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コラム No.27-90

サプライチェーン

秋葉淳一のトークセッション 第1回 ビジョンを持ち、ワンチームで取り組むことで新たな自動化倉庫が完成花王株式会社 チーフデータサイエンティスト 田坂 晃一 × 株式会社フレームワークス 会長 秋葉淳一

公開日:2023/10/31

豊橋工場を生産・物流機能一体型サプライチェーン拠点へと変革

秋葉:2023年3月、花王の豊橋工場に完全自動化が可能な新倉庫が完成しました。大和ハウスグループもパートナーとしてお手伝いさせていただいていますが、反響はいかがですか。

田坂:今回の新倉庫は想像以上に反響がありました。この倉庫をパッケージ化して社会的価値を出した上で広がっていき、「あれは最初に花王がやったんだよね」と言われるようになって、花王のファンが増えてくれたら嬉しいですね。

秋葉:そもそも今回のプロジェクト、田坂さんはどのようにしてかかわるようになったのでしょうか。

田坂:始めからお話ししますと、私は2019年の6月末まで経済産業省に出向していて、7月に花王に戻ってきました。当時はコロナ禍前で、豊橋工場はPN棟(新生産棟)を立ち上げて生産のボリュームも上がっており、多品種少量生産をレベルアップさせている頃でした。製造の生産能力が上がってきて、物流の保管能力を上げるために外部倉庫を複数借りて運用していました。そのためキャッシュアウトやCO2排出量が多く、オペレーションも複雑化しており、複数の倉庫を借りて全体をコントロールするのは、物流の指示や管理も含めて大変になっていました。 工場側から、「このままいくと、物流の負担が大きくなってくるので、現状の工場物流を見直したい。工場内への倉庫建設へ協力してほしい」という要望がロジスティクスセンターに届き、当時私がロジスティクスの企画系業務を行っていたため、私と数名で検討を進めることになりました。

私が最初にやったことは、将来本当に必要な在庫はどれくらいなのかを検討することでした。検討当初は大規模な倉庫が本当に必要なのか、投資を抑えたほうがいいのではないか、という意見を持った方もいました。確かに投資をするということは、非常に大きな決断ですし、その投資金額以上に花王としても社会としても価値を見出す必要があるので、その意見も理解できました。そこで、デマンドサプライのマネージャーと、工場に必要な在庫レベルをもっと下げられないのか議論を重ねました。私は、そもそも論が好きなのもありますが、「本当にその倉庫がいるのか」というところから、自分がしっかり腑に落ちないといけないと思ったからです。その結果、サプライチェーン全体を見て今回建設した規模の倉庫が必ず必要になると結論できましたので、しっかり必要性を説明して、投資を承諾してもらおうと活動を進めていました。

倉庫の必要性については、めどが立ってきた次は、どのような倉庫にするかという検討を行いました。実は、倉庫内の設計検討の開始時は、自動化レベルについて、ケース仕分けは自動化したいが、倉庫が稼働してから数年後に導入すればいいくらいにしか思っていませんでした。なので、自分の提案も「自動倉庫建設と稼働後にロボット入れて自動化を進めるべきです」という内容にしていました。この提案でもきちんと資料は準備して当社SCM責任者に提案したつもりですが、本当にこの提案がベストなのかという問いがありました。確かに、将来のサプライチェーンをどうしたいのか、豊橋工場をどうしたいのか、ということまでよく考えられていないと気づかされました。今後自分がこの案件にかかわっていく際に、将来どうしたいのか、自分はどうすべきだと思っているのか、自分はその当時にベストな提案をできているのか、という解を持てるようにしないといけないと思うようになりました。

秋葉:最初からSCM責任者は将来を見据えていたのですね。

田坂:そこで、そもそも工場だけで考えていたのを、生活者視点で日本全体のことを考えた時にどのようなネットワークが必要なのかを考え始めました。一回工場倉庫のことは置いて、豊橋工場でつくったものを全国に送るためにはどうしたらいいのか、そのために中部エリアはどのような拠点構成であればいいのか、中部エリアにあるいくつかの拠点を含めて本当に倉庫がいるのか、拠点再編した時に最適なネットワークはどうなるのかなどを考えました。その結果、工場の物流機能を強化して、生産と物流を一体化する方針が一番いいという結論になり、さらに一体化する上で、将来の労働力不足を見越して自動化を目指すことにしました。当初ある程度は人でやろうと設計していた部分を、2020年下期に今のロボットとAGVでケース仕分けを行う設計にしました。一度通らなかった提案を、将来のビジョンを含めた自動化に内容に変えて提案したところ、「提案が面白くなった。ぜひ進めるように」と言っていただきました。そこからRFP(Request for Proposal:提案依頼書)を作って各社に提案を依頼しました。当初の計画を上回りましたが、花王が指標とするEVA(Economic Value Added)をきっちり出して効果があること、経営的にも必要だということを説明して、社内決裁をいただきました。

