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コラム No.27-80

サプライチェーン

秋葉淳一のトークセッション 第3回 「悩みを欲しがる」ことを本気で考えることで、企業が活躍できるチャンスがある株式会社トーチリレー代表 神保拓也× 株式会社フレームワークス 代表取締役社長 秋葉 淳一

公開日:2022/12/27

心に火を灯すトーチング

秋葉:神保さんと知り合った6~7年前、当時はファーストリテイリングにいらっしゃいましたが、今はまったく違うお仕事をされています。神保さんの今のお仕事についてお話しいただけますか。

神保:ファーストリテイリングを退職した後、2020年に「人に寄り添い、悩みに向き合う」をコンセプトとした株式会社トーチリレーを設立しました。悩める個人や企業に、講演会や、心に火を灯す「トーチング」という面談サービスを展開し、「悩みをマネジメントする」という考えを広げていくことを提唱しています。そう聞くと、皆さん、前職とはまったく違う仕事だと思われるようです。しかし、私のキャリアを振り返るとある意味では一貫しています。新卒で入った銀行からコンサルティング会社へ行き、ファーストリテイリングを卒業してから今の仕事まで、一貫して悩みに向き合って仕事をしてきました。ですから、新しくまったく別のことを始めたという感覚はあまりありません。自分の中に、「いろいろな人の悩みや自分の悩みに育ててもらった」という感覚が強く残っているので、今後は自分が悩みと向き合う中で培ってきたことを、自分や自分の近しい周囲の人だけでなく、もっと多くの方に提供できるような仕事がしたいと思っています。

秋葉:トーチングでは、相談者の方からお金をいただかないそうですね。

神保:はい。当社の看板商品でありメインのサービスである「トーチング」は、無料でご相談を受けています。「トーチング(torching)」とは松明を相手の心に渡す行為を意味する造語で、商標登録もしています。「松明」は英語でtorchと訳され、torchには「松明の火で照らす」という動詞の意味もあることから、トーチングと名付けました。
ご相談者の悩みに本気で向き合う現場では、生々しい、ノンフィクションのやりとりが行われます。その「相手の悩みに真剣に向き合う」というプロセスを文字に起こして、「トーチング日記」という名称で展開しており、こちらは月額1,000円のサービスとして展開しています。

秋葉:相談者からはお金をとらないと、早い段階から決めていたのですか。

神保:アジャイル(人間・迅速さ・顧客・適応性に価値をおく開発手法)で走りながら考えた部分もありますが、私の中にはある思いがありました。私はファーストリテイリングや銀行などの大企業に勤めてきたキャリアが長く、それまでたくさんの同僚の悩み相談に乗ってきました。ただ、同じようなバックグラウンド、同じような組織体に所属している人の悩みだけを聞いていると、どうしても似通ってきます。出会う人のタイプも、それぞれ個性は違うのですが、所属する企業や年収帯、やっている仕事等がどうしても似てしまいます。世の中には多種多様な悩みがあるはずなのに、少しワンパターンになってきたと感じることが増えました。そこで起業するにあたって、私の最初の想いとしては、「ゆりかごから墓場まで」と言ったら大げさですが、10代から70代、80代の方に至るまで、どのようなバックグラウンドであれ、いろいろな方の悩みを欲しがって相談に乗ろうと思いました。そうなると中にはお金を払えないご相談者の方も出てくるだろうと思いました。金銭的に余裕がある人だけが悩んでいるわけではないですからね。だったらいっそのこと全額無料にして、さまざまな人から申し込みが来るという状態を先に担保してしまったほうが、私の思いを遂げることにもなるし、より多くの方に寄り添うこともできるだろうと思い、早い段階で無料と決めました。

秋葉:最初に無料と聞いたときには、瞬間的に「ボランティア?」と思いました。最初にパラメーターである価格を無料にするくらい、悩みがほしかったということですね。神保さんの著書『悩みは欲しがれ』も強烈なタイトルです。

