戦略的な地域活性化の取り組み(19)「小さな拠点」づくり1 中山間地域の生活圏を再生する取り組み
公開日:2019/11/20
少子高齢化や人口減少による地域住民の生活基盤への影響は、特に中山間地域(山間地及びその周辺の地域)にとって大きな問題となります。中山間地域は国土の70%以上を占めており、地域社会にとって中山間地域の再生により住民の生活圏を維持することは、地域環境を保全する意味でも必要なことです。
少子高齢化による中山間地域の衰退
戦後しばらくは、中山間地域には、食料や日用品等の買い物、ガソリンや灯油等の燃料の調達、公共交通による集落間移動などが可能な「生活圏集落」が点在し、各集落内で完結した生活環境がある程度整っていました。しかし、少子高齢化や人口減少が著しい近年では、集落内での生活基盤の維持や交通手段の確保が難しくなり、高齢者にとっては、近隣の集落での食料や燃料の調達、医療・福祉サービスの受給もままならない状況が生まれています。集落を集約してコンパクトな街を形成する方法もありますが、住民にとっては愛着のある土地を離れることへの抵抗感もありますし、人間が不在となることで里山の自然環境が荒廃することにも繋がりかねません。民間事業者や行政による移動販売や出張サービスなどで対応が可能とはいえ、中山間地域に広く点在する集落への個別対応は非効率であり、将来的に持続が可能な取り組みとはいえません。
「小さな拠点」づくり
国は近年、「土地再生法」の理念の基で、「小さな拠点」づくり事業を推進しています。
小さな拠点とは、学校や医療機関、行政施設等が集積し、住民が暮らしていくための生活基盤が整っている小学校区程度の地域を指します。そこを中心として周辺集落をコミュニティバス等で結び、分散している生活機能をネットワーク化することが、「小さな拠点」づくり事業の試みです。
「小さな拠点」を形成することにより、周辺集落の住民が必要とする行政や民間のサービスをワンストップで受けることができ、また住民が交流することで集落間のコミュニティの醸成にも繋がり、住民の見守りと安心安全を確保する拠点として機能することが期待されています。このような拠点が持続できれば、人口減少や高齢化に柔軟に対応できる中山間地域の生活環境が確保できるものと考えられます。
「小さな拠点」は地域住民の総意で創り上げる
「小さな拠点」とはいえ、地域住民全体の生活や経済活動に関わる総合的な取り組みですので、官民一体となった持続的な活動が求められます。一方、全ての課題を一括して解決しようとすれば、計画倒れとなりやすい取り組みでもあります。そこで、国土交通省は「小さな拠点づくりガイドブック」を策定し、取り組みの指針を示しています。ガイドブックによれば、検討体制づくりからプラン策定までの第1フェーズと、事業の開始から計画の見直しや修正を行いながら活動を持続していく第2フェーズに分けて説明されています。
まず、第1フェーズでは、(1)行政と民間企業や住民で構成される検討体制を立ち上げ、(2)地域におけるニーズとシーズを把握したうえで、(3)「小さな拠点」づくりプランを検討し、(4)実施運営体制を確立します。「小さな拠点」づくりに向けたこれらの活動を支援する事業として、国土交通省の「小さな拠点」を核とした「ふるさと集落生活圏」形成推進事業をはじめ、各省庁が様々な支援制度を打ち出しています。
第2フェーズでは、活動の効果を測定しながらプランの点検・見直しを行い、活動をより充実させていきます。例えば「買い物」「医療・福祉」「公共交通」など、解決したい取り組みを順次追加したり、「買い物」であれば、連携する事業者を拡充し利便性を向上させたりと、ステップを踏んで地域の生活基盤や集落間ネットワークをより強固なものにしていきます。その過程で、廃校や空き家の利活用や新たなコミュニティビジネスの創立など、地域事情に合わせた創意工夫が全国で試みられています。
道の駅を核とした「小さな拠点」づくり(長野県豊丘村の事例)
「小さな拠点」づくりは、実際にどのような取り組みなのか、内閣府の公表資料から長野県豊丘村の事例を見てみましょう。
長野県豊丘村は、長野県の南部、飯田市に隣接し、天竜川沿いの河岸段丘に位置する人口6,400人あまりの村で、森林面積が約75%に及ぶ中山間地域です。豊丘村では、地域住民が安心して暮らすために必要な生活サービス機能を集約・確保する「小さな拠点」の中核施設として、「道の駅 南信州とよおかマルシェ」を2018年にオープンしました。また、村内の全集落をコミュニティバスで結ぶ交通ネットワークを形成することで、交通弱者への支援を一体的に進めています。「道の駅 南信州とよおかマルシェ」は、村や住民が出資する株式会社が施設の管理運営を行い、公共施設の維持管理運営等の受託をはじめ、民間スーパーマーケットの誘致、農畜産物や林産物、加工品等の地域特産物の販売、農家レストランの運営、観光土産品の企画、製造及び販売・イベントや各種体験講座等の企画及び運営などを推進し、住民が生活に必要な食料品や日用品の販売や、住民による農畜物等販売の支援、住民の交流を促進するコミュニティスペースや行政情報の提供など、ワンストップで地域住民の生活を支えるとともに、将来に向けて生活を豊かにする機能を整備しています。また、「道の駅 南信州とよおかマルシェ」の運営により、地域の住民の雇用創出にも貢献しています。さらに、「道の駅」は、地域外からの流入者の結節点でもありますので、交流人口の増加による経済効果も期待されています。
このように、「小さな拠点」づくりは、行政や地域事業者、住民による官民一体となった取り組みとして中山間地域の課題を解決する、持続可能なマネジメント機能を確保する事業であるといえそうです。