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コラム No.27-87

サプライチェーン

秋葉淳一のトークセッション 第1回 すべてにおいて「データ」がカギを握るIoTNEWS 代表 小泉 耕二 × 株式会社フレームワークス 会長 秋葉淳一

公開日:2023/07/31

データ次第でChatGPTは優秀な部下になる

秋葉:今日は、ChatGPTなど、最近話題になっていることについてもお話ししていきたいと思います。小泉さんはウェブマガジン「IoT NEWS」の代表をされているだけでなく、ニュースやトレンド解説などテレビ・ラジオにも数多くご出演されています。IoT NEWSの立場から見て、物流にはどのような印象をお持ちですか。

小泉:IoT NEWSは、先が見えない世の中に備え、経営をデジタル中心に再定義する企業のためのウェブマガジンです。来るデジタル社会に対して、ビジネスパーソンや生活者はどのような備えをしなければいけないのかお伝えしています。
IoT NEWSではカテゴリー分けをしていないので、「物流だから」ということはありません。逆に、物流だから物流分野しか見ないという見方はやめてほしいと思っています。例えば農業や製造業にも物流のヒントがあるのに、皆自分の業種しか見ていません。秋葉さんもご存知だと思いますが、実際は、自動化機器は製造業と同じものを物流でも使っている場合が多いですし、スマートシティで使われているカメラが物流の現場で使われているケースもあります。

秋葉:確かに、自動化や映像などの技術は、さまざまな業界で使われているものばかりです。今デジタル業界では、ChatGPT、生成AIが非常に大きな注目を集めていますね。

小泉:ChatGPTは、まだそれほど実用レベルではないと私は思っています。去年の秋頃ChatGPT3.5が出てきて、皆が驚いたのは返答の人間らしさであって、実は中身ではありません。返答が人間らしいのは、ChatGPTのエンジンが元々持っている特性です。分かりやすく言うと、人がするであろう身のこなしのようなものをうまくつなげていけば、それらしい人間の言葉になります。だから嘘もつきます。例えば上司に怒られている時、ごまかそうという気持ちが働いてもっともらしいことを言ったりしますよね。ChatGPTも同じで、怒ると、「すみませんでした。気をつけます」と答えたりします。

秋葉:ChatGPTはコマンドのやりとりが秀逸です。

小泉:これはプロンプトと呼ばれる世界で、要は、聞きたいことを機械が理解しやすいように書いてあげることです。そうすると結局プログラムのようになってしまいそうですが、そうではなく、普通に話すような感じになっています。人間は嘘をついたり、適当なことを言ったりしてごまかします。例えば、秋葉さんから物流におけるIoTはどうなっているかと聞かれたとき、私がいろいろなところで喋ったり聞いたりした文脈を一生懸命つなぎ合わせて、「こう言ったらきっと喜ぶだろう」と考えて話をするのと同じで、ChatGPTもそういうことをやっているわけです。そのため、つなぎ方が下手だと失敗してしまいます。
これを正確にするのがプロンプトという存在です。例えば、聞いてほしいことを箇条書きにする、スプレッドシートにまとめる、何字以内で書くなど、ある程度制約を決めたほうが答えはシャープに出るという発想です。ビジネスで使用すれば、優秀な部下がいるような感じになります。「ちょっとこれやっておいて」と言えば、「やりましたよ」と出てくるのが究極的な姿だと思います。

秋葉:例えば「報告書を作っておいて」であれば、フォーマットも決まっているのでとても簡単にできそうです。

小泉:フォーマットを教えて、どこにどのようなことを埋めたらいいかAIが理解すれば、さっと動いてくれると思います。企業にあるデータの意味を教えて、データの中でラベリングを行う。データが溜まった時、「今月の売上報告を部門別でまとめてスプレッドシートにして、部長にメールで送っておいて」と言えば、データを集めてきて、サマリーにまとめて送ってくれる。これがビジネスの現場でのChatGPTが最も活躍する場面だと思います。
企業に眠っているデータがきちんとラベリングされて整理されていれば、より優秀な部下になるでしょう。しかし、データが保管され整理されていないと、ChatGPTであっても、議事録を取ってまとめてくれるぐらいの部下にしかなりません。要はAIという部下を使いこなせるかどうかです。この使い方の場合、まずは企業に存在しているデータが整理されていないと、AIがとても役に立つところまで至らないのではないかと思います。

秋葉:使う側の意識もありますが、データの状態を含めた環境が非常に大事だということですね。

小泉:とても大事ですね。

秋葉:今DXをどう進めるかが、さまざまな企業にとって大きな課題となっていますが、ChatGPTのような生成AIを取り入れようとしたところで、きちんとしたデータがないとそもそも無理です。「まずデータが必要だ」というイメージを持てない企業や経営者も多いようです。データの整備にはお金がかかりますが、今やらなければならないと思うのです。

