大和ハウス工業株式会社

DaiwaHouse

メニュー
コラム No.27-96

サプライチェーン

秋葉淳一のトークセッション 第1回 「教える」「学ぶ」を誰でも簡単に。Teachme Bizで業務の効率化株式会社スタディスト 代表取締役CEO 鈴木悟史 × 株式会社フレームワークス 会長 秋葉淳一

公開日:2024/04/26

不毛だからやらない

秋葉:鈴木社長は、以前からマニュアルに関わる仕事をされていて、現在は「Teachme Biz(ティーチミー・ビズ)」を中心に幅広く業務を拡大されていますが、どのような経緯があったのでしょうか。

鈴木:私は前職で業務改善のコンサルティング会社にいて、主に自動車メーカー向けのコンサルティングをしていました。コンサルティングの納品物としてシステムを開発するのですが、お客様からはマニュアルも一緒に作ってほしいというリクエストが必ずありました。ところが、システムを開発して納品するのはすごくクリエイティブで楽しいのに、システムの使い方のマニュアルを作って納品するのは苦行でした。

秋葉:昔のマニュアルは紙を大量にファイリングして作っていましたよね。何センチファイルをどれだけ並べるかの世界でした。

鈴木:量で圧倒するような感じで、何冊作るかで評価されていましたね。当時、マニュアルを作るのに、ドキュメントのソフトを使って作成するのですが、手順書を作っていくとどうしても抜けが出てきます。重い画像を貼りすぎて、ファイルが開けなくなり作り直しになってしまうこともありました。
マニュアルを作るのが大変すぎて、ファイリングして納品する頃には達成感でいっぱいになって、もう絶対に直したくなくなってしまう。システムはアップデートしていくのに、マニュアルを直したくないので放置してしまうことになる。お客様から「あのシステムの使い方はどうなっていた?」と聞かれますが、探すのも大変です。

秋葉:それでも知識や手順をきちんと伝承していくには、なんらかのマニュアルが必要です。

鈴木:特に製造業のお客様はやはりマニュアルを必要とします。「マニュアル人間が育つ」「マニュアルに書かれたことしかできない」などと言われる一方で、マニュアルを作ってほしいとも言われ続けました。それは、手順を伝えるということは、人間にとって欠かせないことだからでしょう。
このような「作成大変。改訂大変。閲覧大変。管理大変。」のマニュアル四重苦も、当時はこれが当たり前だと思って過ごしていました。
リーマンショックを経て、この後どうするかを考えた時、ちょうどiPhoneが発売されたのです。ガシェットが大好きな私は発売初日にiPhoneを入手しました。初めて手にしたときに感じたことは、「写真が撮れて、文字が打てて、インターネットにもつながっている。iPhoneだけでマニュアルの作成ができて、閲覧ができて、改訂が簡単にできたらどれだけ楽になるだろうか?」ということでした。
そこで、自分でビジネスを始めようと思い、2010年に「iPhoneでマニュアルを作りたい」と起業し、これが今の「Teachme Biz」へと繋がり、マニュアルの作成はもちろん、共有して組織に根づく運用まで、だれもが簡単にできるサービスを提供しています。ただ、始めた当初は「なんでパワポ、エクセルじゃダメなの?」と言われて、説得するのに苦労しました。

秋葉:頭の中の思考を切り替えてもらわないといけませんよね。

鈴木:はじめはアーリーアダプター(イノベーター理論における初期採用層)にしか響きませんでしたが、今はまったく違います。「PowerPoint、Excelでは作りたくありません。もっと楽にしたいです」という問い合わせが普通に来るようになりました。「iPhoneだけで作れる」というコンセプトでスタートして、初期は私が作っていました。お客様のところに商談に行って、見せて、話を聞いた後、「分かりました」と言って近くのカフェに行って、Xcodeを開いてコードを書いて、「できました」と見せに行く。あれは良かったですね。

秋葉:アーリーアダプターは使ってくれるだけでなく、使った結果のフィードバックをしてくれる人たちです。最初の頃はどのような意見が出てきましたか。

鈴木:Teachme Bizができた当時は社員が6人しかいなくて、海外で使えるか各々試しに行ったことがありました。夫婦でニューヨークに行って、ニューヨークのガイドブックのようなものをTeachme Bizで作り、妻がそれで観光ツアーをしてみました。そうしたら妻が、使い勝手が悪いとか何とか要望をたくさん言ってくるわけです(笑)。妻が出かけて、私はコードを書く。ニューヨークと日本の行き帰りの飛行機でずっとコードを書いていたくらいです。
それが良かったのか、お客様の琴線に触れる機会が増えてきました。最初のきっかけになったのは、「日経コンピュータ」の記事です。編集長が気に入ってくださり、「これからスマートフォンがビジネスの現場で使われるようになる」と、私たちのことが記事になって、その後に大手保険会社との契約が決まりました。当時、その会社は合併したばかりで、システムを統合することになり、事務企画部が社内システムのマニュアルをPowerPointで必死になって作っていたわけです。

