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コラム No.27-84

サプライチェーン

秋葉淳一のトークセッション 第1回 日本の食品物流インフラを支える食品卸の役割三菱食品株式会社 常務執行役員 田村幸士 × 株式会社フレームワークス 会長 秋葉淳一

公開日:2023/04/28

食品物流の難しさを痛感

秋葉:私が田村常務と知り合った頃は、三菱商事の物流本部の本部長をされていて、その後三菱食品に移られました。どのような経緯だったのですか。

田村:私は三菱商事に入って最初の配属先が運輸部でした。商社なので扱っているものが多様です。最初の仕事は鉄鉱石の船の手配で、物流といっても海運に近いところでした。そこから海外の倉庫事業、フォワーディング事業、途中、国土交通省で航空貨物行政に携わるなど、いろいろな物流にたずさわってきました。最後に辿り着いたのが食品物流です。

秋葉:いろいろあると思いますが、現在、一番課題に感じていらっしゃるのはどのあたりですか。

田村:三菱食品は、2012年4月に、株式会社菱食を母体に、明治屋商事株式会社、株式会社サンエス、株式会社フードサービスネットワークが加わり、食品卸売のフルエリア・フルカテゴリー化を実現し生まれました。
「三菱食品」という社名から、お洒落なお店向けの商品開発をイメージして入社してくる新入社員もいます。しかし、実際にはほとんどが営業か物流の現場です。配属がSCM部門に決まると、物流センターに最低でも2年ぐらいは行ってもらうのですが、あまりのイメージの違いに驚き、落胆する社員もいます。男女で差をつけず、女性にも物流の現場で働いてもらうつもりですが、なかなか魅力を感じてもらえません。このギャップをどう埋めるのか、どうやって魅力ある職場にしていくか、今一番悩んでいることです。

秋葉:難しいけどやらなければならないことですね。今、日本において食品物流は非常に重要な役割を担っています。大和ハウスグループも市場での取り組みを行っていて、産地から消費者まで物を届けることの大切さ、難しさを実感しています。「人々の生活を豊かにしましょう」とよく言われますが、その一番ベーシックなところが食品・飲料です。これまで物流の中でアパレルや嗜好品的なところに注目がいきがちだったというのが、私自身の反省でもあります。今日は、食品物流やもう少し広げて物流全体についてもお話しさせていただけたらと思っています。

田村:いろいろな物流を見てきましたが、食品物流の難しさを感じています。まず、食品と一言で言っても多岐にわたり、スーパーマーケットやコンビニだけでなく、それ以外のところでも食品は買えます。外食、EC、最近は宅配も増えました。変わったところでいうと映画館のポップコーンも食品の供給です。いろいろなところに食品があるので、出口がひとつではなく多様で形態が違うという難しさがあります。次に、アイテムが多い。世の中には20万近いSKU(Stock Keeping Unit:受発注・在庫管理を行うときの最小の管理単位)があると言われていますが、食品は回転が速く、新商品もどんどん出ます。同じものをずっとつくり続けるメーカーと違って、数ヵ月で入れ替わる商品を間違いなく管理していく難しさがあります。
それから時間の指定です。どの業界でも時間指定はありますが、特にコンビニエンスストアでいうと、お弁当はお昼前に持って行かなければ意味がない。スーパーも買い物に行く時間帯に合わせて品出しをしなければなりません。そして一番難しいのは、賞味期限、消費期限の問題です。これは自動車やアパレルにはない問題で、期限の間違いは健康被害リスク、大きなクレームにつながります。

秋葉:口に入れるものですし、命にかかわる問題でもあり、しかも、必要なタイミングで必要な量をそろえておくことが求められています。全国どこにおいても。

田村:こうした難しさに加えて、取引先が多いため与件が全部違います。標準化と一言で言っても、スーパーだけでも一括りにはできません。また、細かい単位での出荷が求められるのでピースが多い。ピースというのは一商品の最小単位で、ピースがいくつかまとまったものをボール、ボールがいくつか入ったものをケースと呼びます。例えばビールの6缶パックがボールで、1缶がピースです。大手であればケースで出せますが、ピースで出すスーパーもあります。ピースで出すお店には発注単位をまとめてもらうようにお願いしますが、小売によって売り方も異なりますので、それも尊重しなければいけません。
今申し上げたような要素から、食品の物流は非常に多くの手間がかかります。消費者あるいは小売業のお客様に向けてある意味手厚い物流をやっていて、裏返すと、非効率という側面がとても大きい業界だと思います。

働き手の不足は業界全体の課題

秋葉:どこの物流センターでも「人が足りない」「人が集まらない」という課題に直面しています。

田村:当社は直接雇用ではなく、委託先の物流パートナーさんにお願いしていますが、センターを回っていると、やはり人が集まりにくいという話はよく聞きます。大丈夫なところは10件のうち1件くらいではないでしょうか。外国人も多く、ベトナム、フィリピン、インドネシア辺りの方々を、技能研修生を含めて大勢雇用しています。