神保:今「これだけやればあなたも〇〇になれる」といったようなタイトルの本が良く売れるそうですが、私は「世の中って、ビジネスってそんなに単純じゃない」と考えています。だから本を書くにあたっては、誰にもおもねらない、本当に自分が伝えたい思いを象徴するタイトルをつけたかったのです。まるで自分の分身のように思える本、「神保拓也」という存在そのものがフルに詰まった本を出したい。そう考え続けて最後に出てきたのが『悩みは欲しがれ』というタイトルでした。「悩み」というのはよく使われる言葉ですが、通常はネガティブに思われる言葉でもあります。それを「欲しがる」という・・・一見するとあり得ない組み合わせのタイトルに決めたのは(笑)、そのような思いからです。

秋葉:直球のタイトルですよね。神保拓也が言っている言葉だと感じました。本を読むと、その中で神保さんが喋っているような気がします。この本に書かれているのは、いわゆるプロのライターが書く文章ではなく、生身の人間の「言葉」なんですよね。仕事のときも、二人で食事をしているときもこんな感じだよなと思いながら読みました。タイトルがド直球なので、「悩み」という言葉と「欲しがれ」という組み合わせを疑問に思って、神保さんが書いたということを知らずに、手に取る人がいるでしょうね。

神保:私は、さまざまな方の悩みに向き合うために、このユニークな一風変わった事業を立ち上げました。先ほども申し上げましたが、悩んでいる人は、偉い人、お金持ち、ビジネスパーソンだけではありません。生きている方は全員悩んでいます。だからこそ、多くの方の悩みを欲しがる会社としてこの企業体を立ち上げたわけです。今は、多様性に富んだ多くの方々に出会えています。
先日、ある進学校の高校3年生360人に、「心に火を灯す」というテーマで講演をしてきたのですが、そこでもすごく嬉しいことがありました。高校生がインスタグラムのDMに私の本をアップしていて、その内容が「誕生日プレゼントに同級生にもらいました!!」だったのです。From高校生To高校生で、バースデープレゼントに『悩みは欲しがれ』が贈られる。たった1件の事例かもしれませんが、その事実にとても感動しました。そういうところにまで今届き始めているのだな、この事業を立ち上げて本当によかったなと実感した瞬間でした。

悩みには情報が詰まっている

神保:先日、あるテレビ局の深夜番組にゲストとして出演することが決まりました。私の本を読んだというプロデューサーの方からダイレクトに連絡がきて、すごく面白い、感銘したということで、番組にゲストとして出演していただけないかというオファーをいただいたのです。
それはサッカーに関する番組だったのですが、私の肩書きやキャリアからすると、サッカーにはまったく縁がありません。声が掛かった意味が分からず、何かの間違いではないかと思って聞いてみると、「チームビルディング、チームワークという観点で、神保さんが提唱しているトーチングという考え方は、実はコーチング以上に先進的で、今の時代を反映している。本質的なので、いつの時代にも必要な考え方ではないか」という答えが返ってきました。
元日本代表の選手、テレビ局の女子アナウンサー、俳優さんの並びに私がいて、トーチングについて語る。サッカーにまったく縁のない、悩みを欲しがっている人間がサッカー番組に登場するのですから、本当に人生いろいろなことが起こりますよね。

秋葉:元日本代表の選手と神保さんがどんな会話をするのか、かなり興味がありますね。

神保:サッカーやスポーツという観点で言えば、チームの中に「悩みを欲しがるリーダーシップ」を発揮している人がいるのかいないのか。誰が何に不満と悩みを抱えているのかについて、首脳陣、いわゆるチーム側はどこまで知っているのか。逆に、監督を含めたいわゆるチーム側の悩みを、選手はどこまで理解しているのか。「悩みを欲しがるリーダーシップ」がない組織は、悩みを吐き出す場所ないため、最終的にはそれが悪い形で表出してきます。そうなった後では、収束するために倍以上の体力がかかり、コストも時間もかかるわけです。悩みを早いタイミングで欲しがって、悩みが悪化する前に捉えることができれば、もっと正しい打ち手を正しく打つことができます。実は、悩みの中には情報が詰まっています。その悩みを経営変革やチーム変革に活かすという意味で、確実にスポーツの分野にもトーチングは効果を発揮します。