秋葉:作るほうも嫌だし、それを読めと言われるほうにとっても嫌です。

鈴木:事務企画部でもなんとかしたいという思いがあり、部長が『日経コンピュータ』の記事をたまたま見て、問い合わせをしてきてくれました。ただし、私たちは6人で始めたベンチャーで、そのシステムを大手企業が採用するわけがないと半信半疑で行ってみたところ、共感いただき、導入していただくことになりました。

秋葉:起業されたとき、元々鈴木さんがやっていた「紙のマニュアルを作り続ける」という選択肢もあったわけで、それである程度売り上げを取れることも見えていましたよね。だけど不毛だと思っていた。一方で不毛だと思いつつもやり続ける人もいます。「不毛だからやらない」ここがまず一つ大きいじゃないですか。それは、自分自身がやっていて本当に不毛だったということですか。

鈴木:不毛ですよね。分厚いマニュアルが完成すると満足してしまいがちですけど、それでは続きません。

秋葉:逆に言えば、どんなに生産性が高くてもアウトプットの量は知れています。スマートフォンでできるのはやはり画期的です。

言葉よりも感じてもらう

秋葉:当時問い合わせをしてきた人たちは、会社としてというより、会社の中のある意味アーリーアダプターな人たちですよね。この人たちが社内でTeachme Bizを導入しようとするところにまたハードルあるわけじゃないですか。鈴木さんたちも一緒に何か手を打ったりしたのですか。

鈴木:初期はほとんど何もできなくて、お客様の社内説得力に期待するしかありませんでした。その時私たちが力を入れていたのは、「言葉よりも感じて」もらうことです。良いお客様が生まれたら、それを事例にして、「この状態がこんなふうになりました」と2分ぐらいの動画を作ります。それをお客様に渡して、社内で見せてもらって、「こうなりたい」と感じてもらうのです。それを量産していきました。そのような事例が今では120本ぐらいあります。

秋葉:それこそ紙の資料を配るよりも圧倒的に効果ありますね。

鈴木:悩みを持つ人に「こうなりたくないですか?」と、まずはなりたい姿を見てもらう。「どうやってやるの?」「Teachme Bizです」と。機能についてあれこれ言うより、これが一番早いです。

秋葉:鈴木さんが直接説明した人は分かってくれるかもしれないけれど、その人が社内で説明して伝わるかというとそうじゃない。だったら皆に同じように感じてもらったほうがいいと。

鈴木:それが私たちにとって一番の成長のドライバーだったと思います。その背景となったエピソードをお話しすると、銀座のアップルストアで、アップルがBtoB向けサービスのプレゼンテーションの場を作ってくれたことがありました。私も登壇したのですが、そこで見た他社の動画がめちゃくちゃ格好良くて、分かりやすかった。製品を使うことでどんな生活が待っているか紹介していて、これだ!と思いましたね。「このアプリを使うことでどんな体験ができるのか」を見せることが肝心です。すぐに動画を作り始めました。今でも毎年10本から20本くらい作っていて、良いお客様が出てきたらすぐに取材動画を撮りに行きます。初期はこれが効きました。

秋葉:認知度は上がったでしょうね。一方で環境も変わってきています。鈴木さんが始めた頃より動画マニュアル自体の認知が上がり、皆のアレルギーがなくなってきて、それをどう使えるかのフェーズになってきている中で、他との差異化はどうお考えですか。

