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コラム No.53-74

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戦略的な地域活性化の取り組み(74)公民連携による国土強靭化の取り組み【36】地域活性化を生むフィルムコミッションによる地域プロモーション活動

公開日:2024/06/28

日本政府観光庁(JNTO)の発表によると、2024年3月4月度の単月訪日外客数が、2か月連続で300万人を超えました。最近の円安傾向が背景にあるとしても、観光立国日本の潮流は確かなようで、その傾向は大都市以外の地方部へも広がっており、地方にとっては地域活性化の好機ともいえます。

地域プロモーションの重要性

訪日外国人観光客数は、ここ30年余りで10倍以上となり、2018年には3000万人を突破しました。コロナ禍で一時激減したものの、2023年には2500万人超まで回復しており、その勢いは2024年になっても衰えてはいないようです。また近年では、訪日するリピーターも増えており、東京―京都-大阪という、いわゆるゴールデンルートのみならず、全国の地方都市でもインバウンドが増加傾向にあるようで、日本が有する固有で多様な観光資源が好感を持って評価されていることを感じます。その要因として、旅行者によるSNSの拡散や海外メディアによる地方観光地の紹介が大きく影響しているといわれていますが、映画やドラマ、アニメに縁のある地域への訪問を目的としたツアー、ロケツーリズム(聖地巡礼)も大きな訪日動機付けの一つだと思います。
各地域や自治体においても、非営利団体であるフィルムコミッション※を組織して、制作会社のロケハン(location hunting:ロケ地下見)や撮影に関する手続きの代行、スタッフの宿泊や食事の手配、エキストラの募集などをワンストップでバックアップし、ロケ地を積極的に誘致することで地域活性化や観光振興に繋げていく活動が活発化しています。2009年に設立された特定非営利活動法人ジャパン・フィルムコミッションによれば、配下で活動している正会員フィルムコミッションは、2022年4月時点で全国で123団体にのぼっています。また、2016年には産官学民連携よるロケツーリズム協議会が発足(2018年に一般社団法人化)、地域にもともとある資源をメディアを通じて効果的に発信し、製作者-地域(ロケ地)-観光客の協働を支援することで、持続可能な観光誘客や地域振興につなげるプロモーション活動を推進しています。
映画やドラマ、アニメといった作品を通じて地域の魅力を発信する手法は、特に日本独自の風土や文化、歴史に興味をもつ外国人へのPR方法として大きな効果があると思います。フィルムコミッションの活動は、地域プロモーションの有効な取り組みとして今後も注目されます。

  • ※地域活性化を目的として、映像作品のロケーション撮影が円滑に行われるための支援を行う公的団体

日本でも数々の事例が

すでに、映画などのヒットによりファンがつめかけている地域もあります。全世界で放映され、多くのファンを獲得している人気マンガの作中に登場したと思われる風景がSNSで投稿されたことから、鎌倉市への「聖地巡礼」がブームとなり、一種の社会現象となっています。2016年に公開されたアニメ映画で映画の舞台となった岐阜県飛騨には多くのファンが訪れています。
日本がロケ地となった海外の実写映画が発端で、ロケツーリズムが沸き起こった事例もあります。例えば、2009年に中国で放映され大ヒットした映画では、北海道各地がロケ地であったことから、日本ではあまり知られていない地域にも、中国から観光客が殺到するという現象を生みました。
また、2014年にタイで公開されたヒット映画では、一部に佐賀県で撮影されたシーンが入っていたことから、佐賀県へのロケツーリズムが生まれ、インバウンドが大幅に増加したといわれています。
いずれも、地域フィルムコミッションによるプロモーション活動が奏功した事例であるといえます。

ロケツーリズムの効果と課題

ロケツーリズムによる地域への経済波及効果は、作品の規模によっても差異があるようですが、内閣府知的財産戦略推進事務局の資料による試算では、撮影ロケの直接効果(ロケ隊による宿泊費、飲食費、旅費交通費等)だけでも数10億円、地域産業に及ぼす間接効果を含めると数100億円にのぼる事例があるとされています。さらに、誘発されるロケツーリズムで観光客が地域で消費する額を考えると、地域にとって大きな経済効果をもたらします。特に、1人当たり旅行支出が約20万円といわれるインバウンドの入込増加は、人口減少時代における地域活性化の絶好のチャンスであるといえます。
このように、地域に大きな経済効果をもたらすロケツーリズムですが、フィルムコミッションにおける地域プロモーションは、あくまで優良な映画やドラマ、アニメなどの作品制作者に対して、ロケ地として日本が選定されることを支援する取り組みであり、単なる地域のPRを目指す活動とは一線を画す戦略的な活動である点で、今後の発展性が期待される施策だと思います。
一方で、地域によってはオーバーツーリズムという地域社会問題を引き起こしている事例もあり、課題解決に苦慮している地域もありますが、まずは地域観光の裾野を広げていくことが、観光立国日本の醸成、地域活性化、地域振興の芽を培う意味で、今は必要ではないでしょうか。

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