秋葉:一方で、悩みはとりあえず聞いてやればいい、答えは求めていないと言われることがあります。例えば、私は悩みという言葉以前に、「社員の意識をどうやって変えるか」ということをつねに考えています。会社には「教育」と「学習」があって、教育は、教え、育むことで、会社側が用意するものと捉えられます。しかし、それをいくら用意したとしても、学習する側、学び、習う人たちがやる気にならなければ意味がありません。それなのに、「会社側でこれだけ準備したのに」「こういう制度をつくったのに」と言いがちですよね。それではまったく目的を達していません。「教育」と「学習」の間をどう縮めるかであって、教育側が行くのか、学習側が行くのか、それこそトーチングで心に火が灯ってこちらに来るのか、といった話なわけです。悩みという言い方ではないのですが、「皆思っていることがあるのではないか」と思っています。

神保:きわめて本質的な話ですね。個人の集合体が会社、法人ですから、私は法人にも人格があると思っています。例えば、フレームワークス君という人がいるとしたら、彼は今絶対に悩んでいるはずです。そういった法人の悩み相談に乗ることも、当然、トーチングのスコープのど真ん中です。そのような観点でやってきたことが、ありがたいことに結実してきました。今はいろいろな企業様から、お仕事をいただいています。
ある企業では、数年前に導入した360度サーベイによって、中間管理職層の心の火が毎回消える、という悩みがありました。どうしてなのか尋ねると、「これだけ頑張って上司や部長の無茶振りに耐え、不出来なスタッフの尻拭いをし、それほど高い年収ももらわずにやっているのに、仕事は増える一方で、中間管理職は良いことが一つもありません。とどめは360度サーベイです。匿名なのをいいことに、部下からは悪口ばかりがあがってきます」と、次々と生々しい悩みが出てきました。
経営をしていれば分かると思うのですが、企業のいわゆる当事者同士だと、上下関係等があって本音はなかなか出てきません。その本音を聞き出す第三者が現れて、それを悪用するのではなく、正しく浄化作用を働かせるために悩みを欲しがる。そのようなアプローチが取れると、会社は大きく変わる可能性があります。あえて社外の人間がその企業が抱える悩みを欲しがることで生まれる科学変化は、とても興味深いものがあります。

秋葉:これは社外の人間でないとだめですね。

神保:そうなんです。中の人はどうしても社長や上司の意向を汲みますから。どんなに頑張って胆力を持ったとしても、そこにはやはり構造的な問題があります。私は、「人は自分自身の悩みに独りで向き合うことはできない」という考えを提唱しています。悩み相談に毎日乗っている私でも、自分の悩みにはおそらく独りで向き合えません。本当に悩んだときは誰かに相談します。自分以外の視点、視座でアドバイスをもらうことによって、自分の中にあった認知のバイアスが解きほぐれ、悩みは解決に向かうと思っています。
法人も同じです。法人が抱える悩みに、法人本体のみで向き合うことはできません。だから、当社のような、「悩みを欲しがる」に本気な企業が活躍するチャンスは、今後ますます増えていくと思っています。

秋葉:私たちの仕事でもそうです。現場のコンサルティングしてほしい、生産性を上げるためにパートさんの仕事を見てほしいといった話がきますが、いわゆるコンサルティング会社的なアプローチで上からいっても、たぶん何も変わらないですし、それでは第三者が入っている意味がありません。基本的には現場で一緒に仕事をするメンバーも入れて、「これは面倒くさいですね。なんでこんな仕事の仕方をさせられているのでしょうね」というように、パートさんも含めて、悩みや愚痴を現場の中できちんと聞く。それとは別にマネジメント層と打ち合わせをして、どうしていきたいかを聞く。その組み合わせで常にやってきました。