鈴木:大きく二つあります。シングルプロダクトで勝負するという意味では、マニュアル作りはお客様の業務のたった一つでしかありません。そこで、付随するいろいろな悩みごとにトータルに対応できるようにするため、われわれは「ホールプロダクト宣言」を掲げています。一つのソフトウェアを導入するとそれに付随する困りごとが見えてくるので、そのすべてに手を打っておくのです。単なる一つのソフトウェアだけでなく、いろいろな面でサポートをすることができます。例えば、マニュアル作成を代行してほしい、作ったマニュアルをチェックしてほしい、マニュアルを使って人材教育をしたいのでカリキュラムを作ってほしい。これ全部できます。そういったことを先回りしてやっておく。今は端末レンタルの話もあります。
Teachme Biz自体の差異化ももちろんあります。マニュアルというのは、変わっていくものです。そうすると、一つの固まりの動画をただ共有するだけでなく、動画の一部分を変えたいというニーズが出てきます。ところが動画の編集は大変な作業です。また、ある手順を知りたくて、10分の動画の3分50秒のところだけを見たい場合、早送りしたり巻き戻したりしなければなりません。作るのも大変、見るのも大変というのは、動画マニュアルの最大の欠点です。だったらステップ構造にしたほうが絶対にいい。ステップ1・2・3というかたちで、全部を動画にする必要はないので、ステップに対して動画ないしは静止画を当てはめていって、部分的に更新できるようにすれば、見たい手順を見に行けます。私は前職の経験からそれが分かっていたので初めからそうしていますが、中には動画だから一つの固まりだと思い込んでしまい、一発撮りするのは大変だという声も届きます。Teachme Bizはパーツ撮りで、ステップに切り分けます。

人口減少社会でどう生き残っていくか

秋葉:今、ソフトウェアを導入した先にある困りごとにも対応するというお話がありました。スタディストさんと北海道の自治体との取り組みもまさにそうですね。

鈴木:2020年に北海道石狩市役所にTeachme Bizを導入していただき、業務及びシステム利用における手順書の整備実験を行いました。自治体の悩みは、2~3年ごとに部署の異動があって、その度に引き継ぎをしていることです。この引き継ぎは属人化したものです。日本全国の自治体で3年おきに引き継ぎが起きていて、その都度時間がかかったり、正しく伝わらなかったりするのは社会的損失です。

秋葉:当たり前ですが、引き継ぎや入社、現場が変わるなど、マニュアルを必要としているのは人ですよね。その人が足りなくなっている中で、教育のしやすさ、教育制度、教育のスピード感等を考えた時、やっぱり紙より圧倒的に動画です。ビフォーアフターのように、そこの効果を測る手段はあるのですか。

鈴木:ずっと張りついて教えなくてもよくなった。問い合わせの件数が減った。それで余剰な時間が生まれて、もっと違うところに使えるようになった、というのが大きな効果です。
日本は今1億2000万人の人口で、それが減ると騒がれていますが、私は正しい道のりを歩んでいると思っています。明治時代の人口がどれくらいだったか知っていますか。

秋葉:どれくらいだったのでしょう?3000万人ぐらいですか。

鈴木:私も調べて驚いたのですが、3300万人しかいませんでした。そこから大きく人口が増えていくわけですが、その後は人口が増える前提で業務のシステムやルール、対応できることを決めてしまいました。

秋葉:いろいろなところでその歪みが出ていますね。

鈴木:人口が増える前提にしたものを増えない前提にしなければなりません。それには今まで昭和時代に作ってきた業務プロセスを変えて、まずは要らないことはやらないようにする。それで労働賃金が上がっていけば、当たり前のこととしてどんどん転職していく時代が日本にくると思います。そうするとスポット的に働く人が高回転して、毎回教えるのは難しくなります。私たちのニーズはそこにあると思っています。人口8000万人社会になって、労働市場をもっと高回転させるようになる。それが普通になれば、人は賃金が良いところに行きますよ。

秋葉:教える側が1人ひとりに教えるには、シリーズで教えるか、教える側の人数を増やすしかありません。その時、きちんとしたマニュアルで、なおかつアップデートが簡単にできる動画マニュアルがあれば、教える側の人も少なくてすみます。それは大きいですよね。

鈴木:それに、流派が生まれなくなります(笑)。教える人によって言っていることが違う状態から、ひとつに決めて、それをアップデートしていって、それで作業展開するのが、一番効率が良い。古い情報が残っている紙のマニュアルをそのままデジタル化しようとするのも良いやり方とは言えません。不要なプロセスをまず削ぎ落として、標準化して、マニュアル化して、現場展開しないといけません。ペーパーレスなどはそのあとの話です。

秋葉:そういう意味ではDXでも同じような話が出てきますね。元々の仕事のプロセスが変わっていないのに、何か仕組みを入れたらできるみたいな。

鈴木:昨日お客様にシステムを紹介していて、これこそDXだと感動した話があります。いきなりシステムを導入するのではなく、まず習慣をつける。習慣がついてそれを楽にするという段階が来た時にシステムを入れたい、というお話でした。「お待たせして申し訳ないけれど、段階を踏んでいるから」と言われて、「絶対にそっちのほうがいいです。いきなりシステムを入れる必要はないです」という話をしました。そういう人がもっと増えてほしいですね。