秋葉:現在のかたちをはじめからイメージされていたのですか。

田坂:さまざまな方法を検討しました。いろいろな企業と意見交換を実施したのですが、多くの企業からは「コンベヤーを入れたほうがいいのではないか」と提案を受けました。ただ、それでは将来性があるのか不透明ですし、面白くないなと思っていました。コンベヤーやケース自動倉庫は間口の量、能力が決まってしまいフレキシブルではなくなってしまいます。移転するにも大変ですし、既存の拠点などにも展開が行いにくいかなと。

秋葉:固定設備ですしね。

田坂:固定設備は使えるところではいいのですが、この倉庫はマルチテナントやすでにオペレーションをしている工場や物流拠点にも展開したかったので、花王としてはフレキシビリティを追求すべきだと考えました。他ではまだどこもやっていませんし、それが実現できれば世の中での価値が高くなります。花王には今まで培ってきた技術やエンジニアのノウハウとともに運営する能力もあります。そこに提案していただいた企業の能力を組み合わせれば実現できるのではないか、という結論になりました。

秋葉:物流業務を請け負う会社からすると、チャレンジするのはとても難しいことです。コンベヤーやソーターを使うと、それが制約になってしまうのですが、制約になるからこそ100点が取れます。自由度、フレキシビリティがある中での100点は難しいですから。

田坂:そうですね。100点は取れるけれども、制約など決まってしまっているので120点は取れません。今回は工場の目の前にLC(Logistics Center)があるので、取り込もうと思うだけ取り込めるようになっています。例えばAGVを数台追加して、取り込む能力をさらに増やすことができます。

「豊橋コネクテッド・フレキシブル・ファクトリー」

秋葉:「豊橋コネクテッド・フレキシブル・ファクトリー」は、プロジェクトの開始と同時につくられた構想ですが、クリエイターのような上手な発想ですね。キャッチーな言葉は独り歩きするので、とても大事だと思います。

田坂:ニュースリリースに出している「豊橋コネクテッド・フレキシブル・ファクトリー」という言葉自体は当時の工場長がつくったものです。ビジョンのイメージや具体的なアイデアについては、工場メンバーが課題ややりたいと思っていることと自分の考えていることを組み合わせて策定しました。ビジョンを示して活動すると「それを目指してやろう」というモチベーションが上がっていくので、やはり大事ですね。最近では、「倉庫を稼働させた後のコネクテッド・フレキシブル・ファクトリー実現に向けた次の活動は?」と言われ始めています。「どうやってサプライヤーから消費者までつなげるの?」という問いに対してこれまではビジョン先行で考えていた部分もありましたが、隣接する物流施設との一体化やサプライチェーン計画の連携などをある程度具体的に見えてきた部分もあり、ビジョンの実現に向けた活動を進めています。
生活者のニーズに素早く対応するような生産と物流、サプライチェーンをつくる。最近では、SNSの情報を活用して需要予測などにもトライしており、そうした生活者の行動とうまくつながったサプライヤーからの調達計画、生産計画、物流計画を立てて、きちんと実行する。変化が起こった時には、計画を変化させて実行する。これをスマートに実現するのが豊橋コネクテッド・フレキシブル・ファクトリーです。新倉庫からすると計画変更に合わせたオペレーションの最適化が必要になってきますが、これをどうやるかという問いに対しては、WCS(Warehouse Control System)周りはフレームワークスさんに構築いただいているので、対応ができるかたちをとっていただけるかなと思っています。

秋葉:それは「やれと言われたことに対してやる」という実行ですよね。やはり重要なのは「その前のところをどうやるか」という計画の部分だと思います。

田坂:計画系ではいろいろ活動しています。需要予測制度の向上や、需要計画と供給計画をインテグレートさせて一体化させたりするなど、われわれの部署でいろいろな活動をしています。そこをうまくつなげることは、メーカーとして、メーカーのサプライチェーンとして絶対にやるべきことなので、高度化を進めています。「その計画を変更した時にどうする」というところが、次の実行系になってくるところです。実行系がないと机上の計算になってしまいます。今回のKTSプロジェクト(花王豊橋スマート化プロジェクト)で実行系の良いかたちがつくれているので、それをもう少し広げたり、計画系とつなげたりということを、現在進めています。

秋葉:今は最小が段ボールケースですが、もう1段階ピースまでいきたいですね。

田坂:豊橋のLC側にスペースを用意して、オーダーがきたら、ロボットが必要なケース単位で運んで、小さいロボットでピースピッキングをして、梱包して、出荷する。運送会社のネットワークと組み合わせて、最短最小のコスト、負荷で、環境にも配慮して運ぶ。これが豊橋コネクテッド・フレキシブル・ファクトリーで実現するひとつのかたちです。

秋葉:複数のSKUの段ボールケースが自動で積まれるところまできましたね。

田坂:この自動化の部分に関しては先行してうまくできたので、ECも含めてほかもやっていきたいですね。これを横に展開して、より細かくしていって、計画につなげていく。それぞれの活動について、点と点を線で結びつけることが必要で、どちらが遅れてもいけないと思っています。私は今、SCM部門のデジタルイノベーションプロジェクトという部署に所属しており、サプライチェーンの高度化を図っていく活動をしっかり進めていきたいと思っています。