悩みの現場にあるひずみこそがビジネスチャンス

秋葉:この後、神保さんはトーチングのビジネスをどうやって広げて、どう進んでいきますか。

神保:今はさまざまな悩み相談に乗っているので、悩みにテーマ性を持たせていませんが、今後は「転職の悩み」「採用の悩み」「人材育成の悩み」「結婚の悩み」「離婚の悩み」「終活の悩み」など、悩みにテーマ性を持たせそこを深ぼっていくことも考えています。これからフォーカスしようと思っているのが「セカンドキャリアの悩み」です。先月、セカンドキャリアトーチングという新事業をローンチしました。従来セカンドキャリアは、「スポーツ選手のセカンドキャリア」「タレントのセカンドキャリア」「引退後の65歳以降のセカンドキャリア」というように使われることが多かったのですが、転職が当たり前になった今、セカンドキャリアは日常になりました。
ところが、キャリアに寄り添い、一緒に悩みに向き合ってくれる企業は残念ながら多くありません。いわゆる転職エージェントやキャリアエージェントは、売上目標やノルマなどがあるため、転職希望者をより高く売ることがひとつの目標になっていますので、仮に転職希望者が「年収が今の半分以下になってもかまわないから、中小企業で自分のこれまでの知見を生かしたい」「次は本当に好きなことをやって生きたい」と伝えたところで、正しく寄り添ってはもらえない。実際にそういった転職希望者からの悩み相談が私のところには毎日たくさん寄せられます。悩みの現場にはこのような生々しい困り事がたくさん集まります。そしてお客さまの困り事はある意味ではビジネスチャンスでもあります。「本来こうあったほうがいい」ことがそうなっていないのは、間違いなくビジネスチャンスなのです。本来あるべき姿になっていない業界に対して、我々は徹底的に悩みに一緒に向き合う姿勢を貫き、トーチングの考えを軸にビジネスを展開していきたい。悩みを軸にして、悩みを主役にやっていく。現場に即した形のこの切り口がとても面白いと思っています。

秋葉:間違いなくギャップはビジネスチャンスです。神保さんのビジネスは、人が真ん中にいて、そのうえで、その人たちがしたいこととのギャップをどうやって埋めていくかであって、そこに「悩み」があるということですね。

神保:悩みは嘘をつきません。悩みには人間そのものが出ます。

秋葉:この本を読めば、この悩みは自分だけじゃないと元気づけられます。あと、本にも書いてありましたが、人は意外に自分の悩みをわかっていないですよね。

神保:一番近くて一番遠い存在、それが自分という存在なのだと思います。その自分に寄り添う存在がいてくれることがどれほど救いになるか。悩みを欲しがる人間が一人でも多くなれば、世界はもっと明るくなるはずです。それが今回私が『悩みは欲しがれ』という本を書いた理由ですし、私の事業の本質だと思っています。

過去のトークセッション

土地活用ラボ for Biz アナリスト

秋葉 淳一(あきば じゅんいち)

株式会社フレームワークス会長。1987年4月大手鉄鋼メーカー系のゼネコンに入社。制御用コンピュータ開発と生産管理システムの構築に携わる。
その後、多くの企業のサプライチェーンマネジメントシステム(SCM)の構築とそれに伴うビジネスプロセス・リエンジニアリング(BPR)のコンサルティングに従事。
2005年8月株式会社フレームワークスに入社、SCM・ロジスティクスコンサルタントとしてロジスティクスの構築や改革、および倉庫管理システム(WMS)の導入をサポートしている。

単に言葉の定義ではない、企業に応じたオムニチャネルを実現するために奔走中。

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