秋葉:今もまだ業務プロセスをきちんと見直すことができない人たちが大勢います。

鈴木:「これが本当に付加価値を生んでいるの?」という仕事をやめられない人が大勢います。「ずっとやっていたから」とか、「経験ないから」とか、そんなことを言っていたら人口が4割減る社会では生きていけないと思います。

秋葉:人手不足が顕著に現れるのはやはり中小企業です。大手だけでなく中小企業も含めてのアプローチはどうされていますか。

鈴木:かなり注力しています。特に地方は人が減るので、今いる人材の能力を上げなければいけない。マルチワーク、マルチスキルで、複数の仕事をやってもらわないといけない。今は技能実習生が円安で来づらくなっていますが、そこでも教える機会が増えると思うので、地域の銀行と連携して、こういうやり方がありますよとご案内しています。

秋葉:立ち位置は違うけれども、地域の銀行も自分たちのお取引先様の経営の安定化や事業の継続性を考えたときに、人がいなくなるという恐怖がありますよね。

鈴木:地方はいよいよ本格的に来たな、という感じがします。

秋葉:地方に行くと切実に感じます。今は円安の影響もありますが、日本の労働賃金は安いわけです。1人ひとりの生産性は高いはずなのに、企業全体としての生産性が高いわけではないことを考えると、そこは見直されるべきだし、個人の収入ももっと上がるべきです。
例えば、円安になって、「家族3人でハワイに行って朝食を食べたら1万円くらいだった」という話をよく聞きます。確かにとんでもない値段なのですが、1ドル100円になったとしても、1万円が2000円、3000円にはなりません。ということは、やっぱりもらっている給与が少ないと気づかないといけない。
北米やヨーロッパの物流センターの中で働いている人たちは、年収700万円くらいになります。さらに権利に対しての主張が強いので、生産性が低いにもかかわらず不平不満を言う人もいます。その人たちと比べてロボットを入れたほうがいいというのはとても簡単な理屈です。一方日本では、それほどの年収ではない人たちが非常に高い生産性で品質の良い仕事をしてくれています。このような人たちと比べてロボットを入れると「コストが高い」となるわけです。これはハワイでの朝食の話とまったく同じだと思います。
そうであれば、自分たちの給料を上げることを前提にした時にどちらがいいかという話であって、人にはもっと稼げる仕事をしてもらう必要があるわけです。もっと活動できる可能性のある個人がいるのであれば、企業はその能力を最大限に引き出してあげなければならないし、その仕組みの一つがTeachme Bizなのだと思いました。

鈴木:最近スーパーの方から聞いた話ですが、新卒採用を募集しても、これまでの何十分の一のレベルでしか応募が来ないそうです。新卒で人材を確保する時代は終わって、今はスポットワーカーに頼っているということでした。そのスーパーではTeachme Bizを導入して標準化しているので、入れ代わりにいろいろな人が来ても、動画マニュアルを渡せば、何をするかすぐに分かってすぐに仕事ができます。しかし、何もないとひたすら店長が教えなければならないので、非効率で、せっかくの労働力を活かすことができません。この差が如実に出ています。
だからこそ私はTeachme Bizは社会的に重要だと思っています。手順の標準化が最も大事です。手順の標準化をして、スリム化して、それを伝える媒体としてTeachme Bizを使う。それでさらにより良い手順に変えていく。これがきちんとできる会社が生き残っていくと思います。

過去のトークセッション

土地活用ラボ for Biz アナリスト

秋葉 淳一(あきば じゅんいち)

株式会社フレームワークス会長。1987年4月大手鉄鋼メーカー系のゼネコンに入社。制御用コンピュータ開発と生産管理システムの構築に携わる。
その後、多くの企業のサプライチェーンマネジメントシステム(SCM)の構築とそれに伴うビジネスプロセス・リエンジニアリング(BPR)のコンサルティングに従事。
2005年8月株式会社フレームワークスに入社、SCM・ロジスティクスコンサルタントとしてロジスティクスの構築や改革、および倉庫管理システム(WMS)の導入をサポートしている。

単に言葉の定義ではない、企業に応じたオムニチャネルを実現するために奔走中。

コラム一覧はこちら

メルマガ
会員登録

注目
ランキング

注目ランキング