秋葉:自動化設備を導入するよりも、やはり人を採用するほうが先なのですね。

田村:ラインも全部自動化できればいいのですが、最後に「ピックして箱に入れる」ところはどうしても人間系業務になります。やはり人間は速いし正確です。物を揃えるとか、荷物を入れた箱を段積みするところは自動化できるのですが、「ピックして入れる」という単純な作業のところが、最後まで倉庫で残る人間系だと思います。これはおそらくROI(「Return on investment:投資収益率)」が出ていないという以前に、技術的にまだ難しい気がします。

秋葉:過去の勤勉な日本人が働いていた頃の物流品質や作業生産性と、現在の生産性を比較するとどうですか。

田村:過去が実際どうだったのか正確には分かりませんが、私はそれほど変わらないと思っています。
日本の現場は人間系のノウハウと機械の組み合わせが主流だと思います。
日本で庫内の機械化や自動化がアメリカに比べて遅れてしまったのは、作業員の能力に頼っていたからです。ほとんど職人芸のような人が必ずどの現場にもいて、そういう人たちがうまく庫内をコントロールして、品質を担保してくれていました。一方、アメリカでは英語が通じない移民の方が多いので、例えば言葉に頼らずランプの明かりで知らせるといった方法で、自動化、機械化が進んできました。そういった背景があるので、徹底したシステム化が進んだのだと思います。

社会インフラの役割を担う食品卸

秋葉:扱っているものが食品なので、事故が起きると大変なことになります。三菱食品として会社に対してのインパクトもあると思いますが、お客様に対しても大きなものがありますよね。

田村:それは大きいですね。先入れ、先出しが原則なので、日付の逆転のような事故は一番やってはいけないことです。流通加工の話をすると、フローズンで入ってきたものをチルドに変える「フロチル」と呼ばれる作業があって、チルドに加工した人が生産者という扱いになります。三菱食品もフロチルをやっていますので、私たち自身が一義的な責任を負う立場にいます。例えばフロチルの手順を間違えて逆にしてしまった、間違った日付を印字してしまったその瞬間に、我々自身の一義的なリスクになります。ですから、メーカーとしての顔、立場、意識というものを持っていないといけないと思っています。

秋葉:いろいろな物流を経験されてきた田村常務から見て、食品ならではと思うことはありますか。

田村:やはり取引先の多さですね。日本で売上1兆円を超える食品メーカーは数社で、その他の食品メーカーの規模感はそれほど大きくありません。また、日本に十何万社の食品メーカーがあるので、まとまりには限界があります。その状況は小売りにおいても同様です。
ローカリティが高いということは、川上も川下も、規模感の小さなプレイヤーがたくさんいるということ。その中では、川中の役割が相対的に大きいのです。アメリカはメーカーが大きく、ウォルマートのように小売りも大きいので、中間の機能、役割があまりありません。日本は、この食品業界の産業構造ゆえに、中間に存在価値があります。間にいて、時間と空間を超えて商品を供給するという、ロジスティクスの教科書のようなことをする機能を担っています。他の産業界だと、もっとメーカーが強かったり、小売りが強かったり、アパレルSPA(Specialist retailer of Private label Apparel:製造小売業)のようにメーカーと小売りが合体したり。そのような業界が多い中で、中間流通の意義がある世界だというのが、食品業界の特徴です。

秋葉:ある食品会社の仕事をさせていただいたとき、会社の知名度に対して売上規模が小さく、意外に思ったのを思い出しました。扱っている商品の種類が多く、パッケージも違うし、SKUも非常に多いという経験をしました。いつでもお店で欲しいものが手に入るのは、食品卸のおかげです。

田村:食品でもう一つ大変なのが「社会インフラ」という側面で、これは食品に特有の役割です。自然災害が起きた時、お店に物を並べることは社会的使命であり存在意義の一つです。着るものは3日ぐらい変えなくても平気ですが、食物が3日ないと生命に関わります。

秋葉:そこですよね。嗜好品であるアパレルが明日届けようと一生懸命やっていますが、使う側はそれを本当に望んでいるのでしょうか。災害が起こったときに初めて、食べ物や飲み物が棚に並んでいないことに気づく。だからこそインフラなのでしょうね。

50年来のテーマである物流の標準化

秋葉:最近、標準化について議論をさせてもらっていますが、カゴ車の種類がすごく多い。納入先の条件がいろいろあって、それに合わせてカゴ車を使っていくととてつもない種類になります。三菱食品さんでも扱っているカゴ車の種類は増えていますか。

田村:多いですね。受ける荷主、小売側の事情に合わせた形での納入がやはり求められます。標準化の問題はキリがありません。実は、いつ頃からこの議論をしているのか調べたことがあるのですが、日本で最初に物流というテーマが公的な文書で表に出たのは1966年で、当時の産業構造審議会の流通部会が「物的流通の改善について」という報告書を出しました。これが「物流」という言葉がオフィシャルに出た最初のものだと思います。その報告書には、大きな打ち手が二つ必要で、一つが「パレットの標準化」で、もう一つが「包装、パッケージの適正化」と書いてあります。要するに、今と同じことを言っているわけです。器の部分をどうするのかと、50年以上議論していて何も変わっていない。これは深刻な問題です。
ただし、今申し上げたように、得意先の事情、ニーズに合わせて器を決めなければいけません。それから配送、スケジュールを決めて、それに合わせたセンター運営をする。このような特定の小売り向けの閉じたサプライチェーンがいくつも出てきたのは、部分最適の積み重ねがあったからです。これがある意味で、日本の物流の品質の良さだという言い方をされてきました。それが限界になってきて、今度はサプライチェーンを閉じた形からオープンにしていかざるを得ない。今、ちょうどその転轍点、切りかえの時期にきているのだとつくづく感じています。