現実の世界でトライをして、フィードバックを繰り返す

秋葉:基本的には倉庫を無人で動かすので、トラブルが起きた時にリアルタイムでどうやって把握するかが重要です。ドライブレコーダーのように、そうなるまでの経緯をどうやって追いかけるかということです。経緯の中にはカメラに映る状態もありますが、他にも何か情報としてとれないか検証する必要があります。それで、センサーやカメラを付けてのPoCの提案をしました。それによって、田坂さんたちが豊橋工場でチャレンジし、そこで培ったものを次の拠点で展開していく時に、監視をした状態というものが分かった上でどうするべきか考えることができます。
PoCをするにあたり、今回実現はできませんでしたが、本当は稼働前にカメラやセンサーを設置したいと考えていました。皆が努力してトラブルが起きない状態になると、トラブルの現象はわざと起こさない限りなかなか分かりません。一方、稼働前にはいろいろなことが起こるので、機械学習的な情報が取れるはずです。現段階では、まずはできることとして、ケース等が落ちていない正常な状態との差分を認識させようと思っています。

田坂:今までは人がいる倉庫が前提で、人はやはりフレキシブルに動くので何とかなるのですが、機械だとそれが何ともならない。リカバリーも実態の把握もしないといけないので、より高度な管理を人がいなくてもできるように考えないといけません。秋葉さんからPoCの提案をいただいて、人がいなくてどうやってより高度に管理するのか具体的に見えてきました。今のトラブルの話もそうですし、危険を予測する仕組みによってトラブルになる前に分かるということも含めて実現すれば、おそらく世の中の環境は変わっていきます。出荷するオーダーの特性も自然と変わり、ロボットやAGVの生産性が落ちたり上がったりするかもしれないので、その辺も理解したいですね。それが全部できると高度な拠点の運営になります。
将来的に、10年後、20年後は自律的な管理になると思います。今はオートメーションですが、オートノマス(自律的)な世界になっていくはずです。オーダー順を自動で組んで生産性を維持し、コストをカットするような、そういうことを自動でやってくれるかたちに最終的にはなっていくと思うのですが、その一歩前の自動化で、人がいなくてもずっとうまくできる、トラブルになる前に人に伝えるということができるようなかたちを早急に作りたいですね。うまくいけば今年中か来年には完成すると思います。

秋葉:とても面白いと思います。カメラの価格も下がってきましたし、AIカメラといって、カメラ自体にソフトウェアを組み込んで、そのソフトウェアをリモートで変更することもできます。そうすると、ひとつのカメラに複数の役割を持たせることができるし、動画をすべて通信する必要がなくなります。こちら側で切り取って必要な情報だけ上げることができるので、そういうものを使いながらやりたいと思っています。それには私たちだけでは実現できませんし、実際のお客様である田坂さんたちにも入っていただいて、「この状態ってどう?」という議論ができないと賢くなっていかないし、勝手に進められる話ではありません。

田坂:花王も任せられないタイプの会社なので、「どうしてそうなるの」「こうしたほうがいいんじゃないの」と口を出してしまいます(笑)。シンプルに任せたほうが負荷は下がるのですが、われわれが今まで蓄積してきた知見や、秋葉さんのところから学びたいというメンバーもいるので、そういったところがうまくコラボレーションして、現実の世界でいろいろなトライをして、フィードバックをしていくことを繰り返しできるのは、われわれにとっても大きいですね。
私たちは今後も新しいものやチャレンジに対して否定することはなく、やってみましょうというスタンスでいたいと思っています。少なくともプラスのメリットが大きそうだと思えることを提案していただけますし、この拠点だけで使うものではない、また花王だけでなくほかでも使えるという提案なので、世の中の価値を創造する活動に積極的に参画したいと思っています。

秋葉:あえてオープンにするということではありませんが、クローズドにしていないですよね。WCS(Warehouse Control System)のベースにフレームワークスのパッケージを使っていただいていますが、当然それを流用して他で展開していくでしょうし、ご一緒した他の会社もそこでの経験を伝えることを良しとされています。私は、この「あえてオープンではないけれどもクローズではない」というところが大きいと思っています。

田坂:それはありますね。花王の技術部隊、エンジニア部隊が作った技術が世の中に広がることが、プロジェクトメンバーが仕事をした意義、幸福感にもつながると思っています。

過去のトークセッション

土地活用ラボ for Biz アナリスト

秋葉 淳一(あきば じゅんいち)

株式会社フレームワークス会長。1987年4月大手鉄鋼メーカー系のゼネコンに入社。制御用コンピュータ開発と生産管理システムの構築に携わる。
その後、多くの企業のサプライチェーンマネジメントシステム(SCM)の構築とそれに伴うビジネスプロセス・リエンジニアリング(BPR)のコンサルティングに従事。
2005年8月株式会社フレームワークスに入社、SCM・ロジスティクスコンサルタントとしてロジスティクスの構築や改革、および倉庫管理システム(WMS)の導入をサポートしている。

単に言葉の定義ではない、企業に応じたオムニチャネルを実現するために奔走中。

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