小泉:新しいAI、新しいシステムを取り入れたくなるのは、それが分かりやすいからです。人間はどうやってやるかという「How(使い方)」は理解しやすいものです。ところが、「Why(なぜ、使うのか)」を問われると答えに窮します。これは経営者も然りです。2050年ビジョン、2030年ビジョンといった、こうしたいというビジョンはあるのだけど、「そのビジョンに基づいて実行するために、一体どのようなデータが必要だと思いますか、それはなぜ必要ですか」と問われると、ほとんどの人が答えられません。データを語れる経営者も少ないと感じています。これは、そもそも何のデータを見たいか、データが提示されることで、どういう意思決定につながるのかが明確にできていないためです。

秋葉:DXについても同じですね。

小泉:すべてにおいて同じです。生産性改善であろうが、自動化、業務プロセスの改善、サステナビリティ、レジリエンスであろうが、煎じ詰めればすべてにおいて「データ」です。ところが、どんなデータがどんな意思決定につながるのかが明確にならないため、何を目標にデータを取得しているのかがいまいち分からない。そこが大きな問題なのだと思います。目標を立てる際も、「このデータを何%上げる」と決まれば、データをどこから引っ張ってくるかがはっきりして、そのデータをどれだけ改善すれば会社が良くなるのか明確になります。一方で、目標としているデータが、売上など単純なデータでは、具体的な意思決定に関係するデータ間の依存関係がつまびらかになってないから、結局いくらデータを取得したとしても、使われないのです。
DX、脱炭素と、次々と言葉が出てきますが、けっきょくは同じことを言っています。例えば、物流倉庫で脱炭素をやろうと思えば、それぞれのプロセスで使うエネルギーの量や、人の活動を可視化しなければなりません。それは、とりもなおさず生産性改善のための可視化にも使えるデータとなるでしょう。そんなことは明らかなのに、違う角度からいろいろなことを言うので、皆「今度はこれがきたか」となっているだけで、実は「データ」で見れば単純なことなのです。

デジタル化を阻むのは人間

秋葉:二酸化炭素の排出量削減で大事なのは、倉庫内よりも一番は輸配送のところです。しかし、未だにトンキロ法でやっています。雑すぎますよ。どれだけの重量の荷物をどれだけ距離移動させたかで測るのが今までのやり方で、トラックを空で走らせたら排出量はゼロ。そんなわけがない。ここを整理しなければならないのですが、それぞれの業界団体の人たちがいろいろなことを言うので整理できません。

小泉:物流だけがトラックを使うわけではないので、本当は標準的な基準がなければいけないのに、あいまいになっていますよね。少しずつ整理しようとする動きはありますが、それが社会全体に浸透して、車の移動に対して同じ物差しで測れる日はいつ来るのでしょうか。

秋葉:精緻にやるのは難しいと思いますが、もう少し何とかしたいですね。Scope3(※)が始まって、Scope2まで報告義務になりましたが、義務化されたことがまだまだ浸透していませんし、データが明確ではありません。

※サプライチェーン排出量は、自社内における直接的な排出だけでなく、自社事業に伴う間接的な排出も対象とし、事業活動に関係するあらゆる排出を合計した排出量を指す。参考サイト

サプライチェーン排出量=Scope1排出量+Scope2排出量+Scope3排出量

小泉:電子帳簿保存法もすでに執行されているのに、相変わらず紙があふれています。デジタルに対するアレルギーがあるのか、他のルールにはシビアなのに、ことデジタルに関するルールに対しては、「デジタルはちょっと分からない」が社会全体としてまかり通っている気がします。

秋葉:未だに請書を印刷し判をついてスキャンして送ることが行われています。

小泉:スキャンして送れるのであればまだ脱炭素ですが、郵送したらどれだけのCO2をまき散らすか。印影に意味があると言う人もいますが、印影なんていくらでもどうにでもなります。

秋葉:それよりデジタル上の動きをきちんと管理したほうが、よほど意味があります。

小泉:電子化の話はあふれているし、国も頑張ろうとしていますが、けっきょくデジタル化を阻んでいるのは人間です。先ほどの、経営トップがビジョンを語る時に数字で話していないことから始まって、紙の契約書、これまでの慣習を守るといった発想もそうです。すべてにおいて人が邪魔しています。本気でヤバイと思っていないのでしょう。昨日まで普通に動いていたのだから、べつに今日デジタルに変えなかったからといって困りません。
DXが話題になるきっかけとなった、UberやAirbnbといったディスラプター(破壊的企業)の登場によって初めて、今までのタクシー業界やホテル業界が、このままでは大変なことになると気づいたわけです。それで日本のタクシー業界はどうしたか。ご存知だと思いますが、規制をかけました。これが最もアナログなやり方です。一方、物流業界は大分前に規制緩和されて、自由化されています。トラック配送事業者は認可制ではなく許可制になったので、登録しておけば、コンビニエンスストアにジュースを運べるわけです。そうやって本来の自由化をしていかないと、競争も起きないし、価格も下がりません。

全体を見据えて何がキーかを把握することが経営者には必要

秋葉:逆に今、物流運送業が約6万3000社(※)あり、働き方改革の話も含めてどうするのか議論になっています。「2024年問題はどうやってやったら解決できますか」という問いに対しては、「無理です。間に合いません」というのが私の第一声です。