秋葉:食品卸の機能はインフラだという考えのもとで仕事をしていても、小売業やメーカーも含めてそう思ってくれないと一つの標準にはなかなかできませんよね。インフラである以上、個社ごとのサプライチェーンではもう成り立たないのではないでしょうか。

田村:ここは議論があるところで、究極的にいうと、経済産業省が進めるフィジカルインターネットの話になっていきます。もちろん企業間の競争が大前提なので、企業が自分の企業価値を上げていくために、必要なところで共同化、共通化をしていくというのが原則です。ところが今は、全部一緒にしてしまえという議論になりがちです。これは注意が必要です。我々は上場企業で、株主に対する責任もあるので、何でも他と一緒にやりますとは言えませんし、競争して勝ち残ることが大前提だと思っています。そのために必要なところを誰かと組んでやっていく。食品業界の共同物流の歴史は長く、我々も共同配送をやっていますし、センターの共同化をやっているところもあります。競争を前提にしながら、できるところを共同でやっていく。最近の言葉で言うと、「水平の形での共同化」です。
もう一つが「垂直の形での共同化」で、卸と小売の協力関係をどうしていくかです。2024年問題も含めて配送が厳しくなってくる中で、メーカーが我々に対して与件の緩和を求めています。例えば「リードタイムを長くしてほしい」という要求であれば、小売りも巻き込みながら、発注のタイミングや締め時間を変えることでリードタイムに余裕を持たせて、持続可能性を担保しなければなりません。一方、我々のほうからメーカーに言わなければならないこともあります。例えば、「パレットを使ってください」といったことです。
縦のサプライチェーンにおける共同化や効率化で難しいのは、利害相反していること。相手が何かを譲ったら我々も譲らなければいけません。この辺が、縦のサプライチェーンの効率化の難しさです。このままだと物流が立ち行かなくなる可能性があります。お互いに譲るということを、これから皆で真剣に考えていく時代だと思っています。

秋葉:パレットの標準化ですが、小さいメーカーはなかなかパレットにしないものなのでしょうか。

田村:業界によります。パレットに積まれてきたら、パレットにRFID(radio frequency identification:無線通信で読み書きする自動認識システム)を付けておいて、そのまま検品し、倉庫に入れて保管できます。出荷時はパレットから降ろさなければならないので、自動のデパレタイザー(パレットから降ろすロボット)を入れています。パレットが活用できれば、情報の共有ができることで、業務自体を効率化できる可能性があります。「そこからですか?」と言われてしまいそうですが、そういう業界なのです。

秋葉:難しさがある一方で、改善の余地もものすごくありますよね。個社がそれほど大きい会社ではないので、どれだけ日々のお金を使うことができるかだと思います。

田村:おっしゃるとおりです。パレチゼーション(商品をパレットに載せて荷役・輸送・保管まで行う物流システム)は50年来のテーマなのでお話ししましたが、そういうところは市場メカニズムに任せないで、場合によっては国や公のお金を使ってやっていく余地があるかもしれません。

秋葉:レンタルパレットの大手3社はどこもRFIDを付けています。レンタルパレットにするとどれくらいエネルギー消費量を減らせるか、JPR(日本パレットレンタル株式会社)が数字を出しています。

田村:レンタルパレットのシェアはまだ小さく、圧倒的に自家パレットが多いのが現状です。パレット業界のメインがレンタルパレットであれば、大手3社と組めば何でもできますが、まだ1~2割です。

秋葉:確かにそれで商売できるかというとまた別の話ですよね。商売できている会社はそれがブランド価値になるので逆にやりやすい。そうではない中小の会社からすると、そもそも日々の話をしているのであって、ブランド価値はその先です。ここはなかなか解決できないと思います。

過去のトークセッション

土地活用ラボ for Biz アナリスト

秋葉 淳一(あきば じゅんいち)

株式会社フレームワークス会長。1987年4月大手鉄鋼メーカー系のゼネコンに入社。制御用コンピュータ開発と生産管理システムの構築に携わる。
その後、多くの企業のサプライチェーンマネジメントシステム(SCM)の構築とそれに伴うビジネスプロセス・リエンジニアリング(BPR)のコンサルティングに従事。
2005年8月株式会社フレームワークスに入社、SCM・ロジスティクスコンサルタントとしてロジスティクスの構築や改革、および倉庫管理システム(WMS)の導入をサポートしている。

単に言葉の定義ではない、企業に応じたオムニチャネルを実現するために奔走中。

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