  • ※「日本のトラック輸送産業現状と課題 2022」公益社団法人 全日本トラック業界

大手荷主企業が思う2024年問題や脱炭素の話と、中規模の運送会社が思っているそれとではレベル感が違います。大手の荷主企業は、そうは言っても2024年問題は何とかなるだろうと思っていて、それよりは会社としてのブランディングも含めて脱炭素を一生懸命やらなければいけない。しかし、運送会社には目の前の話です。中には、自分の会社を子どもに事業承継するかどうか悩ましいタイミングのケースもあります。
本当に必要なのは、先ほど小泉さんが言ったように、脱炭素も含めてどうやって効率化するかです。トラックの台数ではなく全体をどう効率化するかに取り組めば、自ずと炭素の排出量も減っていくと思うのですが、まったく違う次元で議論されている。これもおそらく数字で示せないからなのでしょうね。

小泉:中身も分からず脱炭素という目しか持たない人には、それとプロセス全体の効率化が同じ話には思えないのでしょう。日本企業の業務部門のマネジメントの多くは企業経営に必要なビジネス知識の学習ができていないと感じております。アメリカの大企業はだいたいMBAを持った人たちが経営層にいくので、経営の基本となる要素を理解しているし、製造部門であってもトップがマーケティングの話を理解しないということにはならないでしょう。日本の場合、たたき上げで昇格するケースも多く、ベースとなるビジネス知識があまりない人が多いと思います。

秋葉:「俺は製造部門代表として喋っているんだ」と言うような人ですね。

小泉:「私は製造のことは分かりませんが、営業部長として言いますと」と、はじめに言う人がいますよね。会社の役員や部長は会社全体を見るべき立場で、製造のことが分からないのであれば勉強するべきです。それを知らずになぜ経営を語るのでしょう。

秋葉:確かにそうです。

小泉:四半期決算とか数字の部分ばかり米国型を取り入れて、本当に大事な人材のところは学ばないことが多い。それで、自分たちがつくったカンバン方式をサプライチェーンマネジメントとして逆輸入して、前からやっていることなのに、誰も何の疑いもなく「アメリカってすごいな」と言ったりします。また、ERPのシステムを導入する際も、その役割を超えて、細かいプロセスまで全部制御しようとする。現場には現場にふさわしいシステムがあることを知らないからです。例えば、経営に近いレイヤーは、確かにSAPでやったほうが効率的だし、全体が分かる。でも、細かなデータをどうコントロールするかは、現場のシステムでやろう。そうやって一つひとつのことをそれぞれのシステムが担当して、つないでいって、会社全体が見えてくるものなのに、そういった発想があまりに少ない。

秋葉:構造化すること自体できない人が多いですよね。SAPはもともと会計の仕組みです。会計として帳簿在庫を知りたいというのは分かります。ところが、いわゆる物流在庫をリアルタイムで知りたいとは思っていないのに、全部SAPを介してやろうとして、リアルタイムで店舗の在庫、倉庫の在庫を把握できなくなっているのは、まずいパターンの典型です。それにいち早く気づいたのがヨドバシカメラだと思います。商物分離をして、リアルタイムで店舗で売れたものを把握して、全体在庫が把握できているからすぐに出荷できます。

小泉:最初にECサイトと店舗のポイントカードを紐付けたのもヨドバシカメラですよね。それができるのは、店舗と物流倉庫の在庫がきちんと把握できているからです。

秋葉:当時の副社長で今の社長である藤沢和則さんが、システムと物流がこれからのキーだと分かっていて、自ら勉強したそうです。経営者とはそういうものですよね。

小泉:何がキーか分かっていなければなりません。年明けに、ある製造業のユーザー会で講演をした時、物流の話もしておかなければと思って、2024年問題等について話したところ、会社全体のデータを見ている人から「よく言ってくれた!」と言われました。製造業は工場の中の生産設備の話ばかりしますが、最後に運ばなければいけません。アウトソーシングしていたり自社で物流を持っていたり、いろいろな会社がありますが、最終的には消費者に届けるということを真面目に考えなければいけない、当事者意識がなさすぎると言っていました。つくって置いておけば、誰かが運んでくれると思い込んでいる。ここがデジタルトランスフォーメーションと物流の関係が一番大事なところだと私は思います。

過去のトークセッション

土地活用ラボ for Biz アナリスト

秋葉 淳一(あきば じゅんいち)

株式会社フレームワークス会長。1987年4月大手鉄鋼メーカー系のゼネコンに入社。制御用コンピュータ開発と生産管理システムの構築に携わる。
その後、多くの企業のサプライチェーンマネジメントシステム(SCM)の構築とそれに伴うビジネスプロセス・リエンジニアリング(BPR)のコンサルティングに従事。
2005年8月株式会社フレームワークスに入社、SCM・ロジスティクスコンサルタントとしてロジスティクスの構築や改革、および倉庫管理システム(WMS)の導入をサポートしている。

単に言葉の定義ではない、企業に応じたオムニチャネルを実現するために奔走中。

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